Vol. 299(2006/1/15)

[東京タヌキ探検隊!]東京都23区タヌキ情報 2006年版

さて、今回は私の主要テーマのひとつである東京都23区内に生息するタヌキについての情報を整理したいと思います。
昨年(2005年)は12月に秋葉原と北千住に現れたのがニュースになって、私にもマスコミからの問い合わせがありました。また、ネット検索してここに来られる方もいるでしょう。いきもの通信では古い情報もそのまま残していますので、過去のデータや見解を見て誤解される方がいるかもしれません。そのようなことが起こらないように、今後はある程度定期的に情報整理を行っていきたいと思います。
また、いきもの通信の中に東京都23区内のタヌキ情報をまとめたページを用意しました。興味のある方は定期的にご覧になってください。
なお、あまりに騒ぎすぎてはタヌキの生活を妨害することになりますから、具体的な生息場所についてはここには書かないことを原則とします。

※マスコミ関係者へ
東京都区部全体のタヌキについての情報を一番多く持っているのはプロ・ナチュラリスト佐々木洋氏で、私は多分その次に多く情報を持っています(地域を限定すればもっとよく観察されている方々もいます)。佐々木氏と私は情報交換もしていますので、どちらかに尋ねればきちんとした回答を出せます。佐々木氏が理事長を務めるNPO法人都市動物研究会という団体がありますが、今年(2006年)から私も理事として参加することが決まりました。今後はタヌキ調査など、より密接に情報共有できる活動ができるのではないかと思います。
タヌキの具体的な生息場所を明かさないというルールは、佐々木氏も私も守るようにしています。地名を明かさないという条件でのタヌキ撮影は可能ですのでご相談ください。ただし100%撮影可能というわけではありません。


・東京都23区内には何頭のタヌキが生息している?

東京都23区の全域を詳細に調査した人はいません。私も実数を数えたわけではありません。私の試算の根拠は拙著「動物の見つけ方、教えます! 都会の自然観察入門」に詳しく書いています。これは比較的よくわかっている杉並区での生息例を基準に23区全体に適応して推測値を出したものです。
私の試算では、現在タヌキは23区内に確実に1000頭、おそらく2000頭以上生息しています。単純に計算して1区あたり約100頭もいることになりますが、これは意外な数字ではありません。最近の私の感触ではもっと多くいるようにも思えます。というのも、昨年(2005年)7月、私は新宿区某所で久しぶりに本物のタヌキと対面できたのですが、この地区は都心に近い場所ながら4家族10頭以上いることは確かで、これまでの経験から言って生息密度がかなり高いなと感じたのでした。
23区内のタヌキは思ったより普遍的な存在なのかもしれません。

※2006年3月追記

拙著の内容と食い違う点がありましたので捕捉します。
「動物の見つけ方、教えます!」では、東京都23区内のタヌキの具体的な推定生息数として1150頭、4600頭の2つの数字を挙げています。ただし、これらはおおざっぱな計算であり、精密な調査によるものではありません。そのため、同書では「1000頭以上」という数字を確実な生息数として書いています。「1000頭以上」も推定ではあるものの、いろいろな事例を検討してみても多すぎる数字ではなく、実感に近いものと思われます。
同書の執筆後、さらに事例を検討してみると、生息数はもっと多いのではないかと思われることもあったため、「2000頭」という数字を紹介するようになりました。そのため、同書の内容とは数字が食い違っています。
そこで、現時点での推定生息数をあらためて書き直しますと、
1000頭以上は確実、
おそらく2000頭以上はいるのではないか、
ということになります。これを宮本拓海の現時点での公式見解とします。

・タヌキは昔からいた

以前、私は23区内のタヌキは近年郊外から流入してきたと思っていましたが(一部は明らかに戦前からの居残り組でしたが)、生息数が具体的にわかってくるにつれそれはありえないことがはっきりしてきました。つまり、現在の生息密度をこの数十年(高度成長期以降)だけで達成したと考えるよりも、タヌキたちは昔からそこにいたのだと考える方が自然なのです。なぜなら、タヌキが生息できる環境はずっと23区内に存在していたわけですから。
第2次世界大戦の頃、東京でもタヌキを毛皮目的で飼育していたらしいという話もあります。現在生息しているタヌキの一部はその生き残りの可能性もあります。もしそうなら亜種エゾタヌキ(種タヌキの北海道亜種。本州以南に生息するのは亜種ホンドタヌキ)が飼育されていた可能性があり(エゾタヌキの方が毛足が長いから)、今生息しているタヌキにはホンドタヌキとエゾタヌキのハイブリッドがいることが考えられます。ただ、それを確認するにはDNAを調べるしかありません。検証はなかなか難しいことでしょう。
ニュースでは時々「ペットとして飼われていたものが逃げた」と報道することがありますが、実際にはそういうケースは皆無と思われます。タヌキがペットとして流通しているという話は聞きません。また、現実にタヌキは数千頭も生息しているわけで、そのすべての来歴をペットだとするのはかなり無理な話です。昔からそこにいたのだと考える方が自然なのです。
もちろん、タヌキは1ヶ所にとどまり続けるばかりではなく、若い個体を中心に短中距離での移動は常に行われていると考えるべきです。

タヌキが昔から生息しているとしても、「Vol. 39(2000/3/26)[今日の観察]タヌキ移動ルートの探査報告」で指摘した鉄道線路や河原がタヌキの生息には好都合な場所であることは確かです。これらの場所はタヌキ探しのキーポイントのひとつです。

・「タヌキが現れた。都会には食べ物が少ないだろうから何かを与えたいが何がいいか?」という質問への回答

都会のタヌキ→けなげ→食べ物をあげて支援しよう!と思いたくなる気持ちはわかりますが、野生動物に食べ物を与えるべきではありません。
食べ物を与えなくてもタヌキたちは生きていけるのです。実際にタヌキがいるということは、その周辺に十分な食べ物があるということを示しています。食べ物が少ない場所ならとっくにどこかに移動しているでしょうから。近くに公園や林があるならば、そこで十分な食べ物を得ているものと思われます。そうでないならばどこか近所で既に人間から食べ物をもらっているか、生ゴミをあさっていることも考えられます。いずれにしても、あなたが食べ物を与える必要性は非常に低いのです。何も与えずじっと見守るのが正解なのです。
もしタヌキを助けたいと思うのならば食べ物を与えるのではなく、タヌキが好む林などの自然環境がなくならないよう守ってください。自然環境が消えるとタヌキは本当に生きていけなくなります。

・東京都23区内のタヌキは絶滅する?

結論を最初に言うとそれはありえません。高度成長期さえも乗り越えてきたタヌキたちです。しぶといです。
しかし、その生息環境は良好とは言えません。バブル崩壊後落ちついていた都市開発が再び活発化しているからです。せっかく残されてきたリトルネイチャーがあちこちでつぶされようとしています。そうなるとタヌキは人間が与える食べ物や残飯にますます依存してしまうでしょう。タヌキがタヌキらしく生きていけるようにするためにも、自然環境を残してあげるべきではないでしょうか。
日本はもはや人口減少期なのです。これ以上開発する必要なんてないんです。

・タヌキはつかまえてはいけない

タヌキは野生動物であり、許可の無い捕獲は鳥獣保護法違反となります。そもそも害獣ではありませんので捕獲する必然性もありません。秋葉原に出現したタヌキは警察が捕獲しましたがなぜその必要があったのかよくわかりません。両岸がコンクリで固められた神田川岸に現れたため、そこから脱出不可能と判断したのかもしれませんが詳細不明です。ただ、このニュースのせいで「タヌキ→捕獲」と印象づけられることになっては困りますので、「タヌキは放っておきましょう」ということを改めて強く言っておかねばなりません。


とりあえず今回はこういうところでしょうか。ご質問やタヌキ目撃情報がありましたらメールをしてください。タヌキ目撃情報は常時募集中です! ご協力お願いします。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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