Vol. 211(2004/2/29)

[今日のカラス]検証・カラス捕獲トラップ 2004年版

さて、久しぶりに東京カラス問題の登場です。今年も東京都から発表がありました。いつもなら4月以降に発表なのですが、今年はどういうわけか早い発表です。発表文は下記の所にあります。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2004/02/60e2o200.htm
「報道発表資料 カラス対策の進捗状況をお知らせします 平成16年2月24日」

東京都のホームページのトップページからは、次にようにたどります。
トップ→これまでの報道発表→2004年→2月

今回の発表の目玉は、「カラスがかなり減った」ということです。1万羽以上減っているのですから、かなりの数字です。これは喜ぶべき結果と受け取る人は多いでしょう。ですが、「カラスは殺しても減らない」とずっと主張してきた私にとっては非常に不利な結果となりました。

発表内容の概要は次の通りです。

・都内のカラスの生息数は、2002年12月の35,200羽から2003年12月には23,400羽に減少した。
・2003年8月1日から2004年1月末までに約14,500羽を捕獲した。前年度は12,000羽捕獲している。
・捕獲トラップは都内に110台、都外に10台。

この発表内容を検討するとこうなります。
まず、カラスの生息数が減少した原因ですが、これだけの資料からは何もわかりません。カラス捕獲がどれほど影響したのか、あるいはゴミ対策が影響したのか。どちらが効果的だったのかはまったく不明です。ちゃんとした施策を立てるためには、ある行為の結果がどれほどの効果を与えているのかをきちんと調査検討するのが当然なのですが、行政にはそういう発想がないのは困ったものです。
カラスが減った原因はこの他にも考えることができます。例えば、これは普通に起こりえる自然の増減の結果かもしれません。自然界では動物の個体数が年によって増減するのは珍しいことではありません。たまたま今回はカラスが東京から出払っていたのかもしれません。
もっと意地悪な見方をすれば、そもそも調査の方法が適切だったのか?という疑問も持ちだしたくなります。
都の発表内容も年々後退しているように見えます。例えば、去年までは生息数は「区部」と「多摩地区」で分けていたのですが、今年はそれがなくなりました。また、一昨年はどこで捕獲数が多かったかのランキングも発表されていますが、昨年からはなくなっています(昨年はNHKテレビのニュースでちょっと報道されたことがあった)。こちらは、カラス捕獲トラップを民有地にも置くようになったからでしょう。民有地の設置場所は公開しておらず、ランキングも発表できないというわけです。

いずれにせよ、カラスが減った原因は不明です。
よくわからないのは、なぜ今回大幅に数が減ったかです。前年も同じぐらいの数を捕獲したにもかかわらず、生息数はほぼ横ばいでした。それがなぜか今回は急減しました。実際はカラス捕獲とは別のところに減少の理由があるのではないか、と思えるのです。とすると、ゴミの対策が進んだ、ということが原因になるのでしょうか。あるいは別の要因があるのかもしれません。
また、カラスが減ったという実感がないのも私の正直な印象です。最近特にカラスが減ったという感じはまったくありません。動物の生息分布というものは局地的に変動することもあるので、私が歩いている範囲ではたまたま数が減っていないのかもしれません。テレビニュースのインタビューでは、普通の住民の方が「減りましたね〜」と言ったりしていましたが、よっぽどカラスに注意を払っている人でもない限り増減の感覚なんてあてにならないものです。私の感覚でさえあてにならないのですから。

とにかく、私が望むのは第三者による科学的な検証です。専門家による分析です。検証分析無しに今の施策を惰性で続けていくのは非常に良くないことだと思います。
特に、現在の都の施策では、「ゴミ対策の普及」よりも「カラス殺処分」の方が注目されやすい傾向があります。今回の発表の結果、「殺せば問題は解決する」という(正しいかどうか検証不可能な)結論がひとり歩きする可能性もあります。これが全国各地の自然保護の動きに悪影響を及ぼすのではないかという懸念もあります(殺処分がカラス以外のサル、クマ、シカなどにも安易に広がるおそれがあるのです)。
もうひとつ注意していただきたいことは、現時点で都の施策が成功したとは言えない、ということです。今回の減少は一時的なことなのかもしれません。さらに長期的な変動を見守る必要があります。ほんの数年の結果だけで判断できるようなことではないのです。
都は現時点での「成功」によって、私のような主張、あるいは外部の意見に耳を貸さなくなるでしょう。専門家の意見もますます尊重しなくなることも考えられます。この「成功」は単純に喜ぶべきものではありません。


あれこれ考えてやはり気になるのは、都はいつまで捕獲を続ける気なのだろう、ということです。当初の計画では何年間か続けるとのことで、いつまで、とは区切っていません。おそらく2004年度も捕獲は続けるものと思われます。
もし、捕獲を続けて、カラスの数も減少し続けたならば、都は捕獲をずっと続けるでしょう。なぜなら、捕獲し続けないとまた増えてしまうおそれがあるからです。
逆に、捕獲を続けてもカラスの数が減少しない場合も、やはり捕獲を止められないでしょう。「もっと捕獲しなければカラスは減らない!」となって、捕獲をさらに強化するかもしれません。
どっちになっても捕獲を続行できる理由になってしまうわけですからやっかいなことです。施策の影響度を調査検証するべきだ、と私が主張するのは、それをやらないと半永久的にカラスを殺し続けることになりかねないからです。

私の主張を再び繰り返しますと、「カラスの数が問題ではない。カラスが人間に近づきすぎることが問題なのだ」ということです。カラスを減らすことに躍起になっている都当局とは論の立て方が違っているのです。
都の施策だけが唯一のものではありません。他の方法もいろいろ考えられるのです。私がこれまでに主張した方法でも、カラスの被害は減らせただろうと私は確信しています。カラスの犠牲も最小限にするもっと穏やか方法もある、ということをあらためて主張しておきます。


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