Vol. 93(2001/7/1)

[今日のいきもの]

カイツブリ/カモの子供ではありません!

この「いきもの通信」ではカラスに並んで登場頻度の高いカイツブリですが、これまでちゃんと解説していませんでした。カイツブリは都会でも普通に見られるわりには知名度が格段に低い鳥です。カイツブリを指さして「あっ、カモの赤ちゃんだ!」と言う人を何度も何度も何度も何度も私は見てきました。こういった誤解を減らすためにも、きちんと書いておかねばならぬと思う次第なのであります。
とはいうものの、カイツブリに関しては情報量が絶対的に少ないため、どう書けばいいのか難しいところもあります。小さくて地味なためにあまり研究の対象にはならないようなのです。以下は私の観察と手元の図鑑類からカイツブリについてまとめてみました。

どこにいる?

カイツブリは池や川などの淡水にすんでいます。川は流れがゆるく、川幅も広い場所の方が好みのようです。都会でも普通に見ることができます。渡り鳥ではないので、1年中見ることができます。

どんな格好?

大きさは、カルガモの半分ぐらい、バンより少し小さく、スズメの2倍ぐらいです。色はこの通り地味です。オス、メスは外見では区別できません。

日常の行動

陸上に上がることはなく、常に水上にいるので見つけるのは難しくありません。また、飛ぶこともほとんどありません。私はカイツブリが1m以上の高さを飛ぶ姿を見たことはありません。ただしこれは、カイツブリが飛べないということではありません。定点観察をすると、数が増減することがわかります。カイツブリは間違いなく中長距離の飛行ができるのです。
カイツブリは基本的に群れることはありません。普通は単独行動です。ただ、これには例外があって、場所によっては大きな群れを作ることがあるそうです。

カイツブリが群れないのは、彼らがなわばりを持つからです。1つのなわばりには1羽または2羽(つがい)がいるのが基本で、これにその年に生まれた子供がいることがあります。なわばりの面積はかなり広くて、1辺が数百mにもなります。ですから大きめの池でも全体では数つがいしか住めないことになるのです。これではぜんぜん目立ちませんね。
なわばりの境界はあいまいで、お互いに重なり合っているようですが、境界近くでそれぞれのなわばりのカイツブリが出会うとケンカを始めます。この時は「ケリリリリリ…」という大きな鳴き声とともに相手を追い払う行動が見られます。カイツブリが2羽いて、「ケリリリリリ…」と鳴いているにもかかわらずケンカをする気配もないのならば、その2羽はつがいです。この鳴き声にはなわばりの主張、つがいの確認という意味があるようです。

子育て

カイツブリの観察で特に面白いのは子育てでしょう。カイツブリは常に水上にいると書きましたが、産卵〜抱卵も陸上ではなく水上で行います。孵化後の子育ても水上ですので、比較的観察しやすいといえます。ただしカイツブリ自体が小さいので、双眼鏡などは必須です。
水上で産卵、抱卵するには当然巣が必要となります。普通は茂ったアシ(葦)が水中から突き出しているところに葉や枝を使って巣を作ります。この巣は「鳰(にお)の浮き巣」と呼ばれ、古くから知られています。ぷかぷか浮いているのではなく、アシに固定しているので、正確には「浮き巣」とは言えないのですが。
ところが、近年の池や川の整備の結果、アシのような植物は真っ先に除去される傾向があるようで、カイツブリにとって(他の水鳥にとっても同様に)隠れ家や巣作りに適した場所が減少しています。それでもカイツブリはなんとか巣を作ろうとします。よく見られるのは、岸の樹木の枝が垂れ下がって水面に接しているところに巣を作るというものです。また、水面からわずかに高い人口構造物を利用して巣を作ることもあります。
「鳰の浮き巣」あるいはそれ以外の形態の巣にも共通して言えるのは、水位の変動に弱いということです。大雨が降って水位が急上昇すると、巣の維持は不可能になってしまいます。また、卵をねらう天敵も多く、私が見る限りでは繁殖率が高いとは言えないようです。ただし、1回繁殖に失敗しても、またすぐに産卵をします。遅いときには7月後半に産卵することもあります。

卵の数は2〜5個で、だいたい1日に1個ずつ産卵するようです。孵化までの期間は3週間です。
カイツブリの子育てで有名なのは、親が子を背中に乗せて泳ぐことです。孵化後すぐは子供(ヒナ)たちは巣から離れませんが、巣で休憩している親の背中に潜り込み、顔をちょこんと出している姿を見ることができます。孵化から10日もたつと、子供も親といっしょに巣から離れるようになります。この時に子供を背中に乗せている姿を見ることができます。
カイツブリの子供は最初は水中に潜れません。そこで親はしばらくの間、食べ物を子供のために調達しなければなりません。子供も潜水できるようになって自分で食べていけるようになると親離れの時期です。親子がばらばらに行動するようになります。

親と子の区別はとても簡単です。子はくちばし全体が黄色く、羽毛も薄い色をしています。この子供の色は最初の冬まで続きますので、それまでは親子の識別ができます。それ以降は、年齢、性別はおろか個体の識別も不可能になってしまいます。カイツブリの観察の難しさは個体識別ができないことにあります。それでも、カイツブリはつがいでなわばりを持つため、行動範囲からある程度の識別は可能です。

カイツブリは観察が難しくなく、通年で見ることができるため、初心者にもおすすめの鳥です。子育てを含めて長期間観察するとその面白さがわかってくると思います。


和名:カイツブリ
学名:Tachybaputus ruficollis
分類:カイツブリ目カイツブリ科


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