「外来水生生物事典」 著:佐久間功、宮本拓海
イラスト:宮本拓海
発行:柏書房
価格:2,940円(税込) ISBN4-7601-2746-1
「共著」の事情
まず最初に、今回の本での私の立場について説明をします。
本書では、佐久間氏と私の共著となっていますが、文章部分は私は一部を書いただけで、実質は佐久間氏の著書だとお考えください。ですので、本書についての取材は佐久間氏の方にお願いします。私が取材に応じるのはイラストについてだけに限ります。ただし、本書を離れれば外来種あるいは外来生物法についての取材は受けますのでご遠慮なくどうぞ。
なぜこのようなことをわざわざ書くのかというと、外来種問題、特にブラックバス問題について、佐久間氏と私とでは立ち位置が異なっているからなのです。ブラックバス問題について言うと、佐久間氏は中間派。つまり、駆除派も擁護派も両極端であり、お互いに妥協できる点を模索すべき、という立場です。一方、私の方は駆除派の最右翼です(右とか左とかいうと誤解を与えかねないのですが、本来の自然環境維持という立場はコンサバ(保守)ですので「右」なのです。しかし現実の政治的には、私のような環境派は「リベラル」と位置づけられ、「右」ではなくなるのです。なんだか複雑ですよねー)。
意見がこれほど違うのになぜ本書では共闘できたのかというと、日本の現在の内水面(淡水)環境に問題があること、そして、ブラックバスだけが問題なのではなく、他にも国外移入種はいるし、国内での移入(例えばアユ)にも問題がある、また、内水面環境の破壊も問題である、といった現状認識の点では見解が一致しているからです。
とはいえ、本書の企画はもともと佐久間氏が持っていたもので、佐久間氏の立場を尊重すべきものです。また、私があまり口をはさむと見解の相違から内容がふにゃふにゃになってしまうおそれもありました。そして、最右翼という立場ながら、私はこの「中間派」の意見を公(おおやけ)に問うのも必要だと考えました。
というような事情から私は背後に引き下がったわけです。本来なら文章を書かなくてもよかったのですが、佐久間氏のご厚意で論争点の少ない哺乳類、爬虫類、両生類の一部を執筆することになりました。こうすると「著者」として私の名前も残るので、私にとってはなにかと都合はいいわけです。と、まあ以上のような経緯がありまして、実は文章の方は私は最後までほとんど読んでいなかったのです。完成した本を読んで初めて全容を確認したところです。いやあ、駆除派にも擁護派にもキツイこと書いてますね(笑)。漁業者や行政にもかなり耳が痛い内容です。ブラックバスや外来生物について知識があまりない方には全体を見渡せる良い入門書になっています。
文章について私がとやかく言うのはやめておきましょう。まずは読んでみてください。「擁護派」や「駆除派」の書いた本よりもよっぽどましかもしれません。最右翼の私でさえそう思うほどですから。役割分担のこと
上記のような事情があったので、役割分担についてはもう少し詳しく書いておきましょう。
文章の分担は以下の種のみです。
哺乳類=ヌートリア、マスクラット
爬虫類=ミシシッピアカミミガメ、カミツキガメ、ワニガメ
両生類=ウシガエル、ニホンヒキガエル私が元原稿を書き、佐久間氏が加筆・補筆をしています。例えば、ウシガエルの項では「ウシガエル釣り」について書いてますが、これはもともと私の原稿で書いたものです。これに佐久間氏がルアーの詳細を補筆してくれました。といった具合で、これらの文章も100%私が書いたというものではありません。それでもマスクラットには好意的な文章だったり、ミシシッピアカミミガメには強い警告を指摘したりしているのは元々の私の文章の趣旨です。
動物植物のイラストは完全に私だけが描きました。あまりの数の多さ、締め切りまでの時間を考えるともう一人別にイラストレーターを招集した方がいいのでは?と早い段階から私は申し出ていたのですが、結局全部私が描くことになりました。まあ、別の人が参加するとタッチを合わせたりしなければならないので大変なんですがね。
表紙カバーは私ではなく装丁のデザイナーさんがデザインしたものです。ですから、左向いたり右を向いたり、大きさばらばらだし、カニは逆さを向いていたりと(私から見ると)今ひとつの出来です(きっぱり)。私のイラストは、光源が左上になるように統一して描いていますから、左右反転したり上下逆では違和感を与えてしまうのです。それでもカバーとしては面白いものだと思います。私がお勧めするのは、カバーをとってしまい、それを額に飾っておくことです。本文がほぼ白黒だけに、このようにして観賞するのが一番良いのでは、と思います(けっこう本気)。
また、口絵のカラーイラストの配置も私は手をつけていません。ご覧になっていただければわかると思いますが、大きさの統一性がまったくない配置になっています。確かに、体長数cmのメダカと体長2m近くにもなるナイルパーチを同縮尺で並べることはできません。それでも、もうちょっと配慮が欲しかったデザインです。オオタナゴ大きすぎ、アオウオ小さすぎです。
イラストのこと
さて、ここからは私のメインの仕事だったイラストについて書きましょう。
今回のイラストを見ていただくと、前回の「動物の見つけ方、教えます!」とは異なった描き方をしているのがおわかりかと思います。前回とだぶっているのはミシシッピアカミミガメとニホンヒキガエル(アズマヒキガエルとは亜種の関係)だけですが、これらを比べてみるだけでもよくわかるかと思います。輪郭線を使わない描き方を採用し、描き込みも精密になっています。
ここまで描くとなると、どんなにがんばっても1日1種を描くのが限界です。時にはそれ以上の時間がかかることがありました。一番時間がかかったのはワニガメで、4日がかりの作業でした。4日間まるまるワニガメばかり描いたわけではありませんが、とにかくパーツが多くてやたらに手間のかかる動物でした。逆に速かったのは貝類で、2日で6種を描いてます。前回の「動物の見つけ方、教えます!」も1日1種ペースだったのですが、実際はもう少し速く描いていましたし、文章に目を通したり、外出する余裕がありました。今回はそんな余裕もない大変さでした。「かがくる」の仕事も泣く泣く断ったりしましたし…。
最も心配だったのは、私は「水の人」(水商売という意味ではなく、水中生物の専門家ということ)ではないため、魚類を描いた経験が乏しいということでした。さらに植物は私の守備範囲ではありません。正直、写真資料をいろいろ並べてもよくわからないことばかりでした。それでもそれなりに仕上げる、それがプロの仕事です。詳しい人から見ると穴だらけかもしれないのは確かです。やはり本物を手に取って観察しないといい絵は描けませんよね。魚よりも爬虫類や哺乳類の方がよく描けているとすれば、それはやはり観察経験と知識の差が出ているということです。
イラストをよく見ていただければおわかりになると思いますが、魚は鱗もきちんと描いてあります。魚の場合、側線鱗数(側線に沿った鱗の数)とか、条・棘(ひれの中の線状の構造物)の数がはっきりとわかっており、そういった数字が種の同定にも利用されるほどです。そのため、これらの数字を調べてその通りに描かねばならないという苦労がありました。側線鱗数が200を超えるとさすがに省略していますが、一見すると鱗が見えないハクレンもちゃんと鱗を描いてますので、よ〜く目をこらして見てください。鱗はコピー&ペーストを使ってちょっと楽していますが、上端下端側は大きさは小さくなりますし、全体には側線に沿って配置しなければなりませんし、頭部にも鱗がある種類がいたり(バス類など)と作業的にはかなり時間をとられた部分です。
イラストの出来ですが、私としては70%程度の出来だと思っています。時間があればもっと精密に描けたと思います。ただ、スケジュールや紙面上での大きさ(そしてほとんどが白黒ページであること)を考えるとこれで十分役割は果たせたと思います。部分的にはオーバースペックに描き込んでいる部分なんかもありますしね。今回のイラストでは皆さんにもあまりなじみのない動植物が多いと思います。国内種の資料は「魚類検索」をはじめある程度豊富にそろっているのですが、国外種となると情報量はがくんと減ってしまいます。国内ではまだ珍しい種の場合、Fishbaseというデータベースが非常に役に立ちました。
このデータベースは収録28900種をうたっていますが、これは確認されている魚類のほとんどを網羅していることになります。内容も大きさ・形態・生態といった基本情報をよく書いています。ただ、データベースの内容は欧米系に偏っている傾向があるように思われ、アジア系はあまり情報が書かれていなかったりします。また、欧米系でも情報がほとんどない種もあったりします。種ごとの情報量の差が大きすぎて、まだまだ「完全」にはほど遠い内容ではありますが、それでも魚類についてはまずここを調べるだけの価値はあると思います。いろいろ調べてみたところ、どうも今回の私のイラストが世界初あるいは日本初のイラストとなっているものもあるようです。以下、そのリストです。
魚類
タイリクスズキ=世界初カラーイラスト(白黒は存在する)
ストライプドバス=日本初イラスト
パイクパーチ(Zander)=日本初イラスト
ケツギョ(成魚)=日本初イラスト
アークティック・グレイリング=日本初イラスト
オオタナゴ=日本初イラスト
ヨーロッパウナギ=日本初イラスト無脊椎動物
チチュウカイミドリガニ=日本初カラーイラスト? 他の2種のカニもイラストは見ていませんのでもしかしたら…
カワヒバリガイ=日本初カラーイラスト
タイワンシジミ=日本初イラスト植物
イチイヅタ=日本初カラーイラストあらゆる資料を調べたわけではありませんので本当に「初」なのかは確実ではありませんが、珍しい種を描いたのは確かです。これらは資料を探すだけでも大変でしたよ。
イラストの大半が白黒になっているのは出版社の都合、ということでご了承ください。本書は「図鑑」ではなく「事典」ですからこれもしかたないことでした。それでもイラストは統一感を出すためにもすべてカラーで描いています。別の媒体で再利用する可能性もありますからね。口絵(さくいん)には、小さくですがすべてカラーで掲載されています。やっぱりオールカラーにしろ!と思われた方は、出版社に手紙で抗議してください(笑)。私もオールカラーにしたかったのだ!
※今回のイラストも著作権は私が保持しており、再利用が可能です。マスコミ関係でご使用になりたい方は私までご連絡を。
ということで、今回は私は主にイラスト担当ですが、本書の内容は多くの人に読んでいただきたいものです。小さな本屋には置いてないと思いますが、ネット書店などを利用してぜひお買い求めください(この値段ならネット書店の送料はたいてい無料になります)。