Vol. 514(2011/4/17)

[OPINION]東日本大震災・被災地のペットを救うべきか?

4月上旬、ネットの片隅である論争が発生しました。
4月6日、佐賀県武雄市は東日本大震災で被災したペットのイヌを受け入れる構想を発表しました。
これについてソフトバンクの孫正義社長がTwitterで賛同する意見を発言しました。
すると池田信夫氏が「行方不明がまだ1万人以上いるのに、犬の心配してる場合じゃないでしょ。」とTwitterで発言しました。さらに池田氏はブログでもペット救出を非難する文章を掲載しました。
この論争は各所で話題になったもののあまり広まることはなかったようです。

私(宮本)の見解は、(「いきもの通信」の読者の方なら既におわかりと思いますが)被災ペットの救出・救援には賛成です。


まずこの論争のきっかけとなった武雄市の考え方を確認しましょう。
武雄市のホームページには次のように掲載されています


「武雄被災ドッグ(ペット)受け入れ構想の記者会見を行いました」
 平成23年4月6日(水)、市民団体と武雄市は、東日本大震災で被災したペットの犬を受け入れる「武雄被災ドッグ(ペット)受け入れ構想」を発表しました。
 武雄市では、3月11日(金)の震災発生直後から、「武雄タウンステイ構想」に基づき義援金の募集や備蓄物資の提供など、被災者、被災地の皆様への支援に取り組んでまいりました。
 そうした中で、ペットを飼っていた被災者の方々が、避難所へのペット同伴を禁止され困っておられること、飼うことができなくなったペットが被災現場に放置され、そのまま命を落とすケースが報じられるなど、ペットを助ける仕組みの必要性が課題となっています。
 そこで、市内のNPO団体を中心に被災した飼い犬の受け入れを行う「武雄被災ドッグ(ペット)受け入れ構想」に取り組むこととしました。

被災ドッグを当面100頭受け入れる
被災ドッグの受入ボランティアを呼び掛ける
期間については概ね1年とする


まず確認しておきたいことは、武雄市の支援活動はペット受け入れ以前にもいろいろなものがあったということです。
また、ペットの受け入れ先は市民ボランティアであり、公共施設を使用するものではありません。
ホームページにははっきりと書かれていませんが、ペットの移送・受け入れの実務はおそらくNPOが行うのでしょう。武雄市役所は情報収集や被災自治体との連絡などの部分を受け持つのだろうと推測されます。お役所がペットの扱いに慣れているとは思えません。NPOと分担しながら活動するのは悪くない判断です。

なぜ被災地でペットが問題になるのでしょうか。それは武雄市の構想にも書かれていますが、避難所の中へペットを入れることが禁止されていることが多いこと、飼い主とはぐれたペットがいるからです。
避難所の中にペットを入れない、というルールは理解できるものです。避難者の中には動物嫌いな人もいるでしょう。動物アレルギーの人もいるでしょう。ペットも不安を抱き鳴いてしまうことがあり、それをうるさく思う人もいるでしょう。そのため、ペットたちは屋外につないでおくことになります。慣れない環境で飼い主から離れ、見知らぬペットたちといっしょにいなければならないというのはかなりのストレスになります。そんなペットをかわいそうに思う飼い主の中には、自家用車の中でペットといっしょに寝起きする人もいるといいます。狭い車内で生活すると今度は飼い主の健康にも問題が発生するおそれがあります。
仮設住宅へ転居するとしても、そこでもペット禁止の可能性があります。また、生活再建のためペットを手放さなければならない人もでてくるでしょう。
このような状況下、ペットを一時預かったり、引き取り手を見つけたりするということは意味がある活動です。しかし行政当局にはその余裕がありません。この状況では仕方のないことです。そこで民間団体の出番となります。現在、被災地では現地の団体、日本各地の団体がペット救出に動いているというニュースがわずかながら伝えられています。

さて、武雄市に話を戻します。
武雄市の構想に難点があるとすれば、武雄市は被災地から遠すぎることです。さすがに東北から見ると佐賀は遠すぎますよね…。飼い主が躊躇する可能性は高いでしょう。実際に受け入れることになるペットの数は少ないかもしれません。それでも武雄市の行動には意味があります。「ここにもペットのことを思っている人たちがいるんだよ」というメッセージでもあるからです。このメッセージに勇気づけられる被災者もいるでしょう。私も手伝いたいという人が増えるかもしれません。
被災の現場では、ペットの優先順位というものは低くなってしまいがちです。しかし放置していい問題ではありません。


さて、池田信夫氏の発言についてはどうでしょう。
池田氏のブログでの発言の一部を引用してみましょう。


まだ行方不明が15000人以上いるということは、救援・捜索活動の手が足りていないということだ。被災地でもペットを施設に収容する話が美談として伝えられているが、ペットを救う余裕があるなら一人でも多くの人間を救うのが先であり、野犬化する犬は処分すべきだ。行政がその優先順位を混乱させるような指示を出してはいけない。


行方不明者が1万人以上もいるのは事実です。4月16日の数字でも14175人となっています。震災から1ヶ月以上もたつというのにこれだけの人数が不明であり、この数字が劇的に減少する見込みもありません。この現実は非常に重いものです。
しかし捜索作業にもっと人員を割くのが正しいのかどうか考える必要もあります。普通の人でも探せるような場所ならば既に捜索は終わっていることでしょう。これから探さなければならない場所は、大規模建築物の倒壊場所や海中であり、相当の技術を持った人でなければ作業ができないでしょう。それならば、捜索はそういった人たちに任せるべきであり、他の人たちは別の作業に回すべきです。
別の作業、それは被災者の支援です。その内容は非常に多岐に渡ります。食料調達、燃料運搬、道路の補修、鉄道の復旧、仮設住宅の建設、医療活動、学校の再開、上下水道の修理、電気・ガスの復旧、ガレキ除去・運搬、などなど…。とにかく多くのものごとが同時に、いっせいに必要とされているのです。その中には、ペットの問題も含まれています。

池田氏の意見は的外れです。もしこの文章が震災発生1週間以内のものなら確かにその通りでしょう。しかし、このブログの日付は4月7日、震災から4週間たとうとしている時のものです。この時点では捜索だけでなく、被災者の生活支援の充実も必要とされているのは明らかです。また、支援の内容は非常に多くのものがあるのも当然です。そのメニューの中のひとつにペット救援が入っていたとしても不思議ではありません。
私は池田氏がどういう人物かまったく知りませんが、その文章から判断すると「現状把握ができない人」であり「ペットの飼い主の気持ちが理解できない人」であるようです。

「行政がその優先順位を混乱させる」というのも誤解です。武雄市はペット受け入れ以外にもいろいろな支援を行っています。また、ペット受け入れを最優先としているわけでもないでしょう。
「野犬化する犬は処分すべきだ」という意見もちょっと違うでしょう。このような状況なら、まずペットを保護した場合、飼い主を探す努力を優先しなければならず、さっさと処分することはできません。法律上、ペットは所有物ですから、簡単に殺すわけにもいかないのです。ただ、この非常時では特例が設けられることもあるでしょうが…。ただ、行政当局もそこまで手が回らないのは確かです。だからこそ民間団体の活動が期待されるわけです。


ペットのことが大事な人もいれば、ペットなんてどうでもいいという人もいるでしょう。しかし需要があるならば、それを解決する方策を実行することも必要です。ここではペット問題を取り上げましたが、他にも小さな、ささやかな需要というものはあちこちにあるはずです。それを少しでもすくってあげること、それもまた忘れてはならないことだと思います。


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