Vol. 176(2003/6/1)

[今日のいきもの]SARSで注目のハクビシン

実は身近な所にいる、誰も知らない動物

3月からのSARS(重症急性呼吸器症候群)の猛威はなかなかおさまりませんが、5月下旬になって新しい話題が登場してきました。それは、「SARSの原因であるコロナウィルスをハクビシンから検出した」というものでした。医学的なことはさておき、このニュースを聞いて「ハクビシンって何?」と思った方はとても多かったでしょう。ハクビシンは日本にもいるということを知っている人もあまりいないでしょう。
そういえば、NHKテレビのニュース番組でこのことが取り上げられた時、映像にはハクビシンが映っているのに、アナウンサー(それに字幕も)は「ジャコウネコ」と繰り返していました。ハクビシンは分類上は「ジャコウネコ科」なので半分合っているようなものなのですが、ハクビシンの生息地域には「インドジャコウネコ」「ジャワジャコウネコ」もいますので不正確な報道と言わざるを得ないでしょう。
NHKも知らなかったハクビシンとはどんな動物なのでしょう。

ハクビシンの分類は食肉目ジャコウネコ科です。ジャコウネコといっても日本人にはピンと来ないでしょう。あえて言えば、ジャコウネコ科に近いのはマングース科です。

イヌ科 37種 タイリクオオカミ、キツネ、タヌキなど
クマ科 7種  
アライグマ科 13種  
パンダ科 2種 レッサーパンダ、ジャイアントパンダ。現在ではクマ科に組み込む説が有力。
イタチ科 64種 オコジョ、テン、アナグマ、スカンク類、カワウソ類、ラッコなど
ジャコウネコ科 35種 ハクビシンなど
マングース科 37種スリカータ(ミーアキャット)など
ハイエナ科 4種  
ネコ科 8種 ヤマネコ類、ライオン、ヒョウ、トラなど
アシカ科 14種 オットセイ類、カリフォルニアアシカ、トド、オタリアなど
セイウチ科 1種  
アザラシ科 19種 ゴマフアザラシ、モンクアザラシ類、ゾウアザラシ類など
(出典:「世界哺乳類和名辞典」平凡社)

食肉目の分類が上の表です(下の3つは鰭脚類という、海にすむ食肉目)。イヌ科とかイタチ科なら想像がつきやすいでしょうが、ジャコウネコ科の動物は元々日本にいなかったので、なじみが薄い動物なのです。

ハクビシンの外見の特徴は3つあります。

・顔の真ん中に白い縦線

 これが一番目立つ模様です。顔には他にも目のまわりに白い模様がありますが、ぱっと見て一番印象に残るのは真ん中の縦線です。ハクビシンは漢字で書くと「白鼻心」。この模様のことを指しているのです。

・胴が長くて足が短い

 イタチみたいな感じに思えるかもしれませんが、イタチよりも明らかに大きいです。頭〜胴体の長さは柴犬、タヌキなどと同じぐらいの長さです。イタチはこれよりも一回り小型です。

・尾が長い

 頭〜胴体と同じぐらいの長さです。

このわかりやすい3つの特徴のおかげで、日本国内で他の動物と誤認されることはまずありません。自然観察的には非常にわかりやすい動物です。

ハクビシンは雑食です。植物は果実(木登りが得意)、動物は小型哺乳類、鳥、カエル、昆虫、カニといった小型動物を食べているそうです。なんでも食べるというよりは、おそらく食べられるものを食べるという「場当たり食」ではないかと思います。言い換えれば、いろんな環境に適応しやすい動物ということかもしれません。

ハクビシンの本来の生息地は、東南アジアを中心に、西はインド、ネパール、東は中国まで広がっています。
哺乳類に少しでも詳しい人の間ではよく知られていることですが、日本にもハクビシンはいます。ただ、昔からいたわけではなく、比較的新しい時代に持ち込まれたとされています。その時期については確定的な証拠が未だに見つかっていないのですが、1940〜1950年代ではないだろうか、というところまではわかっているようです。それ以上のことが不明である理由は、ハクビシンを持ち込んだ理由・動機がわからないためです。時期からいってペット目的とは考えにくいですし、食料として利用するには輸入は効率が悪いように思います。
現在、日本のハクビシンは、たくさんいるわけではないけどそれほど珍しくはない動物です。例えばハクビシンは東京都23区内にも確実にいます。ただし、タヌキよりも数は少ないはずです。また、この中にはペットが逃げ出したものも混じっていると思われます。
ハクビシンはこのように移入動物(外来種)なのですが、悪名高いアライグマほどには問題になっていません。爆発的に増えることもなく、人間生活に害を及ぼすこともあまりないため、特に対策が取られているということは聞きません。それでも移入動物であることにかわりはありませんから、その生態には注意を払う必要があります。


と、まあ、ハクビシンのことを説明してみましたが、この動物には外見的にも生態的にもあっと驚くようなセールスポイントがないために、知名度的にはかなり損をしていると言えます。もっとも、動物のほとんどはそのようなものばかりなのですが。
SARS騒ぎがおさまれば、ハクビシンも再び忘却の彼方に消えていくことでしょう。


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