いきもの通信 Vol.150[OPINION]東京カラス問題が解決できない政治的な理由 

Vol. 150(2002/11/17)

[OPINION]東京カラス問題が解決できない政治的な理由

東京のカラス問題は私が東京に来た1990年頃には既に存在していた問題ですが、10年以上たった今も、改善どころか解決にはほど遠い状況です。これだけ長期間、さまざまな提案がありながら解決ができないというのも不思議なことです。その理由は、住民の関心の低さ、ただ面白がるだけのマスコミの取り上げ方などいろいろあるのですが、今回は「政治」という別の方向からカラス問題が解決できない理由を見ていきましょう。

石原知事がカラス問題を解決できない(解決しない)理由

2001年、石原知事がカラス問題の解決に乗り出した——ということについてはこれまでにも何度か取り上げ、そのやり方(捕獲トラップ)がいかに無意味であるかも散々述べてきました(これらについてはカラス関連情報のページにまとめてあります)。無意味であるにも関わらずそれをなぜ続けるのか。知事の立場から考えてみましょう。
まず、カラス問題はこれまで誰にも解決できなかった問題です。カラス対策を実行することによって、自分がいかに実行力があるかアピールできます。しかもわずか年1億円でカラスを始末できる上に都民の支持を得られるわけですから、非常にリーズナブルな政策です。
この政策には2つの重要なポイントがあります。

1つは「この方法ではカラス問題は解決しない」ということ。つまり、これからもずーっと自分がカラス問題に立ち向かっているように見せかけることができるのです。多くの人はこのことを知りませんから、毎年カラスに立ち向かう知事を働き者だと思うことでしょう。しかし、「カラスを殺しても問題は解決しない」という事実に基づくと、石原知事はカラス問題の解決を実は望んでいないのではないかという疑惑が浮かびます。「カラスを殺しても問題は解決しない」ことを知事は知らないのではありません。都のカラス対策プロジェクトチームはこのことも知った上で知事に報告書を出しているのです。カラス捕獲トラップはその報告書に反して知事がごり押しした政策、と私は伝え聞いています。
カラス捕獲トラップは昨年冬にあわてて設置されましたが、この時期も政治的な意味があります。本来、年度途中で予算にない事業をするというのはお役所の性質から考えてまずありえないことですが、知事はそれを無理矢理やり遂げました。なぜ翌年ではだめだったのか。それは、トラップが有効な期間が冬季に限られることにヒントがあります。もし1年先送りすると、結果が出るのは来年春。ちょうど都知事選にぶつかるころになります。もしトラップが失敗したら、知事にとってはマイナスです。うまくいくかどうかわからない政策となると、何としても昨年度中にやりとげて効果を見る必要があったわけです。

もうひとつのポイントは1億円という金額です。都の一般会計予算は6兆円。1億円はその0.0016%、つまり「はした金」なのです(弱小自治体には信じられない話ですが…)。この程度の額で政争を挑む敵はいません。つまり、知事のやり放題にできるわけです。

このように分析すると、カラス問題が非常に巧妙に政治的に利用されているのがわかります。石原知事はカラス問題を解決したいのではなく、そもそも解決する気がないのです。
問題を解決しようとしないのは、次の都知事選に出るためだと私はにらんでいます。中央政界復帰のうわさもある石原知事ですが、復帰のためには「カラスに立ち向かう」というイメージは必要ありません。カラス対策は都知事選での再選を狙ったものとみていいでしょう。石原知事の中央政界復帰、おそらく本人にはその気はないのだと思われます。

議会がカラス問題を解決できない理由

都の政策に対して対抗するには都議会の議員を動かすことがひとつの方法です。ところがカラス問題に関しては議員がまったく当てにならないのです。
上にも書きましたが、1億円程度のことを争っても政治家(議員)にとっては大したキャリアにはならないのです。これでは真剣に取り組んでくれる議員がいるはずもありません。もっと本質的な問題として、捕獲トラップを撤去させてカラスを救ったとしても、カラスは投票もしなければ献金もしません。そんなカラスを救う価値は彼らには見い出せないでしょう。現在のカラス対策に抗議するというのは、時間の無駄、やる意味がない政争なのです。
個別の事情も見てみましょう。自民党など与党側にとって、石原知事は絶対に逆らえない存在です。その政策に反対することなどできるはずもありません。野党側の社民党、共産党などにも期待できません。そもそも社会主義・共産主義の思想は19世紀的なもので、その人間中心の世界観には自然環境のことは考慮されていません。原理原則に忠実になるほど彼らの思想から自然環境は遠ざかっていくのです。
(だからといって、左派の反対の右派が自然環境のことを考えているかというとそうではありません。日本の自然環境を公共工事で破壊していったのは自民党政治であるということを忘れてはなりません。)
野党である民主党はまだ希望が持てそうな気もするのですが、実際は超人気の石原知事にすり寄る傾向が大で、真っ正面から勝負しようという議員はいそうにもありません。まあ、勝負しようにもたかだか1億円のことではインパクトが弱すぎるということもありますが。

このように、現在のカラス対策は議員サイドからも突き崩すことができない仕組みになっているのです。石原知事がこういったことすべてを把握して仕組んだとは思えませんが、結果的には石原知事だけが得をするような巧妙な仕組みになっているのです。そして、問題は何も解決しない。なんと良くできた仕掛けなのでしょう。

ここで忘れてはならないのは、その被害を一身に被るのは物言わぬカラスたちであることです。
そして、都民も石原知事の巧妙なトリックにだまされているという点では被害者に違いないのです。


現在の無意味なカラス対策を撤回させ、根本的にカラス問題を解決する方法はあります。しかし、その実現もまた困難が予想されます。続きは次回「東京カラス問題が解決できない経済的な理由」にて。


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