ペンギンというと南極にいる動物、というイメージが強いでしょう。白い雪原にペンギンの図、というのはよくみられるものです。しかし、実際にはもっと暖かい温帯地域にもペンギンは生息しています。南米大陸、南アフリカ、オーストラリアなどでペンギンを見ることができます。雪氷ではなく、砂の海岸でペンギンを見ることができるのです。ペンギンは18種も種類があり(異説あり)、それぞれが生息地域に適応しています。純粋に南極大陸に生息しているのはコウテイペンギンとアデリーペンギンの2種だけです。
ただし、南極以外の温かい地域でも、ペンギンが生息するのは寒流が流れる地域だけ、という特徴もあります。
もうひとつ重要なことは、ペンギンは南半球だけに生息していることです。ですから北半球諸国にペンギンが知られるようになってから300年ぐらいにしかなりません。
ところが、北半球にもペンギンはいたのです。正確に言うと、「ペンギン」という名前のペンギンではない鳥がいたのです。なんだかややこしいですね。
この鳥は日本では「オオウミガラス」と呼ばれています。チドリ目ウミスズメ科に属します。ウミスズメ科にはウミガラス、ウミスズメ、エトピリカ、ツノメドリなどが含まれます。いずれも海鳥で、潜水飛行します。これらは空中を飛ぶこともできますが、オオウミガラスだけは飛べませんでした。
オオウミガラスの学名は「Pinguinus impennis」。そう、「ペンギン」という名前だったのです。生息地は北大西洋から北極海でした。
オオウミガラスについて過去形で説明をしていますが、その理由は絶滅してしまった動物だからです。オオウミガラスは19世紀半ばに絶滅してしまいました。絶滅の原因は羽毛や脂肪を目的に大量に捕獲されたためでした。
オオウミガラスの外見はペンギンにとてもよく似ています。大きなくちばし、直立した姿勢、水かきのある短い脚。おまけに、白黒模様もペンギンそっくりです。よく見ると、翼の形はペンギンよりも鳥っぽいのが特徴ですが、飛ぶための羽毛はありません。
ペンギンはペンギン目に属しますので、オオウミガラスのチドリ目とはまったく別の系統です。地球の北と南で別々の進化をたどった鳥が似たような外見になったというのは面白い現象です。どちらも潜水して食べ物を得るという生態に特化した結果、同じようなフォルムになってしまったということです。
北大西洋に生息していたオオウミガラスは古くからヨーロッパでは知られていた鳥でした。つまり、オオウミガラスこそ「元祖ペンギン」だったのです。後にヨーロッパ人が世界の海に進出していった時に、南半球でオオウミガラスそっくりの鳥を発見し、それらも「ペンギン」と呼ぶようになりました。ペンギンは遅くとも18世紀には欧米で知られていたそうです。ですから、(南半球の)ペンギンが知られるようになってからオオウミガラスが絶滅するまでの100〜200年ほどの間、南北両半球で「ペンギン」が同時に存在する、ということが起きていたのです。もっとも、系統の違う両者を同じ名前で呼ぶのはちょっと無理があることです。
ですが、北半球のオオウミガラスは絶滅してしまい、「ペンギン」の名前を受け継いだのは南半球のペンギンたちでした。
動物園・水族館やテレビなどでペンギンを見ることがあったら、かつて北半球にいた「元祖ペンギン」のこともちょっと思い出してください。
ところで、実は現在も北半球にペンギンが生息しています。動物園・水族館にいるペンギンのことではありません。オオウミガラスが復活したのでもありません。
ガラパゴス諸島は太平洋東部の赤道直下にある島々です。ここにはガラパゴスペンギンというペンギンが生息しています。赤道直下にペンギンがいるというのは不思議にも思えることですが、ガラパゴス諸島には南から寒流であるペルー海流が流れてきています。そのため、赤道直下の割には気候も涼しく(といっても暑いことには変わりないのですが)、ペンギンでもなんとか生息していられるのです。
ガラパゴス諸島は南北両半球にまたがる位置にあります。ですから、ガラパゴスペンギンも赤道をまたがって南北両半球に生息しているのです。北半球といっても、赤道からほんの数十kmの範囲内のことですけどね。