Vol. 552(2012/10/14)

[今日の勉強]キノコがセシウムを集めてしまう理由

いつもは動物を扱っていますが、今回は動物ではない生き物の話です。

西日本では報道されることはほとんどないと思われますが、東日本では現在もキノコから放射性セシウムが検出され、出荷停止になるという小さなニュースがあちこちで続いています。食品関係の中で放射性セシウムが問題になるのは多くがキノコですが、なぜそうなってしまうのでしょう。

それを理解するには、まず最初にキノコの体のつくりから知っておかなければ成りません。
私たちが「キノコ」と認識しているもの——まぎらわしいので以下では「傘」と表現することにしましょう——あれはキノコの本体ではありません。「傘」は正しくは「子実体(しじつたい)」と呼ばれるものです。子実体は植物で例えると花にあたる部分なのです。「傘」は胞子を作りますが、これは花が種を作るのと同じようなことです。
ではキノコの本体はどこにあるのでしょうか。キノコの本体は「菌糸」というもので、とても小さな糸状の構造をしています。これが連なって、地面の中や樹木の内部に広がっているのです。そのため、私たち人間の目にふれる機会はほとんどありません。見えていたとしてもほとんどの人は気づかないでしょう。

「菌」という名前がついていることからもわかるように、キノコは植物ではありません。キノコは植物図鑑に載っていたりすることもあるのでたいてい誤解されていますが、キノコは「菌類」に分類されます。菌類にはカビや酵母も含まれます。「菌」といっても、細菌とはまた別のものですのでご注意ください。
キノコの本体は菌糸ですので、動物や植物とは構造がまったく異なる生物であることは明らかです。また、キノコは葉緑素を持ちませんので、植物に分類されるはずもありません。

ところで、世界最大の生物が何だかご存知でしょうか?
今回の話の流れから予想できるように、それはキノコなのです。ネットで「世界最大の生物 キノコ」を検索するとそのあたりの話があちこちで取り上げられています。
世界最大の生物がキノコだと聞いて、クジラよりも巨大な「傘」がどどーんと屹立している姿を想像してはいけません。そんな「傘」があったらとっくに写真に撮られて世界中に知れ渡っているはずです。
キノコの菌糸は非常に非常に広範囲に広がることがあります。その異常な広がりが最初に報告されたのは1992年のことでした。ある面積のキノコの菌糸のDNAを調べたところ、それらがすべて同一であることがわかりました。つまり、広範囲の菌糸がすべてつながっているということです。同様の調査はその後もあちこちで行われたようで、9km2にまで達する例があるとのことです。つまり、数km四方の地面の下で菌糸がずっとつながっているのです。大きさでは世界最大になるのは当然ですし、おそらく重さでも世界最大級になるのは間違いありません。残念ながらその全体の写真を撮ることは難しいですし、撮れたとしてもそのすごさはまったく伝わらないでしょう。

あらゆるキノコがそんな広範囲に菌糸を広げるわけではありません。また、同じ種類のキノコでも環境などの条件によって菌糸の広がり方も異なってくるでしょう。
それでもキノコは見た目の予想以上に菌糸を広げるものです。「傘」は菌糸が複雑に形作ったものですが、どうやら広がった菌糸から「傘」に栄養を集めているようです。その中にはセシウムも含まれています。植物の根に比べると、キノコの菌糸は地表近くを広がるためにセシウムをより集めてしまうのかもしれません。「傘」が小さい割にセシウムを集めやすいのは、キノコ独特の構造によるものなのです。


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