Vol. 569(2013/9/15)

[今日の事件]アライグマ科オリンゴ属に新種発見

2013年8月16日以降、マスコミ各紙で新種の哺乳類が発見されたとのニュースが報道されました。例えば朝日新聞デジタル版(2013年8月16日)では「新種のアライグマを発見」という見出しで紹介されていました。
「新種のアライグマ」というのは分類学上ではありえません。「アライグマ」という動物は既知の種ですから、そこから新しい「種」はどうやったって出てきません。ですからこの場合の「新種のアライグマ」というのは、つまり「アライグマ科の新種」という意味なのだろうとすぐにわかります。わかりますが、見出しだからこそ正確に書いてほしいものです。たった1字を増やすだけですむのですから。

「科」というのは複数の生物種をまとめたもので、進化の系統では同じ祖先を持つグループです。アライグマ科には私たちがよく知っているアライグマが当然含まれますが、外見は全然違う動物も含まれます。
「属」というのも複数の生物種をまとめたものですが、「科」の下の分類です。
アライグマ科には次の「属」が含まれます。
・カコミスル属
・アライグマ属
・ハナグマ属
・ヤマハナグマ属
・キンカジュー属
・オリンゴ属

どれもあまりなじみがない名前ばかりなのは、これらすべてがアメリカ大陸にのみ生息しているからです。日本語版Wikipediaには「ハナグマ」「ヤマハナグマ」「オリンゴ」の項目がないほど非有名です。
オリンゴ属はこれまでアランオリンゴ、フサオオリンゴ、Western lowland olingo(日本語名無し)の3種が知られていました(古い資料「世界哺乳類和名辞典」では5種が掲載されていますが、近年分類が整理されたようです)。

今回の新種発見の記事をネットで比較すると、ナショナルジオグラフィック(日本語版)の記事が最も良い内容です。
ただ、「テディベアそっくりの丸顔に大きい目が特徴」と書かれていますが、全然テディベアには似ていません。また、「肉食動物」と書かれていますが正しくは「食肉目」です。「食肉目」にはイヌ科、ネコ科、クマ科などが含まれています。純粋な肉食(動物食)は少なく、大多数が雑食です。

なぜこの動物が新種であるということに気付いたかというと、他のオリンゴ属の動物と異なる点があったからです。
まず体格が小さいこと。同じ種の動物でも体格の大小(個体差)はありますが、多くの個体を調べて統計をとってみるとあるグループと別のグループで明らかな差がでることがあります。これはそれらが別のグループであることを示唆しています。また、今回の新種オリンゴは他のオリンゴ属とは生息地が重なりません。これもまた別グループであることを示唆しています。これらだけでは新種だと断定はできませんが、2つそろうとかなり強力な証拠になります。
研究グループは最終的にはDNAを比較して新種と判断したとのことです。

この新種動物の名前は「olinguito」、日本語では「オリンギート」または「オリンギト」という名前がつけられました。学名は「Bassaricyon neblina」です。

哺乳類は体が大きく目立つため、研究はかなりされており新種の発見は難しいと言えます。小型で種類が多い齧歯目(ネズミの仲間)や翼手目(コウモリの仲間)はまだ調べ尽くされておらず、未発見の種が残されているのは確実です。今回のオリンギートのようにある程度大きな体の動物で新種が発見されるのは珍しいことだと言えます。
オリンギートも今になって初めて見つかったわけではなく、標本は数十年前に収集されたものでしたし、過去には動物園で飼育されていたこともあったそうです。新種は密林の奥深くに分け入って見つけるのではなく、手元の資料を調べることでも発見できるのです(その検証には現地へ行って実物を捕獲しなければなりませんが)。


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