いきもの通信 Vol.122AERA(2002年2月25日号 No.8)の記事「東京のカラスは減らない」についての補足 

Vol. 122(2002/2/24)

[今日のカラス]

AERA(2002年2月25日号 No.8)の記事「東京のカラスは減らない」

についての補足

先週発売のAERA(2002年2月25日号 No.8)にカラス捕獲トラップについての記事が載りました。この記事中には私自身も登場しています。しかし、この問題は1ページに詰め込むには複雑過ぎであり、十分に問題を伝えきれていません。そこで、記事内容について、私からの補足説明をすることにします。


「ゴミの管理だけだとカラスの都外への移動だけで終わる。被害の拡散を防ぐためにも捕獲が必要」

これは言い換えると「カラスが都外へ移動する→カラス被害がそっくり別の場所に移動する」ということのようです。これは本当でしょうか?
都心部からゴミが一掃されたとしましょう。すると、カラスの一部は食べ物のある場所、この場合は郊外方向へ移動すると考えられます。ここで注意しなければならないのは、すべてのカラスが移動するわけではない、ということです。自然環境内でも食べ物は得られるのですから、大半はその場にとどまるでしょう。
また、郊外に移動したカラスですが、これらがひとかたまりとなって引越をするのではなく、ばらばらな方向に分散するでしょう。また、郊外に行くほど自然環境が豊かになり、そのような場所で食べ物を得る機会が増えるでしょう。つまり、カラス被害は減少すると考えられます。
また、カラスは東京都だけにいるのではありません。都心から半径約50kmに約8万羽生息しているという数字もあります。郊外にカラスが移動し、そこでの個体数が増えたとしても、食べ物の量には上限があるのですから、やがては元の生息数に落ち着くでしょう。
このように、カラスが移動しても全体ではカラス被害は減少することになるでしょう。
もし、東京都当局が周辺地域に迷惑をかけたくないと考えているのならば、今の内からカラスに関する情報や知識を共有し、問題解決を目指すために共に行動することを呼びかけることが必要でしょう。都はトラップに金をかけるよりも、こういったことに金を使うべきではないでしょうか。
私は首都圏全域(少なくとも繁華街、住宅地)でゴミの夜間回収が実現することを希望しています。


「若いカラスしか捕獲できなくても、次世代の繁殖を抑えられる」

繁殖するのは若いカラスだけではありません。また、個体数の変動は周辺からの流入もありますので、繁殖率だけで決まるものでもありません。この都の説明は正確ではありません。


「トラップはデモンストレーション」

「デモンストレーション」という言葉は都当局も使っているようで、元々は都当局の発想であると私は推測しています。
デモンストレーションというといかにも意義あることのように聞こえますが、そうなるためにはトラップのことが多くの人に知られ、議論が喚起されて初めて意味を持つことでしょう。ところが実際にはトラップのほとんどは一般に見えない場所に設置されており、マスコミでもほとんど取り上げられていません。これではデモンストレーションの役には立っていないのではないでしょうか。今回のAERAの記事でようやく議論の入り口にたどりついた、という状況です。
また、「デモンストレーション」と言うならば、それなりの効果を実証できなければ意味はありません。しかし、生息数を減らすことはできないとなると、これまたやる意味が無いことになります。

もうひとつ。このトラップは言ってみれば「公開処刑」です(実際、トラップ内で死亡した個体も目撃されている)。これは「見せしめ」です。それを「デモンストレーション」と言うのは違和感を感じます。
このようなデモンストレーションをするよりも、啓発・広報活動といった地道な努力をしてほしいものです。


「カラスを適正数に保つ」

「カラスの生息数を適切に管理する」とは、これも都当局が言っていることです。こういうととても理想的に聞こえますが、本当に生息数をコントロールすることが可能なのでしょうか。
トラップを使っても生息数の調整ができないことからも、生息数のコントロールは非常に難しいことが想像されます。そもそも、そう簡単に生息数を管理できるのならば、世の中から鳥獣害被害はなくなっているでしょう。
私が「生息数の減少」よりも「人間とカラスとの距離の引き離し」を強く主張するのは、生息数のコントロールが難しいことを考慮しているからです。人間とカラスの距離が適正なものになれば、カラス問題のほとんどは解決するのではないでしょうか。この考え方ならば生息数はそれほど重要ではないのです。


「カラスのせいでツバメが減った」

ツバメが減った理由はカラスだけではないと私は考えます。ツバメの生態を思い出してみてください。ツバメは泥(土+水)で巣を作ります。しかし、東京都心部にそのような場所はどれだけあるでしょうか。特にツバメが巣を作る傾向がある繁華街のような場所では露出した土や水場を探すのはかなり大変だと思われます。また、ツバメは以前使っていた巣を再利用する事が多いのですが、建物を建て直すと巣も失われてしまいます。こういったことが重なっていった結果、ツバメの繁殖が困難になっていったのではないかと私は考えています。カラスもツバメ減少の一要因かもしれませんが、「カラスがいなくなればツバメが増える」というほど単純な問題ではないでしょう。
これと同じように「カラスのせいで小鳥が減った」とも言われますが、これにも疑問があります。まず、「カラスが小鳥を食べている」とはよく言われていますが、これは本当でしょうか? カラスが小鳥が減るほど食べているのならば、小鳥が減ればそれを食べるカラスも減るはずです。しかし、実際はそうではありません。
動物が生息するにはまず食物が必要です。そして寝ぐらになる場所、水を飲んだり水浴びするための水場も必要になります。今、東京都区部にはそのような条件の整った場所がどれほどあるでしょうか。現在の小鳥の生息数は、こういった環境に見合っただけの数しかいないのではないかと私は考えます。カラスがいなくなれば小鳥が増える、というような単純な問題ではないと思います。

ただ、ゴミの夜間回収を実行した時、カラスの行動にどういう影響が出るかは予測しにくいものがあります。実際、鳥のヒナが襲われる可能性もあるわけです。そこで、生態系への影響を穏やかなものにするために、ゴミ夜間回収の実施にあたって私からの提案があります。

提案1
ゴミの夜間回収を実施する地域は、都心部から開始し、数年以上かけて徐々に拡大させていく。

提案2
ゴミの夜間回収を開始する時期は秋(9〜10月)とする。

提案1は少しずつカラスの移動を促すための方法です。カラスが一気に郊外へ流出することを防げるでしょう。提案2で秋を選んだのは、他の鳥類の繁殖期が終わった時期で繁殖への影響が無いこと、果実や種子など自然環境内で得られる食物が豊富な時期であるから、です。


私は都の方針すべてに反対しているのではない

記事では私が都の方針すべてに反対しているように読み取られる方がいるかもしれませんが、そうではありません。都の方針をまとめてみますと、

・トラップによる捕獲
・ゴミ対策の推進(夜間収集、防鳥ネットなど)
・エサやり禁止の啓発

ということになります。この内、私が反対しているのはトラップについてだけであり、他の2つについては賛成なのです。
正しい方針には喜んで協力し、誤った方針ならばそれを指摘し撤回させる。ただそれだけのことです。


最後に、私の考えを簡単にまとめておきます。

・カラス捕獲トラップでカラスを減らすことはできない。つまりこの方法ではカラス問題は何も解決しない。よって、トラップは無意味であり、税金の無駄使いである。

・カラス問題を解決する方法は「人間とカラスの距離を離すこと」である。カラスが人間に接近するようになった原因は「路上の生ゴミ」と「ハトなど鳥類へのエサやり」にある。よって、これらを解消することがカラス問題の解決方法である。

・ゴミ問題の解決方法としては「ゴミの夜間回収」を推薦する。


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