Vol. 197(2003/10/26)

[今日の観察](街中でも)上を向いて歩こう

自然公園のようなフィールドを歩く時には上にも下にも目を向ける、というのが自然観察の基本です。あちこちを見なければならないのでけっこう忙しいものです。
街中を歩く時は、普通はそんなにきょろきょろする必要はありません。私の場合は、住宅地を歩く時は野良猫を探してきょろきょろすることもあるのですが、ちょっとアヤシイですかね?


アキアカネというトンボがいます。一般的には「赤トンボ」として知られているトンボです。このトンボは、長距離移動することが知られています。ヤゴ(幼虫)が羽化するのは、平地の池、プールなどです。これが6〜7月ごろ。暑くなるとアキアカネは山へ移動していきます。そして、涼しくなり始める8月後半から平地に戻ります。この山地への往復の途中、街中で目撃されることがあっていいはずです。
このことに気付いたのが9月下旬。さっそく買い物に出かけた時に確かめてみました。アキアカネは枝先によくとまります。この「とんがった所が好き」という性格から推理すると、テレビアンテナはちょうどいい休憩場所のはずです。ところが、テレビアンテナには全然いません。代わりに電線にとまっているのです。よく見るとあちこちの電線にアキアカネの姿が見えます。「街中にもいるはず」という私の考えは当たっていたわけです。
アンテナでなく電線にいたのは推理が外れましたが、アキアカネはフェンスやロープの上など平らで細い所にいることも多いので不思議なことではありません。アキアカネがとまる枝はまず間違いなく上向きであることを考えると、水平方向に枝が出ているアンテナはあまり魅力がなかったのかもしれません。
アキアカネ以外には、ノシメトンボと思われる個体を1回だけ目撃しました。
こんなに簡単に見つけられたので、あわてて証拠写真を撮る必要もないな、と思っていたら、いつの間にか(1週間も経たずに)アキアカネの姿は消えていました。どうやら移動の終わりの時期だったようです。アキアカネの行動から推測すると、8月後半から9月いっぱいまでが観察のチャンスのようです。これは山から平地へ戻る場合です。平地から山へ行く時期は6〜7月ごろと推測できます。来年はこの時期にも注意しておこうと思っています。そうそう、来年こそは証拠写真もちゃんと撮っておかねばなりません。


上を向いて発見できるのはトンボだけではありません。
10月(今月)の雨の降る日のことです。場所はJR高円寺駅からすぐの所でした。道を歩いていると、上でスズメが妙に騒いでいます。寝ぐらがある場所でもないし、寝ぐらに帰る時刻でもありません。何だろう、と上を見ると、な、なんと、ネズミが電線を伝っているではありませんか。電線は複数の線を束ねたもので、ネズミが歩くには十分な太さがあります。近くの電柱とそのそばの電線にスズメが10羽ほど集まっていたのですが、ネズミと関係があるのかどうかはよくわかりませんでした。ネズミを見つけて騒ぎ立てているようにも見えましたが真相は不明です。このネズミはドブネズミかクマネズミのはずですが、判別できませんでした。実は判別方法をよく理解していないのですよ。
電線を渡るネズミ、というのは以前から見てみたかった光景でした。以前紹介した「ネズミに襲われる都市」という本で、都市内でのネズミの移動ルートは道路ではなく電線なのではないか、という仮説が書かれていたからです。同書では伝聞の目撃例も紹介されていましたが、きちんとした証拠は得られていないということでした。私が見たネズミの電線渡りも、普遍的な行動なのか、特殊な行動なのかまではわかりませんが、電線渡りは可能であるということの証言例にはなるでしょう。
ただ、非常に非常に残念なことに証拠映像は撮っていません。目撃できるとは予測できませんしね。今回のような場合は、写真よりもビデオで撮った方がきっと面白いでしょう。


と、こういうこともありますので、街中でも上を向くことを忘れてはいけないのです。しかも動物は上ばかりではなく下にもいますから、下を見ることも必要です。自然観察は本当に忙しいものなのです。


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