いきもの通信 Vol.352[今日の動物探偵!]シバンムシ、謎の大発生!?その2/シバンムシが食べていた物質の正体は?!の巻 

Vol. 352(2007/3/18)

[今日の動物探偵!]シバンムシ、謎の大発生!? その2
シバンムシが食べていた物質の正体は?!の巻

前回記事「その1 30分で事件解決!の巻」はこちら

さて、タバコシバンムシ大発生事件も解決したので、後は報告書を書けばこの仕事もおしまいです。
その前に、持ち帰った「粉」を顕微鏡でチェックしておきましょう。この粉はほとんどがタバコシバンムシのフンであると予想されますが、元々の梱包材の断片が混じっているかもしれません。また、卵があるかもしれません。何かがあることは確実です。


顕微鏡で観察してまず目についたのは、タバコシバンムシのフンと思われる小片です。大多数はこのフンでした。その次に目立つのは、球形の、何か繭のようなものでした。これにはフンがたくさんくっついていますのでカイコの繭のようにはきれいではありません。この繭のようなものは、大きさからいってタバコシバンムシの蛹のようです。ネットで調べてみると、確かにタバコシバンムシの蛹は繭を作ると書かれてあります。この繭、ほとんどは中身が空でしたが、一部は中に幼虫が入っていました(つまり蛹になる直前)。また、フンの中を探していくと、小さい幼虫も見つけることができました。
このタバコシバンムシの幼虫、その外見はカブトムシの幼虫にそっくりなのです。もちろん、大きさは違いすぎるのですが、白い体色、茶色の頭部であるため、まるでカブトムシの幼虫なのです。シバンムシはカブトムシが属するコガネムシ科ではありませんので、偶然に似ているだけかもしれません。あるいは分類上は近縁なのでしょうか。
卵は、かなり探してみましたが見つけられませんでした。本当になかったのか、それとも私が見落としたのか、あるいは卵は小さすぎるのか。これは今後の課題として残りました。
元々の梱包材の一部であったらしいうすっぺらの断片もありましたが、量は少ないものでした。梱包材をほとんど食べつくすほどシバンムシが発生していたことがこのことからもわかります。

この顕微鏡による観察結果から、この粉の中でタバコシバンムシが発生していたことは間違いありません。タバコシバンムシが梱包緩衝材を食べ、卵を産み、卵から幼虫がかえり、幼虫も梱包緩衝材を食べ、蛹になり成虫になる、というサイクルです。大量の粉=タバコシバンムシのフンは、成虫のフンよりも幼虫のフンの方が多いのではないかと思われます。というのも、幼虫は梱包緩衝材の場所から動くことができませんから。
タバコシバンムシは、本州の場合、年2回の発生といわれています。卵の数は10〜100個。これから逆算すると、数匹のレベルから今回のように大量発生するまでには最短でも2世代のサイクルが必要になります。つまり、最初に発泡緩衝材に侵入したのは1年前の秋ごろ、またはそれ以前と考えられます。今回の発生源になった段ボール箱は、中を開けることなく、おそらく1年近く放置されていたのでしょう。その間、タバコシバンムシは内部でひたすら増殖をしていたわけです。この段ボール箱が持ち込まれた時期は不明ですが、現場に持ち込まれた時にはすでに梱包緩衝材にタバコシバンムシがくっついていたと考えられます。おそらく、出荷元の工場などで梱包緩衝材にタバコシバンムシが侵入したのでしょう。


この事件にはひとつ謎があります。それは「タバコシバンムシは緩衝材を食べるものなのか?」ということです。そんな話は聞いたことがありません。緩衝材は珍しいものではないので、本当に緩衝材を食べるなら既に知られているはずです。

そもそも、緩衝材の組成は何なのでしょうか?
緩衝材は普通、発泡スチロールでできています。発泡スチロールとは、スチレン樹脂(合成樹脂、プラスチック)を発泡させたもので、原料はポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)です。発泡には炭化水素ガスが使用されます。これらの原料はいずれも炭素と水素のみから構成されでいます(そしてその他の成分はほとんど無い)。
炭素と水素だけでは、動物の栄養源としては不十分です。動物は食べたものを活動のエネルギーにしたり、体を構成する材料として利用します。では、炭素と水素だけで動物の体が構成できるかというと、それは不可能です。他にも材料は必要です。まず、酸素、窒素はかなり大量に必要になります。炭素、水素、酸素、窒素はアミノ酸・タンパク質の主要な構成要素ですから。その他にも、リンやカルシウムやマグネシウム…などなどといった元素も生命活動には欠かせないものです。もう一度書きますと、炭素と水素だけでは、動物は生きていけないのです。
では、タバコシバンムシは緩衝材の他にも何か食べたのでしょうか? いや、現場状況からは間違いなく緩衝材だけしか食べていません。
ここで今回の事件の緩衝材を思い出してみます。今回の緩衝材は茶色っぽい色をしていました。発泡スチロールならまっ白な色であるはずです。ということは、この緩衝材は発泡スチロールではないと考えられます。ということは…。
近年、緩衝材には「植物性緩衝材」とも呼べる種類の製品が登場しています。つまり植物由来の原材料から作られたものです。例えば、フスマ(小麦の精製時に廃棄されるもの)、コーンスターチ(トウモロコシのでんぷん)、セルロースアセテート(植物繊維)といったものが使用されています。なるほど、こういった植物由来のものならば栄養としては申し分のないものです。植物も生物であるので、その体は炭素・水素・酸素・窒素をはじめ、種々多様な元素からできています。ですから、植物から作られた緩衝材を食べればタバコシバンムシは生きていくことが可能なのです。これで最後の謎も解けました!
( ※コーンスターチは純粋なでんぷんではなく、その他の成分も含まれる。植物繊維も同様だろう。)

タバコシバンムシが植物性緩衝材を食べるというのは新発見かもしれません。同様の事件はあちこちで発生しているはずですが、その原因はつきとめられていないのでしょう。本当なら論文を書いて発表すべきところですが、私は学者ではありませんし、専門教育を受けたわけでもないので論文を書くノウハウがなく、発表する場もありません。そのためホームページ上でこういう形で発表するしかなかったのです。
この記事が、私が最初の発見者であることの証拠になることを希望します。


この話、まだまだ続いて次回、本当の完結編です。

次回記事「その3 エコ社会のリスクの巻」はこちら

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