いきもの通信 Vol.155[今日のいきもの]野生動物と飼育動物 

Vol. 155(2002/12/22)

[今日のいきもの]野生動物と飼育動物

このテーマについては以前に書いたことがあったと思っていたのですが、よく見るとまだきちんとは取り上げていませんでした。この「いきもの通信」を通して読めば、あちこちに「野生動物と飼育動物」のことが書かれているのですが、今回はこの解説をあらためてしましょう。

世の中にはいろいろな動物がいます。これらの動物たちを分類する方法は動物学的・系統学的なものが一般的ですが、社会的・環境的な分類の仕方もあります。それが「野生動物」「飼育動物」という分け方です。
「野生動物」とは、自然環境下で自然繁殖をしている動物たちを指します。
「飼育動物」は、人間の管理下で生存している動物たちを指します。飼育動物はさらに「家畜動物」「愛玩動物」に分類できます。家畜動物とは、産業(食用、繊維用など)のために利用される動物、ウシやヒツジやウマといったものです。愛玩動物とは、簡単にいえばペットのことです。イヌ、ネコはその代表格です。野良犬や野良猫は人間の管理下にはないように見えますが、イヌもネコも長い時間をかけて人間社会に組み込まれてきた経緯を考えると、飼育動物として扱わなければならない動物なのです。

野生動物と飼育動物に対する人間の関わり方はまったく異なります。
飼育動物は人間があらゆる点で関わります。その誕生から死まで、あらゆる場面で人間が関係します。飼育動物とは人間の管理下にある動物のことですから、この関係は当然のものです。
一方、野生動物は基本的に人間とは関わりなく生存しています。まあ、ツバメのように軒先を借りたり、カラスやネズミのように人間の食糧に依存する例もありますが、そういった動物たちも人間の管理下にないという点では飼育動物ではありえないのです。これらの動物たちは人間を利用して生存していますが、人間無しでもおそらく生きていけるでしょう。

野生動物と飼育動物に対して、人間がどう対応すべきかはそれぞれ異なります。
まず、飼育動物の場合、すべてを人間の管理下に置き、世話をすべきです。管理という言葉が嫌いならば、「あらゆる局面に関与する」と言い換えてもいいでしょう。誕生から死までのすべてを人間が見届けるべきです。
飼育動物を野生に戻すことは原則禁止です。例えば、野生化したヤギは世界各地で植物を食いつぶすという被害を出しています(ガラパゴス諸島、小笠原諸島の聟(むこ)島など)。野生化したネコがイリオモテヤマネコやカラスバトの生存を脅かしています。人間が放した北米原産のミシシッピアカミミガメが大繁殖した結果、在来の淡水性カメが見られなくなりつつあります。「死ぬまで面倒を見る」というのが飼育動物に対する最大の原則と言っていいでしょう。
野生動物の場合はその逆です。基本原則は関与しないこと。放置しておくのがベストです。ただ、完全に放置してしまうと絶滅してしまうこともあるのが現代社会です。関与せず、しかし常に見守る必要のある存在と言えるでしょう。もし、生息数が減少したり、絶滅の危機にある場合は、本来の生態をできる限り維持するようにしながら部分的に関与をすることもあるでしょう。最悪の場合は、トキやコウノトリのように完全飼育下に置かざるを得ないこともあります。

残念なことですが、世の中にはこの野生動物と飼育動物の区別ができない人がいます。とてもたくさん。
例えば、野生動物であるカモにエサをやる人たち。自然界で十分生きていける動物にわざわざエサをやる必要はありません。
例えば、珍獣をペットにしたがる人たち。野生動物は野生のままでいるのが本来の姿です。それをわざわざ飼育することにどんな意味があるのでしょう。飼育動物は長い年月をかけて作られた人為的な動物なのです。
例えば、飼っていた動物を自然環境に放す人たち。飼育動物を人間の管理外に置くのは禁じ手です。

最後にもう一度、原則を確認しましょう。


飼育動物に対しては、常に人間が関与し、死ぬまで共に生活をする。
野生動物に対しては、原則非干渉、そっと見守る。


この原則さえわかってるば、動物と人間の不幸な関係の多くは解消されるはずです。アゴヒゲアザラシの通称タマちゃんを見るためにあれだけたくさんの人が詰めかけることもなかったでしょう。


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