いきもの通信 Vol.161[今日の事件]国外産チョウの輸入制限緩和を検討/それでも移入動物に懲りない人々 

Vol. 161(2003/2/16)

[今日の事件]国外産チョウの輸入制限緩和を検討

それでも移入動物に懲りない人々

[ON THE NEWS]
メガネトリバネアゲハの輸入を許可するかどうかについて、農林水産省植物防疫課は学識経験者らによる技術検討会を作り、検討を始めた。これまでチョウはすべて輸入禁止にされていたが、有害とはいえないという指摘があったため検討することになったようだ。日本昆虫学会などは輸入制限を求める要望書を関係省大臣に提出した。
メガネトリバネアゲハはニューギニア島とその周辺の島々に生息する大型のチョウ。
(SOURCE:2003年2月8日 朝日新聞(東京版)夕刊)

[EXPLANATION]

この記事が出たのは今年(2003年)2月ですが、実際には昨年(2002年)11月に技術検討会が開催されています。今ごろ新聞に載るというのは、それほど重要性が低いと思われているのか、この日はよほど他に書くことが無かったのでしょうか。このあたりのマスコミの鈍感さにはいつものように文句を言いたくなるところです。
技術検討会については植物防疫所のホームページに少々資料があるのでご覧になってください。

さて、国外のカブトムシ・クワガタムシの輸入条件が緩和されたことについては、Vol. 52Vol. 137で紹介しましたが、今となってはこれは明らかに失敗であったと断言できます。年間数十万匹ものカブトムシ・クワガタムシが輸入されているというのは異常な事態であり、必ずどこかで問題が起こるものと予想されます。
移入動物は何かと問題であるということは、動植物に詳しい人にとっては今や常識的なことであり、有害であろうとなかろうと、輸入には厳しい措置を設けるべきでしょう。
もちろん、現在の「植物防疫法」でも輸入には制限があります。引用しますと…


(検疫有害動植物)
第五条の二  この章で「検疫有害動植物」とは、まん延した場合に有用な植物に損害を与えるおそれがある有害動物又は有害植物であつて、次の各号のいずれかに該当するものとして農林水産省令で定めるものをいう。
 一  国内に存在することが確認されていないもの
 二  既に国内の一部に存在しており、かつ、国により発生予察事業その他防除に関し必要な措置がとられているもの

(輸入の禁止)
第七条  何人も、次に掲げる物(以下「輸入禁止品」という。)を輸入してはならない。ただし、試験研究の用その他農林水産省令で定める特別の用に供するため農林水産大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。
 一  農林水産省令で定める地域から発送され、又は当該地域を経由した植物で、農林水産省令で定めるもの
 二  検疫有害動植物
 三  土又は土の付着する植物
 四  前各号に掲げる物の容器包装


ここで問題となるのは「まん延した場合に有用な植物に損害を与えるおそれがある」かどうか、という部分です。「有用な植物」とは農作物のことだと考えていいでしょう。国外産カブトムシ・クワガタムシの輸入が緩和されたのは、農作物に被害を与えるおそれはないから、と判断されたためでした。今回のメガネトリバネアゲハも同様なのではないか、という指摘があったものと思われます。
昆虫の場合、食べるものは種類によって決まっている傾向があります。モンシロチョウの幼虫ならキャベツやアブラナなど、ナミアゲハの幼虫ならミカン類など、といった具合です。メガネトリバネアゲハはおそらく日本にはない植物を食べているのでしょう。ならば、日本では繁殖できないし、農作物被害もない。そういう論法なのでしょう。
しかし、現実には被害がまったくないであろうことを証明するのは難しいものです。本来食べている植物が日本になくても、似た種類の植物を食べることが可能かもしれません。「絶対安全」を証明できない以上、輸入緩和には慎重にあるべきです。昆虫関係の学会がそろって反対するのも当然のことです。

それでも輸入をしたがる勢力はいます。そういった人々は「業者」か「マニア」だと思っていいでしょう。国外の希少昆虫は小売りで数万円という値段がつくのは珍しくありません。少々の手間と旅費で大量に捕獲して日本で売りさばけば商売になってしまうのです。また、マニアとはつまり「収集欲」が非常に高い人たちであり、珍しいものを手に入れたいと思うものです。昆虫のマニアが主にほしがるのはチョウの仲間(ガも含む)と甲虫の仲間(カブトムシ、クワガタムシ、コガネムシ類)と相場が決まっており、今まさに問題になっている昆虫たちなのです。
残念ながら、「業者」「マニア」の方々に「そんなことはやめてください」と言っても効果はないでしょう。そうなると、法律(つまり「制度」)で抑えるしか方法はありません。
あれもこれも制限するのには抵抗感があるかもしれませんが、長期的に環境に悪影響を及ぼす可能性がある以上、これは我慢すべきことだと思います。

さまざまな野生動物を輸入しようという圧力はこれからもたびたび表面化するでしょう。それをはね返すには、現在の法律は少々頼りない感もあります。輸入規制に関する法律には、今回紹介した「植物防疫法」(植物、昆虫が主な対象。担当は農林水産省)の他に、

・絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
 (ワシントン条約の国内法。担当は環境省)

・狂犬病予防法
 (狂犬病に感染する哺乳類が対象。担当は厚生労働省)

・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)
 (サル、プレーリードッグ、鳥類など感染症の危険がある動物が対象。担当は厚生労働省)

・家畜伝染病予防法
 (ウシ、ウマ、ニワトリなど家畜が対象。担当は農林水産省)

といったものがあります(これで全部だよな? なお、「狂犬病予防法」「感染症予防法」は厚生労働省担当だが、動物検疫は農林水産省=動物検疫所が全部扱っているようだ)。それぞれ目的と対象と担当がばらばらで、若干の抜け道も存在してしまいます。なによりも、「生態系を保全する」ための輸入阻止手段が弱いのが問題です。上記の法律をまとめて、動植物輸入・検疫を一括して扱うような制度を作るのがいいように思うのですが、現状維持・なわばり維持が大好きな日本の行政感覚ではやはり無理な話なのでしょうか。


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