Vol. 494(2010/9/12)

[今日のいきもの]外来種アカボシゴマダラ

タヌキのフンにチョウが来る?

今年度、私は23区内某所で継続的にタヌキのためフンの調査をしています。残念ながら管理者からの要請でその場所を公表することはできませんが…。

さて、ある日の調査の時のことです。いつものようにためフン場に来てみると
きれいなチョウがためフンを吸っているではありませんか。すかさず私は写真を撮りました。

このチョウは間違いなくタヌキのフンを吸っています。チョウというときれいな花にやって来て蜜を吸うイメージが定番です。ですので、フンに集まるなんて信じられない!! このチョウは特別なチョウなのか?! と考える方はとても多いでしょう。ですが、これは異常でもありませんし特別でもありません。

チョウの口は細長い形をしています。その構造からもわかるように液体を吸うことしかできません。固形物を食べることは不可能なのです。この時のフンはちょっとどろどろした感じになっていました。この状態ならチョウは吸うことができるようです。
いや、それ以前にフンなんておいしいのか? 栄養なんかないんじゃないか?という疑問もあるでしょう。フンは動物の消化器官を通過したものですから栄養は既にしぼり取られているものという誤解がありますが、実際はまだまだ栄養が残っています。動物の消化器官は完全に栄養を吸収できるわけではないのです。
フンに集まる甲虫、いわゆる「糞虫」(コガネムシの仲間でフンコロガシやダイコクコガネなど)は珍しくありませんし、上の写真のようにダンゴムシも集まってきます。
このことから、体の小さな昆虫などを養うには十分な量の栄養があると推測できます。チョウがやって来ても不思議ではないのです。

ちなみにチョウは地面を吸うこともあります。例えば土が露出した田んぼに降りて土(正確には土壌中の水分)を吸っている姿を見たことがあります。また、舗装道路にまいた水にチョウが来たこともあります(私が見たのはいずれもアオスジアゲハでしたが、他のチョウでも同様のことをする可能性はあります)。
「チョウ=花」という公式はだいたいにおいて正解ですが、それ以外の解答も実はいろいろあるのです。フンに来たからといって異常事態とは言えないのです。


さて、もうひとつ気になるのは写真に写っているチョウの正体です。なかなかきれいな色の中型のチョウです。家に帰ってネットで調べてみたのですが、それらしいチョウはすぐには見つけられませんでした。これが珍しいチョウだとは思えません。それに国内のチョウは研究しつくされていますので必ずデータがあるはずです。
模様からはゴマダラチョウを思わせます。後翅に突起がないのでアゲハの仲間ではありません。黄色系のタテハチョウの仲間も除外してしまっていいでしょう。小型のシジミチョウ類も除外できます。
そうして調べていくと、このチョウはアカボシゴマダラであることがわかりました。ゴマダラチョウを思い浮かべた最初の直感はやはり当たっていたのです。
このアカボシゴマダラについてはちょっと面白いこともわかりました。アカボシゴマダラは東アジアでは普通に見られる種ですが、日本では奄美大島とその周辺にしか生息していないチョウです。道理で見かけないチョウだと思ったわけです。
そのアカボシゴマダラが1995年に突如、埼玉県に現れました。次いで1998年には神奈川県に現れます。2006年には東京都でも発見されました。しかもこのアカボシゴマダラは中国大陸産の亜種とされています。
中国のチョウが唐突に関東にだけ現れたのは非常に不自然なことです。そのため、これは人為的に放されたのではないかと考えられています。

このアカボシゴマダラは外来生物法では「要注意外来生物」に指定されています。要注意外来生物とは、注意が必要な外来生物という意味で、すぐに駆除が必要とされる「特定外来生物」よりは緩い扱いです。
アカボシゴマダラについては、そもそも植物防疫法で輸入が禁止されていますので、外来生物法で重ねて規制する必要性が低く、要注意外来生物のランクに指定されているわけです。ですので、「あまり心配しなくても大丈夫」ということではないのです。
アカボシゴマダラが自然環境に及ぼす影響としては、似た生態の在来種ゴマダラチョウを駆逐していく可能性があると考えられています。
(植物防疫法が対象とする無脊椎動物のリスト(一部)は植物防疫所のホームページをご覧ください。植物害虫はこのリストに含まれるものと考えた方がいいでしょう。チョウも幼虫は植物食ですので、無害とは言いきれないのです。)

※アカボシゴマダラについての参考ホームページ

神奈川県立生命の星・地球博物館「侵略とかく乱の果てに・神奈川の移入生物」

さくちゃんの生きものだより「さまよえるアカボシゴマダラ」


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