いきもの通信 Vol.163[今日の事件]タマちゃんの住民登録/動物を利用したがる自治体たち 

Vol. 163(2003/3/2)

[今日の事件]タマちゃんの住民登録

動物を利用したがる自治体たち

[ON THE NEWS]
2003年2月6日、横浜市西区は同区内の帷子(かたびら)川に出現しているアゴヒゲアザラシ(通称「タマちゃん」)を住民登録すると発表した。本籍は「ベーリング海」、生年月日は「不詳(推定2歳)」。(読売新聞2月7日夕刊によると、氏名は「ニシ・タマオ」、住民票コードは「しあわせ1番」。)
22日、横浜市みなとみらい地区で、住民票交付を求める在日外国人20人がタマちゃんの扮装をしてアピールした。在日外国人はは税金を払っているが住民票は無く、参政権も無い。タマちゃんの格好をすれば住民票がもらえるのか?——というユーモラスかつ鋭いデモとなった。同市西区のコメントは「住民票は国の問題なので…」。
(SOURCE:2003年2月7日、18日夕刊、22日夕刊 朝日新聞(東京版))

[EXPLANATION]

「タマちゃん住民登録」のニュースを聞いて、ばかばかしいと感じた人はきっとたくさんいたでしょう。こういうのを「動物事件」といっていいかどうかは難しいところですが、何かの意味とか効果があるのかどうか不明な、わけのわからない動物事件です。
そういえば、横浜市は住基ネットに慎重な立場で、住基ネットに参加するかどうかは住民が選べたはずです。住基ネットと住民票は違いますが、タマちゃん本人の了解も無しに住民登録するというのは、行政の矛盾ではないでしょうか。
在日外国人がタマちゃん優遇を「奇妙なこと」と感じるのは当然です。「タマちゃん=かわいい=仲間」という思考が世間にはあります。そして一方で「外国人=犯罪者=排除」という思考も存在します。これはどちらも一面的な見方です。「タマちゃん=かわいい」というのが誤りですし、「外国人=犯罪者」というのも誤りです。しかし、世間の人々は有名人の発言とかマスコミ報道によって、こういった一面的思考を信じてしまうものなんですよね。そういう意味でもこのようなタマちゃん優遇はやってはいけないことだと言えるのです。

ところで、自治体が動物にいろいろと関わる例は多数ありますが、今回のタマちゃん住民登録のように「ばかばかしい」とか「なんかやな感じ」と思うことが時々あります。これは皆さんも多かれ少なかれ感じることがあるのではないでしょうか。
では、具体的にはどういう場合に「ばかばかしい」「やな感じ」と思うのか、考えてみました。逆に「すばらしいこと」になるのはどういう場合なのでしょうか。
これはなかなか難しい問題です。わかりやすい基準がどうも見つかりません。ですが、あえて言えば、これが基準になるのではないでしょうか。それは、

 「タダ乗り」かどうか

ということです。
今回のタマちゃん住民登録はまさにこれ。コスト・ゼロで自治体の宣伝ができる(新聞・テレビは絶対取り上げる話題だから)という、絵に描いたようなタダ乗りの好例です。この不景気ですから行政的にはタダ乗りできるのはありがたいでしょうが、この場合、タマちゃん側の利益がまったくない、という点で行政の身勝手さを感じてしまうのです。
他にも例を挙げてみましょう。
ツチノコ発見に賞金を出している「ツチノコ自治体」というのが全国にいくつもあります。これもまさにタダ乗り。ツチノコなんて実際には見つからないわけですから、賞金は形だけのものです。それでも「賞金を出す」というだけでマスコミは飛びつきますから、広告宣伝には非常に効果的なのです。もしツチノコが見つかったとしても(そんなことはありえないが)、マスコミが大挙して押し寄せ、自治体の名前を連呼してくれるわけですから、賞金以上の波及効果が見込めます。そのツチノコが本物でないとしても、「ツチノコっぽいぞ」というだけでマスコミはやってきます(そういう事件がありましたよね)。実によくできた仕組みですが、うまくだまされているということに気づかなければなりませんよ。
自治体が野生動物に名前を付けるというのも「タダ乗り」と言えます。昨年のタマちゃん騒動以降、2ヶ所でアザラシが現れましたが、そのいずれも自治体が名前をつけようとしました。当然、その名前は自治体名称にちなんだ名前なのでした(ここでは自治体の宣伝をしたくないので自治体名は書きません。名前は「ウタちゃん」「せいちゃん」ということだけ書いておきましょう)。宣伝に利用しようとする意図がみえみえです。
博物館のような施設(いわゆる箱物)を作るのも「タダ乗り」でしょう。今回も「タマちゃん博物館を作ろう!」なんてことになったら私は本当に怒りますよ。そんなものを作っても、うれしいのは建設業界だけで、タマちゃん本人には何の利益にもなりません。そんな博物館に行ったところで何か役に立つのでしょうか?

では逆に、自治体は野生動物に対してどのような関わり方をすればいいのでしょうか。これまでの論から行けば、「タダ乗りするな」ということになります。これではちょっとわかりにくいですか。言い換えると「その動物にとってより適切な方法で対処しているか」ということになるのではないでしょうか。
そう言っても具体的なイメージはなかなか思い浮かばないでしょうか。ひとつの代表例として、「兵庫県立コウノトリの郷公園」を紹介しましょう。同公園は兵庫県豊岡市にある施設で、コウノトリの飼育と繁殖を行っています。日本では絶滅したコウノトリを復活させようと、長年努力してきました。それにはさまざまなコストがかかっているわけで、「タダ乗り」とは正反対、時にはムダ遣いと非難されかねないことです。これだけでも立派なことですが、立派なことは他にもあります。同公園では、数を増やしたコウノトリを近い将来、公園の外に放すことを計画しています。コウノトリが外で生きていくためには、生活できる環境(=水場や巣を作れる場所)を整備しなければなりません。豊岡盆地の自然環境自体も悪いものではありませんが、公園内にも水場を作るなどして準備をしているのです。また、近隣の水田ではアイガモ稲作(無農薬稲作)を実践しています。農薬によってコウノトリが食べる魚やカエルがいなくなったという反省からのものですが、これは自治体の押し付けではなく、農家の方々の積極的な協力によるものです。さらに、地元の自然環境団体の活動の拠点にもなっていたり、とシステムが非常にうまく働いているのです。同公園には私自身も行ったことがあるのですが、その場に立っただけで、なんてすばらしい場所なんだろう!と本当に感じました。
「コウノトリにとってより適切な方法で対処しているか」——この基準を見事クリアーしているのです。

これに比べると、「タマちゃん住民登録」のなんとスケールの小さいこと!せこいこと! 自治体のタダ乗り政策などには、相手をせず、無視するぐらいがちょうどいいのではないでしょうか。
そして、自治体職員の方々へ。こんなタダ乗りをしても自治体の評判が上がるわけではありませんよ。少なくとも私は絶対こきおろしますので、覚悟はしておいてください(笑)。


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