Vol. 117(2002/1/13)

[今日の観察]「鳥の個体数はエサ量に比例する」という法則

先日、有害鳥獣駆除のことが気になってインターネットでいろいろと検索をしてみました。「有害鳥獣駆除」とは鳥獣保護法(鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律)の第12条に基づく例外的な狩猟です。同法では基本的に許可の無い狩猟は禁じていますが、その例外のひとつが有害鳥獣駆除なのです。この有害鳥獣駆除も都道府県の許可が必要なのですが、その効果がきちんと検討されているとも思えません。有害鳥獣駆除は主に農業被害を防ぐために実施されていますが、その駆除数は鳥の場合かなり多数になります。しかし不思議なことに、毎年大量の鳥が駆除されているにも関わらず、農業被害が減少したという話は聞きません。有害鳥獣駆除は本当に効果的と言えるのでしょうか?
そのことが気になって調べていたのですが、そこで見つけたのが「鳥獣害研究室」(独立行政法人「農業技術研究機構 中央農業総合研究センター 耕地環境部」)というホームページでした。その内容はとても興味深いものでした。関心のある方はぜひご覧ください。

さて、今回の話の本題はここからです。この「鳥獣害研究室」ホームページの中に、次のような一文がありました。

「鳥の場合、個体数は毎年比較的安定しており、その上限は餌量に制限されていると考えられます」

言い換えると、「鳥の個体数はエサ量に比例する」とも言えます。これを読んで、なるほど、と私は思いました。私の経験から見てもこれは正しいと思えるのです。動物というものは食べ物がある所にいるものなのです。食べ物が無ければ居つきません。これは動物一般に言えることですが、鳥の場合は飛行移動できるのでこの傾向がよりはっきりとします。
東京での具体的な実例を挙げてみましょう。例えば井の頭公園(三鷹市・武蔵野市)は冬にはカモ類が非常に多く集まります。これは井の頭公園にたくさんの食べ物があるということを意味します。ただし、この「食べ物」とは人間が投げ与えているエサのことなのです。井の頭公園へ行くと、カモにエサを与える人が途絶えないほどいるのです。
別の例を見てみましょう。六義園(文京区)にもちょっとした池があります。しかしここにいるカモの数は本当に数えることができるほど少ないのです。そして、ここにはカモたちにエサを与える人はほとんどいません。井の頭公園と六義園で自然環境的に決定的な差があるとは思えません。カモの数がこれほど違う理由は明らかに人間が与えるエサの量にあるのです。これは六義園周辺の人たちがカモに興味が無いということではありません。六義園でカモにエサを与える人が少ないのは、ここが入場料を取るからなのです。井の頭公園は誰でも出入りできますので、毎日のようにエサを与えに来る人もいます。しかし有料の六義園ではそこまでしてエサを持ってくる人はいないようなのです。有料の場所といえば新宿御苑(新宿区・渋谷区)もそうですが、ここもやはりカモ類は少ない所です。一方、無料でも水元公園(葛飾区)のように交通の便が良くなく、人があまり来ない場所はカモ類の密度は低くなります。
カモが多い所としては不忍池(台東区)、石神井公園(練馬区)がありますが、これらの場所ではやはりカモにエサを与える人を常に見かけます。
このようにいろいろな場所で比較してみると、カモ類本来の都会での生息密度は六義園のように閑散としている方が普通の状態と考えた方が良さそうです。そして、井の頭公園のカモの密度は高すぎると言わざるを得ません。どうも世間一般には「たくさんの動物=豊かな自然」という思いこみがあるようですが、人為的な動物の集中は自然本来の姿とはかけ離れたものだと指摘しなければなりません。井の頭公園のカモ密度は明らかに「異常」なのです。カモだけでなく野生動物一般に食べ物を与えることの問題点については以前に書いたことですのでここでは繰り返しません。

話を有害鳥獣駆除に戻しますと、「鳥の個体数はエサ量に比例する」ということは、鳥の食べ物となるものを生産している農地には鳥が自然と集まってくることになります。つまり、農業と鳥害は切り離すことのできない関係にあることを意味します。どんなに駆除しても、そこに食べ物がある限り鳥たち(あるいは哺乳類たち)はやってくるのです。ですから鳥害を完全に無くすことは事実上不可能なのです。

「鳥の個体数はエサ量に比例する」ということは、非常に当たり前でわかりやすい法則です。このことを覚えておけば動物の行動の多くを理解し、時には予測することもできます。自然観察の時には思い出してほしい法則です。


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