Vol. 199(2003/11/9)

[今日の観察]都会にトンボは何種類いるか、調べてみました

2003年版

2001年、東京都内某公園にトンボは何種類いるのか調べたことは以前紹介しました。その時には13種を確認できました(Vol.123も参照)。去年(2002年)は忙しくて某公園に行く時間もなかったのですが、今年は仕事が全然なかったため、再びトンボ探索をすることにしました。

今年(2003年)の探索では「捕獲して種を確認する」ことにしました。2001年は生態そのままを写真に撮るようにしていたのですが、必ずしも近くで写真がとれるわけではありません。また、撮れた写真でも小さくしか写っていないのでは種の確認も困難です。そこで、今年は捕獲して正確に確認する方針に変更したのです。
捕獲して確認した結果、2001年に確認した種名が正しくないトンボもあることがわかりました。以下ではその訂正も含めて紹介していきます。

では、確認できた順番で紹介していきましょう。


クロスジギンヤンマ

今年はいきなり大物を捕獲しました。ぱっと見てギンヤンマ類であることはわかったのですが、図鑑と見比べるとギンヤンマではありません。よく調べると、クロスジギンヤンマであることがわかりました。ギンヤンマと比べると、腹がはっきりとした黒色です。
生態的にはやや暗い場所を好むトンボです。これに対してギンヤンマは明るい場所を好みます。といってもその境界ははっきりとしておらず、これら2種が同じ場所で見られることもあるといいます。

アオモンイトトンボ
(アジアイトトンボから訂正)

2001年にはっきりと判別ができなかったのがこのトンボです。今年、同じ場所で捕獲して模様をよく検討した結果、アオモンイトトンボだと判明しました。これらは腹端の模様で区別します。全長3cmほどの小さなトンボですので、よほど近くから見ないと判別できません。
この公園ではあまりじっくり見なかったため、オスしか確認できませんでした。上の写真はいずれも葛飾区で捕獲したものです。
アオモンイトトンボがややこしいのは、メスの模様に2種類あることです。写真のように同色型と異色型の2型があるのです。慎重に確認しないと混乱してしまいそうです。

ショウジョウトンボ

真っ赤なトンボがまれに現れるということは、2001年にもわかっていました。今年は捕獲してようやく確認できました。
ショウジョウトンボのオスは写真のように全身真っ赤なトンボです。眼も真っ赤、足も真っ赤です。しかし、「赤トンボ」ではありません。赤トンボは、普通アキアカネのことを指します。また、広義の赤トンボは「アキアカネ属(アカトンボ属)」のことですが、これらにもショウジョウトンボは含まれません。
一方、メスはまったく赤くありません。写真のようにこれといった特徴がありません。もしメスをオスよりも先に捕まえていたら、種の判別ができなかったかもしれません。メスだけを見ると、ネキトンボ♀と誤認することがあるかもしれません。これらの違いは、脚が茶色なのがショウジョウトンボ、黒いのがネキトンボです。また、ショウジョウトンボの方が大きいです。
今年は東京都内をいろいろ歩いたのですが、ショウジョウトンボはほとんど見かけませんでした。ショウジョウトンボの出現のピークは夏前だそうです。今年はその時期にはあまり歩いてなかったので、見れなかったのかもしれません。

クロイトトンボ

アオモンイトトンボがいる場所には抽水植物(葉が水面に浮く水棲植物)がびっしりと生えています。アオモンイトトンボを探してじっと観察していると、視界の隅で時々何かが飛んでいるのが見えました。細長い胴体は明らかにトンボです。そこでこのトンボがいるあたりをよく見るのですが、なかなか見つかりません。あまりにも小さく、抽水植物の葉の上でじっとしているので見えないのです。数m離れただけで肉眼での確認が難しくなるため、双眼鏡も使っての探索になります。飛ぶ時も水面すれすれしか飛びませんので、捕獲するのも大変です。
苦労して捕まえ、クロイトトンボということがわかりました。全長は3cmという小ささです。抽水植物の葉の上にとまっているのはオスで、メスが飛んでくるのを待っているのだそうです。

ここまでが梅雨明け前までの成果です。この後はしばらく新しい種の発見はありませんでした。

コノシメトンボ
(リスアカネから訂正)

トンボ探索をしている某公園は意外と広くて、実はこれまでは東半分しか歩いていませんでした。池があるのは東半分ですので、そこを重点的に探していたのです。しかし、新しい種を探すにはこれまで見ていなかった所を探すべきです。西半分にも水場はあります。ここには江戸時代に人工的に作られた水路があります。近代的なコンクリート護岸ではなく、植物が生い茂る場所です。
夏も終わりになると、アキアカネやノシメトンボといったアキアカネの仲間が現れてきます。この水路は樹木に囲まれていて涼しいので、これらのトンボがよく見られます。その中に見慣れないトンボがいるではありませんか。リスアカネかと思ったのですが、写真を撮って調べてみるとコノシメトンボであることがわかりました。コノシメトンボのオスは胸が赤いのが特徴ですが、未成熟なオスは胸は赤くなりません。しかし、胸の黒い模様で判別はできます。
コノシメトンボのオスがいる場所にはノシメトンボのメスもたくさんいました。と思ったら、写真を確認してみるとコノシメトンボのメスということがわかりました。違いは大きさと胸の模様なのですが、よく見ないと区別できません。
2001年に「リスアカネ」としたトンボは、数からいってもコノシメトンボだったと思われます。かなり注意してもリスアカネは発見できませんでした。また、2001年はコノシメトンボのメスとノシメトンボのメスを同じものと見なしてしまっていたようです。
また観察の結果、この公園にはノシメトンボはいるものの数が少ないことがわかりました。一方のコノシメトンボはかなり多く見られます。ノシメトンボもコノシメトンボもアキアカネの仲間ですが、これらの仲間は局地的に分布がかたよる傾向があるのかもしれません。

オオアオイトトンボ
(アオイトトンボから訂正)

これまで1度しか見ていなかったのがこのトンボです。2001年にはアオイトトンボと書きましたが、捕獲して確認したわけではなく、確信があったわけではありません。
今年は、10月上旬に意外とあっさりとオスを捕獲できました。そして、写真を撮って調べたところ、オオアオイトトンボと判別できました。決め手は大きさです。文献にあった腹長と合致していました。また、縁紋の形でも判定できました。
さらに10月後半、別の場所、しかも水場からやや離れた場所にオオアオイトトンボが何匹もいる場所を発見しました。そこは笹や草が低く生い茂る場所で、日当たりもいい所です。ちょうどコノシメトンボがいたので写真を撮っていたら、草むらの方で青いつまようじが飛んでいるのが視界に入ってきました(本当はメタルグリーンなのだが、遠目には青く見える場合がある)。よく見ると、それがオオアオイトトンボであることがわかりました。こういう所にもいることがわかったのは貴重な情報で、他所で探す時にも大きなヒントになります。

ギンヤンマ

証拠写真は撮れず、捕獲もできませんでしたが、ギンヤンマがいることは確実です。8月に池の上を飛ぶ大型のトンボを双眼鏡で観察したところ、ギンヤンマと判別できました。今年は既にクロスジギンヤンマをよく観察しましたし、別の場所でギンヤンマを捕獲していたので、これらを間違えることはないでしょう。
今年あちこちを歩いてわかったのですが、東京23区内でもギンヤンマは普通に見られる種類です。この某公園にいても不思議ではありません。


以上が今年の観察の結果です。種名の訂正をして、さらにギンヤンマを含めると計17種を確認できたわけです。

さらに、ちらっと見ただけですがオオヤマトンボらしきトンボを1回目撃しました。またもう1種、別のトンボも見ています。これらを含めると、某公園には20種にせまるトンボがいることになります。都会の、それほど条件が良いとは思えない場所でもこれだけのトンボがいるとは、あらためて驚きます。

さて、今年のトンボ探索はこれで終わりではなく、冬もまだ続きます。ホソミオツネントンボの探索です。今年は資料で調べて、ホソミオツネントンボがいそうな場所がだいたいわかってきました。秋以降、この某公園では既に2回目撃できています。また、別の場所でも2回目撃できました。まるで小枝のようなトンボをこれだけ発見できているのですから、この冬はいろいろな発見があるかもしれません。


[いきもの通信 HOME]