Vol. 66(2000/10/29)

[動物写真を撮る]動物写真は極限の写真

カメラの選び方

これから何回かに分けて動物写真の撮影術についての話をしていきたいと思います。
動物のことについて書かない「いきもの通信」というのも変に思われるかもしれませんが、写真やビデオといった「証拠」を記録するのも動物観察には欠かせないことなのです。そのためにもカメラ・ビデオカメラの知識は必要です。


動物写真を撮るのは実は簡単ではありません。最近は若い人が街でパチリパチリと気軽に写真を撮っていますが、彼ら彼女らが動物写真を撮っている姿を見たことはありませんし(犬、猫などのペットは別として)、動物写真を撮ったという話も聞きません。動物は彼ら彼女らの興味の対象でないというのがその理由なのですが、それはさておいても、彼ら彼女らの使っているカメラでは動物写真は撮れないというのも事実なのです。彼ら彼女らがカワセミを写そうとカメラを向けても満足な写真は撮れないでしょう。
なぜか。それは動物写真というものが、スナップ写真や風景写真とはまったく異なる状況で撮影しなければならないからです。その状況は「極限的」と言ってもよく、カメラの性能を最大にまで引き出すことも必要となります。その極限の状況をまずは解説しましょう。

「遠い」
遠くにいる動物は人間の目にははっきりと見えていても、実際に写真に撮ってみると小さくしか写らないものです。そこでもっと接近しなければならないのですが、野生動物に近づくことは非常に困難です。
「小さい」
動物は人間に比べると小さいものがほとんどです。ゾウやキリンなら十分大きいのですが、いつもそういう動物ばかり撮るわけでもありません。
「速い」
動物は人間の要求にあわせてポーズをとってくれたりはしません。動いているか止まっているかは撮影者にはコントロールできないことなのです。しかも動きが非常に速い場合も多く、高性能のカメラでも追いきれないこともあります。
「暗い」
動物はいつも昼間に行動するとは限りません。夜行性の動物は多くいます。また、昼間でも薄暗い所にいたり、雲っていて暗かったり、日の光の少ない明け方・夕方に撮影しなければならないこともあります。撮影状況がいつも好条件とは限らないのです。

さらにもうひとつ特殊な例を挙げますと、
「極端に小さくて極端に近い」
という場合もあります。これは昆虫を撮る場合のことで、あまりにも対象が小さいためにこれまた極限の状況になってしまうのです。

普通の人が持っているカメラ——コンパクトカメラあるいは標準ズームレンズをつけた一眼レフカメラ——ではこれらの状況に対処することは極めて困難、というよりも不可能でしょう。
これらのカメラでは「遠い」という状況を克服することがそもそも困難です。望遠性能が70mm(2倍ズーム)とか100mm(3倍ズーム)程度では全然力不足です。200mm(6倍ズーム)でなんとか撮れることもあるかな、というぐらいなのです。また「速い」被写体に対してはマニュアル(手動)フォーカスやシャッター速度を設定したりするなどの機能が必要になりますが、コンパクトカメラにはそこまでの機能はありません。そして当然のことですが「使い捨てカメラ」は問題外です。

また、最近の流行のデジタルカメラですが、30万円を超えるようなプロ向けの機種は別として、10万円前後の機種はコンパクトカメラと同じような機能・性能を持つように作られていますので、やはり動物写真には力不足なのです。
中には10倍ズームというかなりの性能(スペック的には動物写真にも使えそうな性能)を持った機種も出ています——はっきり言うとオリンパスのCAMEDIA C-2100 UltraZoomのことなのですが、実際に店頭で扱ってみると、オートフォーカスが遅い上に、最短の動作でオートフォーカスをしないためにシャッターチャンス時に非常に頼りないものになってしまっていると言わざるをえません。また、マニュアルフォーカスの操作もやりやすいとはいえません。
このような技術的な問題はいずれ解決されるでしょうが、現時点では20万円以下のデジタルカメラには動物写真向けの機種はありません。
ただし、デジタルカメラにはアナログカメラよりも優れている点がいくつかあり、動物写真撮影に都合がいい場合もあります。そのようなデジタルカメラの利点については今後取り上げる予定です。

では、動物写真にはどういうカメラが必要となるのでしょうか。現段階での回答は「レンズ交換ができる一眼レフカメラ」となります。この条件ならアナログカメラでもデジタルカメラでもいいのですが、レンズ交換ができるデジタルカメラはまだとても高価なので初心者には手が出せないでしょう。
ここではアナログの一眼レフカメラにしぼって説明することにします。一眼レフカメラは価格帯によって次のように分類できます。カッコ内はキヤノン社の製品の例ですが、各社とも同じような価格帯で似た性能の製品を出しています。

・5万円前後 普及型(EOS kiss3)
・〜10万円 中位機種(EOS 5、EOS 55、EOS7)
・〜20万円 上位機種(EOS 3)
・20万円〜 最上位機種(EOS 1)

価格はさまざまですが、基本的な性能は実はあまり変わりません。高い機種ほどいい写真が撮れるということはないのです。ただし、連写速度や操作のレスポンス、信頼性といったことでは上位機種ほど良いようです。ただし、上位機種ほど重量も増えますので、単純に高いほど良いともいえないのです(動物相手には身軽さも必要なのです)。初心者ならば無理をせずに中位機種、財布が苦しいなら普及型でも問題ないと思います。
ちなみに私が使っているのはキヤノンのEOS 5です。この機種は8年も前に出たものなのですが、いまだに愛用者も多く、製造が続いています。しかし、最近新しい機種EOS 7が登場したので、これから買うならそちらの方がいいかもしれません。

しかし動物写真を撮るにはカメラがあるだけでは足りません。動物写真に適した「レンズ」が必要となります。実は動物写真の場合、重要なのはカメラ本体よりもレンズの方なのです。次回はそのレンズについての話です。


一眼レフカメラの一般的な知識は、さまざまな入門書が出ていますのでそれらで勉強することができます。この「動物写真を撮る」の連載では基本的知識や用語の説明はしませんので、きちんと勉強したい方は入門書を読むことをお勧めします。

また、「動物写真を撮る」の連載では高度なテクニックや知識についてまでは解説できません。よりハイレベルな内容を知りたい場合は、次の本を推薦します。

HOW TO PHOTO 水口博也 野生を撮る
著:水口博也(みなくち・ひろや)
発行:TBSブリタニカ
価格:2700円
初版発行日:2000年9月25日
ISBN4-484-00412-7

実は動物写真の撮り方について書かれた本はほとんど無くて、私も動物写真家のアドバイスを参考にしたり、試行錯誤をしながらやってきました。同書は動物写真撮影についての解説書として最適だと思います。著者の水口氏はクジラ・イルカの写真で有名な方です。同書では陸上での撮り方はもちろん、海上あるいは水中での撮影方法についても書かれています。私の文章よりもこちらを読んだ方がずっと勉強になるでしょう(苦笑)。


連載第2回 Vol. 69 動物写真に適したレンズとは?

連載第3回 Vol. 77 ぼけない・ぶれない撮影方法

連載第4回 Vol. 82 デジタルカメラは動物写真に使えるか?

追加 Vol. 104(2001/9/30) 続・デジタルカメラは動物写真に使えるか? FinePix6900Zを使ってみて


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