Vol. 190(2003/9/7)

[OPINION]あいつが来てから1年たった

または、マスコミ情報の地方格差について

1年前の夏の日。あいつは唐突にやって来ました。そして、今もそこに居続けています。


と書いたら、ほぼ全員が「あ〜、タマちゃんのことね〜」と思うでしょう。でも違います。「あいつ」とはコウノトリのことです。1年前にもこの「いきもの通信」で取り上げたあいつのことです
当初、あいつはコウノトリの郷公園にいたのですが、現在はコウノトリ保護増殖センターを寝ぐらにしており、近くの円山川やコウノトリの郷公園の他、豊岡盆地一帯を行動範囲にしています。現在も週3回ほど観察が続けられており、概要がホームページに掲載されています(同公園ホームページの「野生コウノトリ情報」から閲覧できる)。大勢の見物客が押し寄せることもなく、わけのわからない名前を勝手につけられることもなく、静かに暮らしているようです。同公園では、飼育しているコウノトリを放鳥する計画を進めているところですが、この豊岡盆地がコウノトリにとって本当に暮らしやすい場所であることをこの野生のコウノトリは証明してくれたようです。
一方、このコウノトリが飛来してから1年、タマちゃんよりもはるかに貴重な動物であるにもかかわらず、マスコミで紹介される機会はほとんどありませんでした。例えば、朝日新聞東京版では1回紹介されただけでした。一時期連日テレビに登場したタマちゃんと比べるとなんという格差でしょう。捕獲未遂事件や釣り針事件(そして白装束集団追っかけ事件も)など盛り上がるネタに事欠かなかったことを差し引いても、タマちゃんはマスコミに厚遇されていると言えます。

なぜコウノトリの報道は極端に少なかったのでしょうか。「マスコミの不勉強」というのは当然の理由ですが、それだけが原因でもないでしょう。
私が考える別の原因は、「マスコミ、特にテレビの情報は首都圏に偏っているのではないか」ということです。
これは東京=首都圏で生まれ育った人には理解しにくいことかもしれません。例えば、地方に旅行に行くと、「新聞が薄い」とか「夕刊が無い」とか「雑誌が発売日に店頭に並ばない」とか「テレビで東京の番組をやってない」とかいった経験をした方はきっと多いでしょう。首都圏で生活している人にとっては、そんな不便は家に帰るまでの一時的なものなのですが、そこに住んでいる人にとってはそれが日常なのです。
私の生まれ育ちは福岡市です。福岡市は130万人都市で、かなり大都市なのですが、それでも雑誌は2〜3日発売が遅れます(週刊誌でも!)。東京に来てみて、新聞、テレビの様子がずいぶん違うことに驚いたものです。そしてこうも思ったのです。「首都圏で生まれ育つと地方の事情を知らずに大きくなってしまうんだろうな」、と。
実際に東京で暮らしていると、首都圏だけで世界が完結しているような錯覚におちいってしまいがちです。しかし、首都圏以外でもいろいろなことが起こっているのです。地方は東京に比べて受け取る情報が少ないということはよく言われますが、その逆に地方が発信する情報量も少ないのも事実です。これは地方の情報そのものが少ないというだけではなく、情報がマスコミにうまく伝わっていないという面も少なくないと思われます。これは、地方側の努力が足りないということもあります。しかしそれ以上に、マスコミが地方を「ローカル」と見下し、切り捨ててしまうという側面の方が大きいように私には思えるのです。
マスコミはもっと地方情報に目を配り、耳を傾けるべきではないでしょうか。そして、何が重要なのかをきちんと理解してほしいものです。タマちゃんとコウノトリの場合、コウノトリが取り上げられることが極端に少なかったのはマスコミの判断の誤りだ、と確信を持って私は言います。


そして忘れてはならないのは、私たちもマスコミのこのような傾向を理解した上で、マスコミに向き合った方がいい、ということです。どうも日本人はマスコミの言うことを鵜呑みにする傾向が強いのですが、これは良いこととは言えません。マスコミが何を取り上げ何を取り上げないのか、マスコミがある分野(例えば動物)についてどれほどの知識を持っているのか、そういったことを読者・視聴者も理解して接する必要があると思うのです。
でも、実際にはそういうのは面倒かもしれませんね。そういう場合は、「このジャンルについてはこの人の意見を参考にする」という人(学者や専門家)を決めておくのがいいでしょう。専門家はそれなりの知識と経験から発言するわけですから、マスコミよりよっぽど信頼できるでしょう。
動物分野の場合、もちろんこの「いきもの通信」を参考にしていただければ幸いです。


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