Vol. 469(2009/11/8)

[今日の事件]動物園からサル脱走事件

動物が逃げたら罪ですか?

名古屋市の東山動物園で、2009年10月、ニホンザル1頭が脱走するという事件がありました。この事件、東京では詳しく報道されなかったのですが、asahi.comによると次のような経緯でした。
2009年10月13日午前、ニホンザル1頭が新しいサル舎(当時、未公開)の鉄柱から壁にジャンプし、サル舎の外に脱走しました。鉄柱と壁との距離は4.35mとのこと。この日は休園日でした。脱走したニホンザルは18日、サル舎から約300m離れた森に設置したワナに捕獲されました。
脱走以上の大事件を起こさずにすんだわけですから一安心です。

動物園から動物が脱走するという事件はあまり聞いたことがないでしょう。ネットで調べると、
2007年4月、天王寺動物園(大阪市)からチンパンジーが園内脱走、
2008年2月、城山動物園(長野市)からヤクシカが脱走、
2008年3月、河北町児童動物園(山形県)からニホンザルが園内脱走、
2009年4月、千葉市動物公園からアフリカハゲコウが脱走(これはテレビでも放映された)
といったニュースを拾うことができます。
日本国内には現在100以上の動物園があり、それぞれに多くの動物が飼育されていることを考えると、脱走事件の発生率はかなり低いのではないかと思われます。

脱走事件が非常に少ないのは、動物園側がこの問題に非常に配慮しているからです。そもそも構造上、動物は脱出できないように作られているものです。
檻で囲うのは最も基本です。その檻も、鉄柵の間隔や強度を考慮しています。檻が無い場合でも、深くて幅がある堀を巡らしたりしています。また、高い壁で囲い、人間は上から見下ろすというのもよくある展示方法です。上野動物園で言うとサル山がそうですね。
強化ガラス(それともアクリル?)で間近に観察できるようになっていることも最近は多いです。遠くから見るよりも目の前で見る方が迫力がありますから、お客さんにも大人気です。これも強度を考慮していますので安全性は十分です。
動物園側も、動物の体力や運動能力を知った上で展示施設を作っていますし、脱走事件は教訓として残されているはずですからそうそう簡単に脱走されることは今の日本ではほとんどありません。
しかし、今回の事件のようにスーパーアスリートのような個体がたまにいたりすると、想定外の脱走が発生することがあるわけです。あるいは、飼育員の不注意で動物が隙を見て逃走することがあります(これは二重扉でたいてい防げているはずです)。

ところで、今回のニホンザル脱走事件はマスコミ沙汰にはなりましたが警察沙汰にはなっていないようです。
飼育動物についての法律は動物愛護法です。動物愛護法は動物を飼育するあらゆる施設が対象になり、当然、動物園も対象です。
動物の飼育方法については第31条がそれに当たりますが、「細かいことは環境省令で決めとくからね」とあいまいな書き方しかされていません。結局、脱走やその他の違反には何らかの罰則はあるものの、その詳細までは同法では決められていないようです(第48条)。(法律の文言の意味するところが非常にわかりにくいため、専門家の解説を求めたいところです。)
今回の事件でも、少なくとも愛知県(動物愛護法は都道府県が直接管轄する)から何らかの指導や命令が必ずあったはずです。

今回の脱走事件では他に何事も起こらずに解決しましたが、もし人間を負傷させたりしたら、これは確実に警察沙汰になります。上で紹介した河北町児童動物園では、脱走ニホンザルが入園客にかみつき、けがをさせています。報道によれば、業務上過失傷害容疑事件として調べられたようです(その後、起訴などに到ったかどうかは不明)。つまり、脱走動物が人間を負傷させれば業務上過失傷害、人間を死亡させれば業務上過失致死となり、管理者である動物園の責任が問われることになります(刑法第211条)。
業務上過失というと、自動車事故が一番身近でしょうが、それと同じ扱いになるわけです。
人間に被害があるかないかで罪の種類がこうも違ってしまうのは変な感じもしますが、法律というのは人間に対してのものであるため、このようなことになっているのも理解できないことではありません。

ただ、法律上のことを別としても、動物が脱走するというのは動物園にとっては非常に不名誉な事件です。動物園は、入園客や近隣住民に対して安全であるということが大前提だからです。簡単に動物が脱走できるようでは近隣住民に非情に不安を与えますし、お客は来なくなるでしょう。もしこれが猛獣だったら外出禁止命令さえ出る大事件になってしまいます。
だからこそ動物園は安全対策には気をつかっており、それが脱走事件発生率の低さにつながっているわけです。私たち入園客はそういった動物園の努力についてほとんど気づいていないでしょう。もし動物園に行く機会があったら、「動物が脱走できない仕組み」に注目して観察してみてください。動物園の苦労や努力が見えてくることと思います。


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