[今日の事件]宮城県大崎市カンガルー出没事件
最近一部のメディアで取り上げられた不可解な動物事件があります。東北のある場所で何年も前からカンガルーが目撃されているというのです。
記事からその概要と手がかりになる証言をまとめてみましょう。
・場所は宮城県大崎市のある地域。
・2002年ごろから目撃されていた。
・体長1〜1.5m。
・親子2頭いる。
・夜に行動する。
・カンガルーが車を追い越した。
・カンガルーが横座りしていた。
まず、証言から動物の正体について考えてみましょう。
カンガルーは動物園やテレビなどで見る機会もあり、またその独特の姿や走り方などから、他の動物を見間違えたという可能性は低そうです。ですので、カンガルー科約50種(ネズミカンガルー、ニオイネズミカンガルー類を含む。ワラビーやワラルーもカンガルー科)の中のどれかと考えられます。
「体長1〜1.5m」とされていますが、これが学問的な意味での「体長」と同一であるかどうかは疑問です。学問上では「体長」とは「頭胴長」のことで、文字通り頭と胴体の合計長です。これには尾の長さは含まれません。尾までも含む場合は「全長」と呼ばれます。また、カンガルーは後脚で直立した姿勢をとりますが、その高さは「頭高」とでも呼ぶべきものであり、「体長」とは一致しません。目撃証言では頭胴長、全長、頭高が混乱していると思われ、実際の大きさの推測には役に立ちません。
ただ、カンガルーが自動車を追い越したとすると、時速40km以上で走ったことになります。大型のアカカンガルーやオオカンガルーは時速60kmを出した記録があるので、これはあり得る話です。ただ、走行速度は体の大きさに比例すると考えられるため、ある程度の大型のカンガルーであることがここからわかります。
最大のカンガルー、アカカンガルーは体長75〜160cm、尾長65〜100cm、オオカンガルー(オス)は体長54〜120cm、尾長43〜110cmです。ここから類推すると、頭胴長1m前後ならば自動車を追い越すことはできそうです。これに該当するカンガルーは大型の種のようです。
夜行性ということについては疑問はありません。今回のことで初めて知った方もいるかもしれませんが、カンガルーは主に夜行性です。
カンガルーというとだだっ広い乾燥地帯を走る姿を思い出される方は多いでしょうが、森林にすむ種類もいます。
カンガルーが東北地方の冬を越せるかどうかには議論があります。が、例えばオーストラリア大陸の内陸部は昼夜の寒暖の差が激しく、夜はかなり冷えるはずです。寒さに対してはそれなりの耐性があると考えていいでしょう。ほら穴や樹洞など、寒さをしのげる場所さえ見つければ越冬もできるのかもしれません。
ところで、カンガルーはそんなに簡単に輸入できるものなのでしょうか。
そもそも野生動物の国際商取引を規制するワシントン条約の対象になっているのではないでしょうか。そう思って調べてみたところ、絶滅の危機になっていない限り、ワシントン条約の対象にはなっていないようです。許可を取ることさえできれば輸入は可能なのです。
この事件の真偽がはっきりしないのは、証拠となるものが無いためです。何年も前からいくつもの目撃があるのに、写真やビデオといったものが出てこないのは不思議なことです。
もっとも、撮影ができないのは夜行性のためかもしれません。夜間の撮影はプロでも難しいものです。普通のカメラを普通の人が撮るのではいい写真は撮れないでしょう。ビデオカメラも真っ暗な場所では役に立ちません。
ですが、カメラもビデオカメラもけっこう普及している現在、まったく写真・ビデオが出てこないというのも奇妙なことです。カンガルーの存在が疑われるのはそのためであり、実在を証明するには写真・ビデオは不可欠です。
もしカンガルーが実在する場合、どう対処すべきでしょうか。
「放置してもいい」というのは無責任です。このままにしておいて、観光に利用しようとする動きがあるようですが、それはやめるべきです。
外来生物はその場所に本来いない生物であり、自然環境に対してどのような影響を及ぼすか予測できません。2頭がつがいならば繁殖のおそれもあります。早い段階で問題を解決すべきなのです。
カンガルーは外来生物法の対象ではないので捕まえる必要はないとも言えますが、それはこれまでに例が無かったからにすぎません。外来生物はいてはいけない、ということを示すためにも捕獲すべきです。
ただ、実際に捕獲するのは困難かもしれません。広い面積の中のたったの2頭を捕まえるのは非常に難しいからです。正体をつかみ、生態や行動パターンを調べ、さらに時間と労力をかけてようやく捕まえられるでしょう。行政がそこまでやってくれるかどうかは疑問です。
この問題、何も正確なことはわからずにうやむやになってしまいそうな予感がします。