Vol. 29(2000/1/9)

[今日の本]ペットの法律全書

ペットの法律全書
[DATA]
著:椿寿夫、堀龍兒、吉田眞澄
発行:株式会社有斐閣(有斐閣選書186)
価格:1800円
初版発行日:1997年4月10日
ISBN4-641-18280-9

[SUMMARY]ペットに関する法律問題を網羅する

書名の通り、ペット(主にイヌとネコ)に関する法律についてさまざまな話題を紹介した本。本書の主なねらいは「ペットに関するトラブルを事前に回避する」ということで、そのための方策もいろいろと紹介されている。それぞれの事柄について、対応する法律の条文を示したり、実際の判例を紹介するなど実務的な内容である。
本書で取り上げられている主な事柄は、ペットの購入、マンション・アパートでの飼育(飼育が禁止されている共同住宅でこっそりペットを飼ったときに発生するトラブル)、食事(ペットフードには法的規制が無い)、医療、宿泊、飼い主の責任、ペットの人格(動物の権利)、ペットビジネスなど。

[COMMENT]ペットを通じて法律を知る

私は法律関係について学んだことはないので、専門的なことはわからないのですが、法律あるいは法律に基づく裁判の判決は思ったよりも社会的常識的なものなのだな、ということは聞きかじりの知識ながら何となく理解しています。つまり、常識外れな法律や判決はあまりないということです。本書を読んで、ペットに関する法律問題も常識的な判断で十分解決されるものなんだな、ということがわかりました。
しかし、ペットは人間でもなく、モノでもないため、その扱いが微妙であったり、ペットに対しての感情が多様であったり(動物嫌いな人もいるので)、法律にあいまいな点があったりするために、「グレーゾーン」のような領域が残されていることも本書で知りました。
法律上ではペットは「物」です。法律では人以外の物はすべて「物」扱いとなるからです。しかし、ペットは生き物ですから痛みも感じます。また、家族の一員のように暮らしていれば事故死したときの家族の悲しみも非常に大きく、単に「物品」を破損した場合とは比べ物にならないような場合もあるでしょう。当事者にとっては重大なことでも、法律的には相対的に軽微なものと扱われる、ということになってしまいます。
法律のあいまいな点、とはペットに関する法律がそれほど役に立っていないということです。ペットに関する法律問題では主に民法、「動物の保護及び管理に関する法律」、同法に基づく各自治体(都道府県、政令指定都市)の条例でカバーされています。問題は「動物の保護及び管理に関する法律」で、同法は具体性に欠ける点が多く、処罰規定もほとんどないため、実効性が弱いという問題点があるのです(Vol. 17も参照してください)。同法は1999年末に改正され、罰則も強化されたようですが、実際にはどれほどの効果があるのかはまだわかりません。

本書は書店でも法律関係の棚に置かれているのですが、法律に詳しくない人でも気楽に読める内容です。ペットに関する法律を学ぶ、という読み方もできますが、ペットに関する法律を通じて、法律とその運用の実例を知ることができるとも言えるでしょう。一般的な法律の入門書にもなるのではないか、とも思えました。

本書は1997年の発売なので最近の話題が入っていません。今ならば毎年のように起こる動物虐殺事件、これに関連して「動物の保護及び管理に関する法律」が改正され内容が改善されたこと、インターネットでの取引といった話題が盛り込まれていたでしょう。このような点を補った改訂版をぜひ出版していただきたいものです。


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