Vol. 348(2007/2/4)

[今日の事件]あなたもガラパゴス豪華クルーザーの旅

私が石原慎太郎・東京都知事を非常に嫌っているというのは、この「いきもの通信」、特にカラス関連の記事をお読みになった方ならよくご存知でしょう。今回の話は、一見その石原慎太郎を擁護しているようにも見えますが、実際にはそうではありませんので最後までちゃんと読んでください。


石原知事についての批判の中で、最近よく取り上げられるもののひとつが「豪華クルーザーの旅」というものです。元記事をたどってみたらどうもここになるようです。

問題の「豪華クルーザーの旅」とは、2001年6月のガラパゴス諸島への視察旅行を指します。この時はちょうど東京都議会選挙の真っ最中。選挙応援が面倒なので、この時期を選んではるか地球の裏側まで逃避したのではないか、ということはその当時から言われていました。そのガラパゴス諸島で豪華クルーザー「サンタ・クルス号」に乗って4泊5日、52万円もの出費をした、というのが問題の中身です。

さて、この「豪華クルーザー」ですが、これは本当に無駄な出費なのでしょうか? 豪華クルーザーに乗ってはいけないのでしょうか?
豪華クルーザーを批判する人は、どうもガラパゴス事情というものがよく理解できていないように私は思います。ガラパゴス諸島での観光というものをちょっと解説しましょう。
実はガラパゴス観光については以前にも書いてありますのでそちらをご覧下さい。

Vol.94 [今日の事件]ガラパゴス諸島に学ぶ自然保護と観光の両立

以前の記事と重なる部分もありますが、ガラパゴス観光の概要は次のようになります。
まず、ガラパゴス諸島へは基本的に飛行機でしか入れません。飛行機の本数は決まっていますから、飛行機の乗客数がほぼそのまま観光客数になるわけです。つまり、ガラパゴスには多数の観光客がつめかけることはできない仕組みになっているのです。
ガラパゴス諸島内の観光は船を利用せざるをえません。というのも、広い範囲に島が点在しているからで、移動には船以外の手段がないからです。移動距離も長くなるのでツアーは3泊から7泊になります。
また、観光の規則として、島に上陸できるのは昼間だけです。よって、夜は船の上にいなければならないことになります。夜間上陸していいのはプエルト・アヨラ(事実上の諸島の中心地、サンタ・クルス島)とプエルト・バケリソ・モリノ(行政上の中心地、サン・クリストバル島)の2つの町のみです。つまり、ガラパゴス観光は、昼間は上陸してトレイル(指定された順路)を歩き、夜は船に戻って睡眠、船は夜のうちに次の上陸地点へ移動する、というのが効率的なスケジュールになります。
観光用の船には大小があります。クルーザー船の中で最大級なのは「エクスプロラーII号」「ガラパゴス・レジェンド号」「サンタ・クルス号」でいずれも100人程度が乗れます。「豪華」といっても乗客数が1500人を超えるクイーン・エリザベス2世号に比べればささやかなものです。ちなみに日本船籍最大の「飛鳥II」で乗客800人ですので、これよりもはるかに小さなものです。
ガラパゴス最大級でもこの程度ですから、普通の観光客でもこれらの船を使用しています。日本からのツアーでもこれらの船を利用していることは旅行会社のホームページを見れば簡単に確認できます。最大級の船でも特別に格が上の船というわけではないのです。
ちょっとした小国以上の財政規模を持つ日本の自治体のトップが訪問したならば、こういった船を選択しても不思議ではありません。また、船室も上級のものを選ぶのは不思議ではありません。すると、クルーズ料金も自動的に決まってしまいます。4泊5日で52万円というのは何ら不思議な金額ではないのです。誰が行ってもこれぐらいはかかってしまうのがガラパゴスなのです。
少々けちれば若干費用を浮かせることもできるでしょうが、それはそれで効率を犠牲にすることになるかもしれません。最大級の船を選択することが悪いことだとは思えないのです。

以上をまとめますと、

ガラパゴスにエライさんが行ったら、それは自動的に「豪華クルーザーの旅」にならざるをえない

ということなのです。
ですから「豪華クルーザーの旅」は何の問題もないのです。

この問題で、攻めるべき点は「豪華クルーザーの旅」ではなく、別のところにあります。はっきり言って、共産党も、それに追随する他党もマスコミも、攻めるポイントを間違えています。
本当の問題点は、そもそもなんで知事自身がわざわざガラパゴスまで行かねばならなかったのか、ということにあるのです。
都知事本人が行くことに意味があるのでしょうか? こういうことは都の職員数名を派遣すればすむことではないのでしょうか。ちゃんと目的を持たせて職員を派遣すれば、きっといい報告書を完成させることでしょう。都知事はその報告を直接聞くなり報告書を読めば十分目的は達成されるでしょう。
そもそも、都知事本人が動けば、随行員が多くなりますし、外交儀礼も発生するでしょう。どうしても費用がふくらんでしまうものです(そして随行員は知事の世話をやかねばならないので視察どころではない)。しかも日本から距離の遠い場所ではますます費用がかさむことでしょう。
(ちなみにガラパゴスへ行くには、成田→アメリカ(マイアミ、ヒューストンなど)→キト(エクアドル首都)→ガラパゴス、と乗り継ぎを繰り返さなければならない。ほとんど「地球の裏側」なのである。)
はっきり言って、石原知事のガラパゴス視察はまったくの税金の無駄使いです。それだけの価値はありませんでした。


石原知事がガラパゴス諸島へ行った目的は、小笠原諸島を観光地化するための視察、とされています。小笠原諸島に世界から観光客を集めよう、ということですね。ちょうど世界遺産登録への動きも進んでいるところです。
ガラパゴスには、ガラパゴスゾウガメ、ウミイグアナ、ガラパゴスリクイグアナ、ダーウィンフィンチ、ガラパゴスペンギンといった「スター」たちがそろっています。おまけにチャールズ・ダーウィンという歴史的立役者もいます。文字通り「役者がそろった」場所です。
一方で、小笠原諸島にはこれといった「スター」がいません。これではガラパゴス並みの観光地に育てるのは容易ではありません。ガラパゴスのやり方を真似してもうまくいく保証はなく、むしろ、なかなか成長しない時期が続くことになるでしょう。観光地として飛躍するには創造的な戦略を構築し、実行する必要がありそうです。それができる人材を育てなければならないのだ、と私は思うのです。そして、その人物とはけっして石原知事ではないのです。


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