いきもの通信 Vol.233[今日の本]日本産魚類検索 全種の同定 第二版 

Vol. 233(2004/8/15)

[今日の本]日本産魚類検索 全種の同定 第二版

日本産魚類検索 全種の同定 第二版
[DATA]
編:中坊 徹次
発行:東海大学出版会
価格:29400円(税込)
初版(第一版)発行日:1993年10月12日、第二版は2000年12月20日
ISBN4-486-01505-3

[SUMMARY]図解で探す検索図鑑

図解と解説にしたがい矢印をたどっていくと、目的の魚を探し当てることができる形式の検索図鑑。日本産の淡水魚・海水魚を網羅し、第二版では3863種を掲載している。全種について線画イラストと和名、学名、各種データが記載されている、ある意味パーフェクトな図鑑。第一版は1480ページもの大部だったが、第二版はさらにページが増え1818ページになり、2分冊になってしまった。

[COMMENT]これぞ日本最高の図鑑

現在発売されている同書は内容が増補された第2版ですが、私が持っているのは古本屋で買った第1版です。ここでは第1版を元に話をします。


世の中に図鑑は数あれど、どれがベストかと問われれば、私はこの「日本産魚類検索」(以下「魚類検索」)を推薦します。国外にはもっとすごい図鑑があるかもしれもせんし、専門家向けの緻密な図鑑があるかもしれませんが、国内で一般に入手可能な図鑑としてベストなのはこの「魚類検索」です。

図鑑にまず求められるのは「完全性」です。つまり、あらゆる種を網羅していることです。「魚類検索」は完璧に完璧とは言えませんが(海水魚には南方からまれに流されてくるものもいますし、未発見の種もいるから)、日本産魚類をほぼ完全に網羅している、という点で十分合格です。
図鑑に求められるもうひとつは「データの内容」です。分類、学名、和名、大きさ、分布。これらは図鑑に最低限求められる要素です。この点でも「魚類検索」は合格です。しかも、掲載全種について平等にこれらのデータが記載されているのです。
これだけの理由からでも「魚類検索」はベストな図鑑と言えます。しかし、本当にユニークなのはその構造にあるのです。

東海大学出版会というと、同じような形式の検索図鑑を何種類か出版していますが、それらの中でも質、量ともに充実しているのがこの「魚類検索」です。他の検索図鑑では検索が単純だったり、一般にはわかりにくかったりで使いにくい例もあったりするのですが、「魚類検索」はそれすらもきれいに整理されている感があります。

実際にこの「魚類検索」を使ってみて、その面白さを見ていただきましょう。
まず検索の一番最初にはこのような分岐があります。1「口は裂口状か吸盤状で顎がない」、2「口は裂口状でも吸盤状でもなく、顎がある」。これはつまり、顎がある魚とそうでない魚を分類する分岐です。顎のない魚とはヤツメウナギなどがそれに当たります。
ここでは2に進むことにしましょう。次の分岐は1「鰓(えら)孔は1対」、2「鰓孔は5〜7対」です。2の方はサメやエイの仲間になります。
以下、このように分岐をたどっていくのです。目の前に未知の魚があった場合、この分岐にしたがって進んでいけば、その魚の正体がわかる、という仕組みになっているのです。
実際に分岐をたどっていくには若干の専門知識が必要ですし、分岐数も半端な数ではありませんので、なかなか大変な作業になるでしょう。現実的には、大ざっぱに分類を調べて、それらしい種をひとつひとつ調べていくという使い方になると思います。

そんなに大変な図鑑なんて難しくて使い物にならない、という人もいるでしょう。ところが、この「魚類検索」を非常にありがたがる職業があるのです。それは、イラストレーターたちです。
「魚類検索」のすごいところは、種の違いをひとつひとつ言葉で説明している点にあります。これは、写真やイラストを見るだけでは見落としてしまうようなことを説明している、ということです。それがどうしたと思われるかもしれませんが、個々の種の決定的な差異というものは普通の人には理解しにくいものですし、プロのイラストレーターでも見落としてしまうものなのです。
例えばこういう例を出してみましょう。サバの仲間(サバ科)の魚に、クロマグロ、キハダ、カツオという魚がいます。あなたはこれらの魚を描き分けることができますか? 実物は大きさがはっきりと異なるので見間違えることはないでしょう。ですが、いざ描いてみるとなると…きちんと特徴を描き分けられる人はいないのではないでしょうか。私がやってみても、写真資料があったとしてもそれだけでは十分な描き分けは難しいとおもいます。
クロマグロ、キハダ、カツオの違いをここで詳細に説明すると大変なことになりますが、例えば、ヒレの長さ、体の細長さ、体に鱗の無い部分があるかどうか、といったことが主な相違点になります。
動物のイラストを描くということは、その種の特徴を的確に描き出すことです。そのためには、この「魚類検索」のような言葉による詳細な解説というのは非常に重要なものとなるのです。
ところで、「魚類検索」のイラストはすべて白黒の線画です。一見するとこれを元にイラストを描くには不十分なように見えますが、言葉による説明が必要十分なものであるため、まったく問題は無いのです。カラーの資料は探せばいくらでもあるものなのでそもそも困らないのです。
「魚類検索」さえあれば、魚のイラストを描くには困ることはありません。そう、「魚類検索」はイラストレーターにとって最高の図鑑なのです。


こんなすばらしい図鑑をなぜ今まで紹介しなかったのかというと、別に隠していたわけではなくて、最近まで私自身が持っていなかったからです。なにしろ値段も高いですからそうそう簡単に買えません。古本屋でようやく買うことができたのです。
紹介しなかった別の理由は、「魚類検索」の編者である中坊先生とは仕事でかかわったことがあるからです。その仕事とはアスキーの「マルチメディア魚類図鑑」のことで、先生は監修者、私は編集担当者だったのでした(「マルチメディア魚類図鑑」の基礎データは「魚類検索 第一版」に拠っている)。実は、この「いきもの通信」では過去の仕事関係の話は極力避けるようにしています。そういう話はただの自慢話になってしまいがちですからね。
今回あえて「魚類検索」を紹介しようと思ったのは、あるPR誌で(関連の話はここで)この図鑑の良さを十分紹介できなかったからです。


「魚類検索」の面白さに興味を持った方は、ぜひ書店でご覧ください…と言いたいところですが、さすがに大型書店でも置いてあったりなかったりという感じです。理系に強い書店をお探しになることをおすすめします。


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