Vol. 112(2001/12/2)

[今日の観察]都会にトンボは何種類いるか、調べてみました

東京都内の某公園といえば、この「いきもの通信」でもよく登場する場所です。今年はすばらしい参考書もあることですし、デジカメも買ったことですし、ここでどれだけのトンボが見られるのか調べてみようと思いました。
この公園は住宅地にありますが、すぐ近くには大きな商業地区もあります。皆さんは東京のこのような場所に何種類のトンボがいると思いますか。私は1年前の経験で、6種類は確実にいることを知っていましたが、そんなにいるとは思わない方も多いでしょう。さて、ていねいに探せばもっと多くの種類がいるはずですが、どれだけ見つかるかは私も予想できませんでした。
以下は、この夏に確認できた種類の写真と解説です。まずは読んでみてください。順番は目撃した順です。

先に用語の解説をしておきます。
止水とは、池や湖、沼など水がほとんど流れない場所のことです。プールや水田、流速がきわめてゆるやかな水路も含みます。
流水とは、水が常に流れている川や運河のことです。

1. コシアキトンボ
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
東京の止水のある場所で最も多く見ることができるトンボです。体の真ん中が白いので、離れていても種の確認が簡単にできます。出現時期は早く、5〜6月頃から見ることができます。

2. シオカラトンボ
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
都会でもよく見られます。写真の青白い色は成熟オスの体色。メスや未成熟個体は黄褐色で、「ムギワラトンボ」と呼ばれたりもします。オスの近くにはメスがいることも多いので、よく観察してみてください。

3. オオシオカラトンボ
[よく見られる場所]
止水。シオカラトンボにほぼ同じ。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
シオカラトンボの中に、青色が濃いものが混じっていることがありますが、それはシオカラトンボではなく、オオシオカラトンボです。よく見ると、目の色が違う、翅のつけ根が黒いなどの違いがわかるでしょう。

4. アジアイトトンボ
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
体長2〜3cmの小さなトンボ。かなり注意していないと見過ごしてしまいます。見たことがない人も多いのではないでしょうか。水辺の植物の枝や茎にとまっていることが多いです。他の種類のトンボが多く集まっている所があれば、注意して探すと見つかるかもしれません。
イトトンボの仲間は、とまっている時に翅を閉じるのが特徴です。
目立たないのでなじみのないトンボですが、都会でも普通にいる種類です。学校のプールでヤゴを見つけたこともあります。

5. モノサシトンボ
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
腹にものさし(定規)の目盛りのような模様があるのでこの名前がついています。体長3〜4cmで、やはり注意して観察しないと見逃してしまいます。
これもイトトンボの仲間で、とまっている時に翅を閉じます。

6. ウチワヤンマ
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]少し汚れた止水。
「ヤンマ」という名前がついていますが、分類上はオニヤンマ科でもヤンマ科(ギンヤンマなど)でもなく、サナエトンボ科に含まれます。しかし体も大きく、外見からだとヤンマの仲間に見えるでしょう。腹の後端がうちわのように広がっているのでこの名前がつきました。
水中からつきだした杭などにとまっている姿をよく見かけます。

7. ノシメトンボ
[よく見られる場所]
止水。アキアカネと同じ場所でも見られる。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
翅の先端が濃いこと、体があまり赤くならないことが特徴です。夏から秋にかけて見ることができます。秋にはアキアカネに混じっていることもあります。
写真はカメラの三脚にとまったノシメトンボです。アキアカネ同様、とがった所が好きなのです(アキアカネの項参照)。

8. ウスバキトンボ
[よく見られる場所]
草原など空の開けた場所。水辺でなくてもいる。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
ウスバキトンボは特に変わったトンボです。このトンボはもともと熱帯にすむトンボです。毎年春になると、東南アジアから北上を開始し、日本まで渡ってくるのです。卵→成虫へのサイクルが速く、日本国内で第2世代、第3世代へと子孫を増やし、かなりの数に増えます。その後、寒くなると完全に死滅してしまいます。卵やヤゴも越冬はできないようです。
ウスバキトンボは「いつも飛んでいるトンボ」と言ってもいいぐらいで、私はこのトンボがとまって休んでいる姿を見たことがありません。写真も網でつかまえたものを手で持って撮影しています。おそらく、夜はどこかで休んでいると思うのですが、私はまだ確認したことがありません。

9. ハグロトンボ
[よく見られる場所]
主に流水。止水でも見られる。暗めの場所が好き。
[幼虫のいる場所]少し汚れた流水。
真っ黒なトンボ。飛ぶときはひらひらと飛ぶので、チョウのように見えることもあります。流水で見られる種類ですが、近くの止水でも見られることがあります。
写真はオス。メスは腹部も真っ黒です。
ハグロトンボもイトトンボの仲間で、とまっている時に翅を閉じます。

10. リスアカネ?
[よく見られる場所]
止水。
[幼虫のいる場所]止水。
写真はビデオカメラから取り込んだものです。翅の先端が黒いこと、腹が赤く胸が赤くないことからリスアカネと思われます。ただ、このトンボは台風が通過した翌日に目撃したもので、遠くから風で運ばれてきた可能性があります。ここで繁殖しているかどうかもわかりません。

11. アキアカネ
[よく見られる場所]
草原など空の開けた場所。水辺でなくてもいる。
[幼虫のいる場所]汚れた止水。
アキアカネはトンボの代表選手のようなものです。「赤トンボ」といえばだいたいはアキアカネのことですが、アキアカネ以外にも赤いトンボはいます。
アキアカネは平地では秋に見られますが、秋に羽化しているのではありません。6月頃に羽化していて、夏の間は山地に移動してしまうのです。夏に山に登るとトンボの群れを見ることがあるかもしれませんが、それはアキアカネの群れでしょう。夏の間はまだ赤くないので、アキアカネとは気づかないかもしれません。秋になり気温が低くなると平地に降りてきて産卵をします。
アキアカネを探すのはとても簡単です。例えば、木の枝の先端を調べていくと、アキアカネがとまっている姿を見つけることができます。アキアカネには、とがった所にとまるという特徴があるのです。これを応用すると、こんなことができます。アキアカネは、明るい空き地などで飛んでいる姿をよく見かけますが、そういうところに棒を立てておきます。すると、アキアカネがそこにとまるのです。近づいてもあまり逃げませんので、写真も撮り放題です。立てておくのは棒でなくても、カメラの三脚でもいいですし、人間が突っ立ったままでもかまいません。アキアカネが近づいてきたら、指をのばして近づけると、指先にとまることもあります。左の写真はそうやって撮ったものです。信じられないかもしれませんが、これは本当に可能です。ぜひ試してみてください。ノシメトンボもやはりとがった場所が好きで、同じようなことができます。
アキアカネが産卵するのは浅い止水です。特に田んぼは好みの場所です。また、雨上がりの水たまりに産卵することもあります。産卵するときはオスとメスがつながっていっしょに飛びながら、水面をおしりでつつくようにします。

12. アオイトトンボ
[よく見られる場所]
止水。暗めの場所が好き。
[幼虫のいる場所]少し汚れた止水。
すぐそばでひらひらと飛んでいるところを見つけました。じっとしていれば絶対に見つけられなかったでしょう。種の判定には少し迷いましたが、決め手となったのは、とまっている時に翅を開いている(半開き)ことです。このトンボは、その細い腹部の形からイトトンボな仲間だとわかるのですが、イトトンボの仲間は普通は翅を閉じるはずです。例外はアオイトトンボの仲間で、写真のように翅を開くのです。

以上、12種が確認できたトンボです。この他、目撃したものの種類を確認できなかったものもいます。この環境なら例えばオオヤマトンボがいる可能性もあるでしょう。さらに2〜3種類はいる可能性はあります。
どうでしょう、意外と多くいると思われたのではないでしょうか。都会でもたんねんに探せばこれだけ見つかるのです。ただし、見つけるには生息場所についての知識もある程度必要です。もっとも、これは注意深い観察である程度はカバーできます。

トンボがいるということは、そこに水が存在するということです。なぜなら、トンボの幼虫、ヤゴは水中で生活するため、水無しにはトンボは世代を重ねることができないからです。また、水があっても、両岸だけでなく水底までコンクリートで固めたいわゆる「三面張り」の河川ではヤゴは生活できません。水底は土や砂のような自然の状態で、食べ物になる小動物も豊富でなければトンボは繁殖できないのです。
しかし、意外なことに完全にコンクリートで固められていても、学校のプールでは繁殖できる種類もいます。学校のプールは秋以降は翌年の夏まで放置されます。トンボにとっては都合のいい場所なのです。ただし、プールで繁殖できる種類は限られていて、上の例でいえば「[幼虫のいる場所]汚れた止水」と書かれた種類しか繁殖できないでしょう。
ほとんど知られていないことですが、ヤゴには流水にいる種類と止水にいる種類がいます。ですから、例えば止水環境では流水のトンボは繁殖できないことになります。また、水質によっても生息するヤゴの種類は変わってきます。単純に、「水質を改善すればトンボが増える」ということにはならないのが面白いところです。今回観察した公園の水質は良い状態とは言えないのですが、水質を改善してしまうとコシアキトンボなどは数を大きく減らしてしまうでしょう。普通は「水質改善」=「環境改善」なのですが、現在の環境を改変するということは、そこに生息する生物にとっては「改悪」となってしまうのです。それでも「環境改善」をするメリットがあるのか。そこまで考える慎重さも忘れてほしくないものです。もちろん、「環境改悪」は最初から避けなければならないことです。


参考までに、カメラについて。
上記写真の内、デジカメ(富士フィルム/FinePix6900Z)で撮ったのは、2、3、7、8、11、12です。一部はマクロレンズをつけています。これだけ撮れればかなり満足です。その他は10(デジタルビデオカメラで撮影)を除き、EOS5(キヤノン、アナログカメラ、300mm望遠レンズ)で撮ったものです。こちらの画像が荒いのは、トンボに接近できず小さくしか撮れなかったからで、カメラの性能とは関係ありません。


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