Vol. 353(2007/3/25)

[今日の動物探偵!]シバンムシ、謎の大発生!? その3
エコ社会のリスクの巻

前回記事「その2 シバンムシが食べていた物質の正体は?!の巻」はこちら

今回の話は動物探偵から離れた内容ですが、もう少しお付き合いください。
事件は「シバンムシが大発生した」という単純な現象ですが、その背景を考えていくともっと大きなものがあることに気付きます。


最近では環境問題が普通に語られるようになりました。「環境にやさしい」「環境への配慮」といった言葉もよく聞かれます。
「環境にやさしい」モノとしてひとつのジャンルを確立しているのが「エコ製品」です。エコ製品といってもいろいろな種類がありますが、「分解されやすい製品」というのはわかりやすく有名なモノでしょう。石油を原料にしたプラスティックなどは土に埋めてもなかなか分解されません。これに対して「分解されやすい製品」は土に埋めれば微生物が分解してくれます。このような製品材料は「生分解性プラスティック」と呼ばれます。「分解されやすい製品」は燃やしてもダイオキシンが発生しないことも利点とされています。また、石油を使用しないので資源節約にもなります。
これはまさに環境にやさしいモノと言えます(少なくとも石油製品よりはまし)。価格的に難点があるとはいえ、今後広く普及していくことが予想されます。
そしてその結果、何が起こるのでしょうか…。
それは今回の事件のように緩衝材・梱包材からタバコシバンムシが大発生する事件がこれからは増えていくということです。これまでは普及率が低かったのであまり話題にもなりませんでしたし、原因究明もされてきませんでした。しかし、これからは無視できる問題ではありえないでしょう。
対策は、緩衝材・梱包材は放置しないことです。不要なら直ちに処分することが望ましいです。何度も繰り返して使用(リサイクル、リユース)したくなるでしょうが、長期間使用するほどシバンムシが取りつく可能性が高くなります。使い捨てにするぐらいがいいのかもしれません。うーん、これでは本当に「エコ」なのかどうかもあやしくなりますね。「エコ」は良いものだと一般には思われがちですが、この場合は同時にリスクも抱え込むことになるわけです。
リスクはまだあります。今回はシバンムシでしたが、植物性のものを好む昆虫は他にもいろいろいます。ヒラタムシとかチャタテムシとか…。何が大発生するかは予測できませんが、何かが起こることは確実と私は予想しています。

このように書くと、ものすごく恐ろしい現象のように思われるかもしれませんが、少し安心できる可能性もあります。
それは、タバコシバンムシは何でも無差別に食べるわけではないかもしれない、ということです。今回の事件でタバコシバンムシが食べたのは植物性発泡梱包材でしたが、その原料はいろいろあります。タバコシバンムシがそのどれでも食べるのかというと、そうとも言い切れないように思うのです。これは私の予想に過ぎませんが、実験してみる価値はありそうだと思っています。もっとも、実験するにはまずタバコシバンムシをかき集めてこなければならず、また、よそに迷惑にならないように隔離密閉した施設で行うのが望ましいのですが…そんな環境は無いなあ、私のまわりには(笑)。
植物性の製品といえば、皿など食器類があります。こういうものもシバンムシは食べるのでしょうか? ちょっと硬すぎるようにも思えますが、これぐらい大したことはないのかもしれません。
そして、他の昆虫ではどうでしょうか?
この事件を徹底的に追及していくと、とんでもなく話が広がっていくのです。どこまで拡大していくのか、予想すらできません。


「エコ」という言葉は美しく、心地よいものです。
しかし、それは時にはタバコシバンムシその他の害虫との共生(または戦い)をもたらすものにもなります。エコ社会ではそういうリスクを背負う覚悟も私たちは持たなければならないのです。
(これは単純なエコ社会批判論ではありません。アンチ・エコ社会にもやはりリスクは存在するのです。エコもアンチ・エコも完全無欠ではないのです。)


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