Vol. 544(2012/6/17)

[今日の事件]それはクマの子?イヌの子?タヌキの子?

2012年6月12日、ひとつの地方ニュースが一部で話題になったようです。
それは、島根県大田市でイヌの赤ちゃんと思って拾った動物が、調べてみたらタヌキの赤ちゃんだった、というものでした。

タヌキの赤ちゃんをイヌの赤ちゃんと勘違いして拾い育てる例は、毎年日本のどこかで発生しているであろう事件です。新聞沙汰になるほどの事件ではありません。少なくとも全国区のニュースにはならないものです。今回はYahoo!ニュースでも取り上げられたためにニュースが広まったようです。ネットは全世界に平等に開かれているので、ローカルニュースがグローバルニュースに変身してしまうことがある、という例と言えます。

さて、こういう事件の時には必ず言及していることですが、野生動物を捕獲するのは鳥獣保護法違反です。たとえタヌキの赤ちゃんを拾い育てるのでも厳密には法律違反となります。ただ、タヌキと知らなかったのであれば、逮捕されることはないとは思いますが…。それでも都道府県の担当部署に相談すべきことではあります。

タヌキの赤ちゃんがイヌの赤ちゃんにそっくりというのは、不思議なことではありません。タヌキもイヌ科の動物なのですから。しかも、タヌキ自身が小型犬サイズであり、体格体型もイヌに非常によく似ているのですから、赤ちゃんがそっくりになるのも無理はありません。
タヌキは生後1ヶ月ぐらいまでは、体色がまっ黒です。タヌキらしい模様が現れるのはその後ですので、たいていの人はタヌキと気付かないでしょう。タヌキ模様が現れれば、さすがにおかしいと気付くでしょう。その時は獣医師などに確認してもらってください。

今回の赤ちゃんはクマとも間違えられそうになりました。まあ、確かにクマの赤ちゃんに見えなくもありません。ただ、さすがにタヌキとクマでは明らかな外見の差があります。

・尾の長さ
 タヌキの尾はイヌの尾のような感じ。
 ツキノワグマの尾はとても短い。ちょこっと付いているような感じ。

・胸の模様
 ツキノワグマは胸に白い模様がある(いわゆる三日月模様)。

・足の指
 タヌキの足の指はイヌと同じ。ツメは前後とも4本。肉球もイヌと同じ。(前足には、イヌと同じように離れた位置に5本目のツメがある。)
 ツキノワグマは前後とも5本指(5本ツメ)。

このように区別はそれほど難しいことではありません。

今回の事件でちょっと不思議なのは、タヌキが見つかったのが田んぼのあぜ道だったということです。タヌキの巣は横穴や樹洞など安全に身を隠せる場所を選びます。田んぼにはそのような場所は普通はありませんので、タヌキの巣には不向きなのです。
タヌキを発見した時、カラスにつつかれていたとのことですので、カラスが巣からさらってきたのかもしれません。

東京都23区では6月後半からタヌキの子どもたちが巣の外に現れるようになります。全国的にもタヌキの子どもたちが巣から出てくるのは初夏の季節です。巣から出る頃にはタヌキらしい模様になっているはずですので、見間違えられる心配はありません。イヌの赤ちゃんと間違えられるのはかなり限られた期間だけに発生する事件なのです。


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