Vol. 143(2002/9/22)

[今日の勉強]国が動物の飼い方を指示するということ

今となってはこの話題を取り上げるのは明らかにタイミングをはずしているのですが、やはりいつか書かねばならないこと。動物問題を考える上でもそれだけ大切なことなのです。

皆さんは、国がペットの飼い方についての方針を出していることをご存知でしょうか。イヌはこうやって飼いなさい!ということを国が言っているです。その国の方針とは、「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年5月28日、環境省告示第37号)というものです(全文はhttp://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/domestic.html)
これは法律ではなく、告示ですので違反しても罰則があるわけではありません。もちろん動物虐待などの動物愛護法違反には同法違反の罪が問われることになります。
この「基準」は短いものですが、動物飼育に興味のない方には意外な内容が含まれているでしょう。以下、その意外な内容について簡単に解説していきましょう。(なお以下では「基準」の原文をわかりやすく書き直しています。)

●ペットを飼う前に、その動物の習性などを勉強し、将来も含めて住む場所や家族構成のことも考えましょう。

飼う前のことから国があれこれ指示するわけですから、うるさいと感じる人もいるでしょうね。しかし、困ったことに「衝動買い(飼い)」をする人は後を絶たず、「やっぱり飼えませんでした」と捨てるケースはなくなりません。露店でカメやヒヨコを買ったけど、やっぱり飼えないから捨てよう、というのもダメなんですよ。飼う前にはちゃんと動物のこと、飼い方を調べて、準備してから飼いましょう、ということです。

●ペットには名札やマイクロチップをつけましょう。

自主的かそうでないかにかかわらず、ペットが逃げ出す・いなくなるということも珍しくありません。迷子探しには名札などが有効なのです。
これだけが目的なのではありません。野生イエネコ(野良猫)の問題があります。例えば、野生イエネコは、沖縄島ではヤンバルクイナを、小笠原ではメグロなどの希少な鳥を捕らえているといいますし、西表島ではイリオモテヤマネコに感染症をうつしていると言われています。では野良猫を捕まえれば問題解決かというと、それができないのです。というのも、そのネコが野良猫か飼いネコかの区別がつかないからです。飼い猫の場合、管理責任は飼い主にあるので、行政は何も手出しができないのです。だから、名札などで飼い主をはっきりさせて、名札の無いネコは野良猫と見なす、という方向に持っていきたいのです。これはすでに一部自治体で具体的な事業が始まっています

●ペットを飼う場所や施設(例えば犬小屋)は、日当たり、風通し、温度・湿度、衛生状態にも気を配りましょう。

犬を狭い庭で飼っている人もいるでしょうが、毛並みがぼろぼろになるような状態ではそれはまずいでしょう。欧米なら「動物虐待」と言われかねません。動物に暴力をふるうだけでなく、健康を損ねるような飼い方も「動物虐待」です。これは動物愛護法にも書かれていることです。

●ペットに公園など公共の場でフンをさせないこと。

もちろん、きれいに片づければ問題ありません。問題なのは、道路にフンを放置している人、公園をトイレ代わりにさせている人たちです。これは常識的なことでしょうが、国がこのように言わなければならないほどマナー違反は多いと考えてください。

●ペットの子どもをちゃんと飼える見込みがないならば、不妊手術をしたり、オス・メスを分けて飼うなどすること。

動物が子どもを産むのは当たり前!確かにそうでなのですが、動物の不幸の原因は無計画な繁殖にもあります。ハムスターが増えすぎて困った、という人は多いのではないでしょうか。私に言わせればそれは勉強不足です。人間なら家族計画はちゃんと考えますよね。ペットにも考えてあげましょう、ということです。ペットは野生環境よりも恵まれた生活ができるため、ほぼ無制限に増えてしまいます。それをコントロールするのは飼い主の責任ということです。

●イヌの放し飼い禁止。

家の庭にいる時はもちろんひもにつなぐ必要はありません。散歩の時に、ひもをつけていない人がいますが、それがダメなのです。「うちの子はおとなしいから大丈夫!」と言う人もいますが、それでもひもをつけた方がいい理由が2つあります。1つは、突発的な事態が発生してイヌが逃げるため。他所のイヌに驚いて、雷の音に驚いて逃走するということはありえることです。もうひとつは、イヌがそこにいるだけでも怖いと感じる人がいるため。イヌ恐怖症の人にとって、ひもにつながれていないイヌほど恐ろしいものはありません。どんなにかわいらしい小型犬でもそうなのです。

●イヌにはしつけを。特に、飼い主の制止命令には従うようにすること

これはなかなかシビアな基準です。イヌのしつけをちゃんとしていない人は多いでしょう。「制止命令」とは「待て!」のことでしょうが、飼い主の「待て!」に100%従うイヌはそれなりに訓練されたイヌです。さあ、日本のイヌのどれだけがこの基準に達しているでしょうか。

●イヌ・ネコが飼えなくなったら、ちゃんと飼える人を探しましょう。

この項はご丁寧にも、「都道府県が引き取るのは譲れる相手が見つからなかった時だけ」とも書かれています。安易に捨てるな!ということです。あまり公表されていないのですが、処理施設で殺処分されるイヌ、ネコの数は少ないものではありません。これらのイヌ、ネコは捨てられていた、あるいは野良ばかりではなく、飼いきれなくなった飼い主が持ち込む例もあるといいます。

●ネコは室内飼いをしましょう。

「ネコは外で自由に遊ばせた方がいい」と思っている方はとても多いと思います。しかし最近の流れは室内飼いが受け入れられつつあります。このことについては別の回に解説することにしましょう。


この「基準」は、ペット事情を知らない人には意外な項目もあるでしょうが、専門家の立場からは妥当な内容になっており、私もそう思います。こういうことは国が立ち入ることではないようにも思えるのは確かですが、それ以上に飼い主のマナーや心構えには問題があると私は考えています。動物を飼うにあたっては、それなりの覚悟を持って飼ってほしいと思います。けっして衝動飼いをしてはいけないのです。


関連ホームページ

動物の愛護・管理について(環境省自然環境局)


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