EXTRA 6(2001/11/11)

「季刊Relatio」連載

「動物事件の読み解き方」補足

第6回 兵庫県美方町ツチノコ捕獲事件

※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。「Relatio」は緑書房グループのホームページから購入することができます。
(参照 EXTRA 0)


今年の夏のツチノコ騒動については既にこの「いきもの通信」Vol. 92でも取り上げましたが、「リラティオ」では鑑定結果や歴史も含めてあらためて書きました。この記事には今回の疑惑のヘビの写真(白黒)も掲載されていますので、興味ある方はぜひご覧ください。

ツチノコ関連ホームページ

まずは関連のホームページから紹介していきましょう。

兵庫県美方町
今回の事件の舞台となった場所です。ホームページには今回の件の経緯の一部も掲載されています。

(財)日本蛇族学術研究所(ジャパン・スネークセンター)
今回のヘビの鑑定をされた鳥羽通久氏が所長を務める研究所です。

ツチノコ共和国
「第2次ツチノコ・ブーム」のきっかけとなったミニ共和国です(奈良県下北山村)。ミニ共和国といっても自治体の関与が少ない団体です。

岡山県吉井町
岐阜県東白川村

その他のツチノコ自治体のホームページです。ただしツチノコを前面に押し出しているような自治体ばかりではありませんので、ツチノコ情報としてはあまり役に立たないでしょう。岡山県吉井町は2000年に「ツチノコの死体」で話題になった自治体です。

参考文献

・山本素石「逃げろツチノコ」
この本こそが昭和40年代の「第1次ツチノコ・ブーム」のきっかけとなったと言えるでしょう。現在は書店での入手は不可能ですので、図書館で探してみてください。この本は当時はけっこう売れたようですので、蔵書数が多い図書館ならあると思います。

・田辺聖子「ふんだりけったり」
これも「第1次ツチノコ・ブーム」に貢献した小説です。
ただ、この作品は図書館や古本をあたってみても見つかりませんでした。文庫あたりに収録されていてもよさそうなのですが…。

あらためて、ツチノコの実在を検証する

今回の事件で、私は「ツチノコは存在しない」との確信を深めました。今回の疑惑のヘビは「転がる」「鳴く」といったツチノコの特徴とされるものが観察されました。しかし、ツチノコではありませんでした。ツチノコが既知のヘビと異なるならば、ツチノコ特有の特徴がなければいけません。しかし、ツチノコの特徴の中にはそのような特有のものはほとんどないのです(このあたりについてはVol. 92参照)。唯一確実な特徴は「胴体が太い」ということだけ。たったこれだけでその実在を信じることは難しいのではないでしょうか。
また、よく「今までに一度も見たことがないヘビだ」とか「図鑑にも載っていなかった」といったことが言われたりするのですが、これらはまったく根拠の無いことだと私は断言します。一般人のヘビの知識では、見ただけで種の判別はできません。また、世界には2000種以上のヘビが存在しており、普通の図鑑ではすべてを網羅できません。図鑑に載っていないことはツチノコの証明にはならないのです。

第1次/第2次ツチノコ・ブーム

今回の記事では「第1次/第2次ツチノコ・ブーム」という言い方でツチノコの歴史をとらえてみました。この表現は私が今回名付けたものです。この表現には、「ツチノコとは作られたブームである」という意味も込めています。ツチノコ・ブームあるいはツチノコ騒動には人為的に作られた部分があることは否定できないからです。
第1次ツチノコ・ブームは、最初はそういう「作られたブーム」という意図はなかったものの、マスコミに取り上げられて有名になっていく過程の中で、不確実な情報や詐欺的な情報が大量に出現してしまいました。結局、怪しげな情報ばかりが飛び交うことになり、信ぴょう性が疑われる結果となり、ブームもしぼんでいきました。
第2次ツチノコ・ブームの方は、最初から客寄せ目的で始まった明らかに人為的なブームです。客寄せ目的のために、厳密な検証も無しに不確実な情報も無批判に飲み込んでいった面があるのは否定できなません。また、第2次ツチノコ・ブームでは地方自治体が関わることが多く、それが一種の「権威付け」の効果があったのも確かでしょう。
また、テレビなどマスコミが興味本位で取り上げるために、ますます厳密な検証がおろそかになっている傾向があることも指摘しておかなければなりません。ツチノコについて語るときには、このような人為的な面があることも考慮し、より確実な証拠を検証する必要があるのです。

ニホンオオカミとの比較

日本のミステリー動物と言えばニホンオオカミも有名ですが、こちらはツチノコと違い、かつて確実に存在した動物です(Vol. 71EXTRA 4参照)。大昔、日本列島が大陸と地続きだった頃、タイリクオオカミまたはイエイヌではないイヌ科動物が日本列島に来たのは確かです。そして、いくつかの標本と多数の骨が残されています。研究材料が少ないとはいえ、現在でもなんとか学問的追求が可能なのです。ところが、ツチノコは捕獲されたことが無いために検証がまったく不可能なのです。
ニホンオオカミとツチノコを比較して面白いのは写真証拠のことです。最近でもニホンオオカミ発見が話題になりますが、これらにはちゃんと写真という証拠が添えられています(本物のニホンオオカミかどうかは別として)。ところが、ツチノコの方は、ニホンオオカミよりも目撃証言が多いにも関わらず写真がまったく存在しないのです。ツチノコが、写真が撮れないほどすばしこい動物とは思えません。このことはツチノコの存在を否定する間接証拠といえるのではないでしょうか。


追記

2001年12月9日放映のテレビ番組「特命リサーチ200X!」(日本テレビ)でこの美方町ツチノコ他最近のツチノコ疑惑動物のDNA鑑定結果が紹介されましたが、結果はすべて「ヤマカガシ」でした。
また、この番組では「アオジタトカゲ説」も紹介されました。外来のトカゲ・ヘビ説も確かに可能性はあります。ツチノコ像がひとつにまとまらないのも、多種多様な動物の目撃談が入り交じっているため、と考えることもできます。
(2001年12月9日)


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