Vol. 296(2005/12/18)

[今日のいきもの]新種はまだまだひそんでいる?

先日、ボルネオ島で新種の哺乳類が発見されたというニュースが報道されました。もはや世界には秘境など無く、すべての生物が調べ尽くされていると思っている方がいるかもしれませんが、実際はそれにはほど遠く、世界にはまだまだ未知の生物が数多くひそんでいます。では、どれほど未発見動物がいるのかちょっと見ていきましょう。

まずは脊椎動物から。
未発見種が一番多いのはやはり魚類です。深海だけでなく、遠洋のように人間の目が届かない場所がたくさんあるからです。沿岸や淡水といった人間に近い場所では新種は難しいでしょうが、あまり調べられていない深海や遠洋では可能性はかなりあります。

その次に未発見種が多いのは両生類でしょうか。カエルは未発見の種が相当いると言われています。カエルというと水の中というイメージが強いかもしれませんが、実際はさまざまな環境に進出している動物です。そしてそれぞれの環境に適応するように進化したため、多数の種が出現したのです。

哺乳類は研究がかなり進んでいて、新種はめったに現れません。それでも数年おきにニュースになるほどには未発見種が残っています。未発見種が多いと考えられるグループは、種数が多くて体の小さいネズミ(齧歯目)やコウモリ(翼手目)です。新種を発見したいのならばこういうグループを狙った方がいいでしょう。体の大きい動物は目立ちますので、現在では新種はなかなかないはずです。ただ、先日の新種哺乳類のようにけっこう大きめの動物が発見されることもあります。また、海の中も人間の目が届かない場所ですので、クジラやイルカにも未発見種が残されていると考えられています。

爬虫類と鳥類については事情がよくわからないので詳しくはわかりません。
爬虫類では種数が多いヘビには新種発見の可能性は高そうです。逆に種が少ないワニでは今後新種発見はまずないでしょう。
鳥類は哺乳類同様に研究が進んでいる分野ですので新種発見の可能性は低めですが、人が入れない場所には未発見の種が残されているのは間違いないでしょう。

さて、無脊椎動物の場合はどうでしょう。
無脊椎動物は研究がまだまだ十分ではなく、水中に生息する種類も多く、非常に小さい種類も多いため未発見種はかなり多く残されていると考えていいでしょう。その中でも注目すべきは昆虫類です。昆虫は無脊椎動物の中でもずば抜けて種類が多く、陸上、淡水(そしてわずかに海水にも)のあらゆる環境に適応してきた動物です。身近な場所にも未発見種がいる可能性が高いです。

というわけで、新種を発見したいのならば昆虫や魚類あたりを狙ってみるのが一番良さそうです。ただし、昆虫などでは新種発見は日常のことですので、それがニュースになることはほとんどありません。昆虫は普通の人にはあまりなじみがありませんしね。ニュースになりたいのならば、めったに新種が現れない哺乳類や鳥類を狙うべきでしょう。これらなら普通の人でも親しみが持てますからね。


なお、新種を見つけたとしてもそれを学問的に立証するのはなかなか大変だということも付け加えておいた方がいいでしょう。新種発見といっても、その証拠が写真やビデオでは学問的には認められません。生死を問わず実物を入手することは絶対に必要となります。さらに、その実物を入念に調べて、間違いなく新種であることを確認して論文にする必要があるのです。専門家がツチノコの存在に懐疑的なのはその実物証拠がないからです(これはその他のいわゆるUMA全般にも言えることです)。一方、ニホンオオカミの存在を疑う専門家がいないのは(分類上の位置付けは議論が分かれるものの)、骨格標本がちゃんと残されているからなのです。
先日のボルネオ島の新種哺乳類も、写真だけで実物は無い状態ですので新種と決まったわけではありません。本当ならば実物を入手してきちんと論文を書かねばならないのですが、その生息地が開発の危機に直面しているため、発表者であるWWF(世界自然保護基金)はあえてフライングで公表したようです。もちろん専門家もかかわっていることでしょうから、限りなく新種だと断定してもかまわないでしょう。


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