いきもの通信 Vol.361[今日の勉強]生物のモルフォロジー 

Vol. 361(2007/5/20)

[今日の勉強]生物のモルフォロジー

「モルフォロジー(morphology)」とは聞きなれない言葉ですが、これは「形態学」という意味です。この言葉は言語学や数学などなどいろいろなジャンルでも使われていますが、今回ここで取り上げるのは当然生物学上のことで「生物形態学」と呼ぶべきものです。

生物学ではモルフォロジーは最も基本的なものです。あまりに基本的すぎてあまり注目されないという面もありますが…。
例えば、動物図鑑を見ると必ず「体長」という項目が載っています。これがモルフォロジーなのです。他にも尾長とか肩高とか体重といった数字があり、これらもやはりモルフォロジー。つまり、生物の形態を定義するのがモルフォロジーなのです。もちろん形だけではなく色(模様)も含んでいます。
モルフォロジーは生物の形態を記述する基本的な学問ですが、あまりにも当たり前すぎて何の役に立つのかちょっとわかりにくいかもしれません。では、こういうクイズを出してみることにしましょう。
「ムササビとモモンガの違いは?」
生息分布や生態ではなく、形態の違いを答えてください。
答えは、「ムササビの方が大きい」です。単純ですがモルフォロジーではこれで十分です(その他はかなり細かい差異なので説明が大変です)。
もうちょっと難しい質問をひとつ。
「イルカとサメの違いは?」
哺乳類と魚類ではかなり違うのですが、その違いをちゃんと説明できる人はどれだけいるでしょうか。この答えは「Vol. 358[今日の勉強]イルカとサメ、どう違う?」をご覧ください。

こういったモルフォロジーは実用的に役に立つのかどうかわかりにくいかもしれません。でも、役に立つと私は思います。
例えば、家の中でなんだかわからない昆虫(のようなもの)を見つけたとして、それが昆虫なのか違うのか、昆虫ならどんなグループなのか、それが少しでもわかれば対策もやりやすいというものです。虫の名前まではわからなくても、形態の特徴をよく観察して専門家に伝えれば解決は早くなるでしょう。
また例えば、夜道でなにやらタヌキらしい動物を見たとしましょう。あれは本当にタヌキなのか、いや、アライグマ、ネコ、それとも別の動物? こういった場合も見分けるポイントがわかっていれば判別できるでしょう。
そういった知識の集成がモルフォロジーなのです。とはいえ、そういったことを全部頭に入れておくのは難しいかも…。


そして、イラストレーターの立場として言えば、モルフォロジーは生物の絵を描くには絶対必要とされるものです。生物の絵を描くにはその生物の形態の特徴を正しく把握しなければならない、というのは誰でも納得できることでしょう。私自身、生物の絵を描く前にはできるだけモルフォロジーの資料を集めるようにしています。「前脚の指は何本で、後脚の指は何本」とか「ウロコの数はいくつ」とか、そういうところまで調べています。そんなおおげさな、と思われるかもしれませんが、そういう細部までも抑えておかなければちゃんとした絵は描けないのですよ。

しかし、実際にモルフォロジー情報というのはなかなか見つからないものなのです。現代は特に写真やビデオが発達したせいで、画像・映像で満足してしまい、文字化されたモルフォロジー情報は軽視されているように見えます。画像・映像が優れた情報源であることは認めますが、それだけではわからないことも非常に多いのです。逆に文字情報だけでも不十分であるのは明らかです。つまり、画像・映像と文字が補い合ってこそのモルフォロジーなのです。

モルフォロジーが比較的整備されているのは魚類でしょう。魚類は外見がどれも似ているので、数字を使っての客観的な記述が特に必要とされているのです。魚類のモルフォロジーでは、「側線鱗数(側線にそったウロコの数)」や「背びれの軟条・棘の数」(ひれの構造を支えている硬い部分のこと。柔らかいものを「軟条」、硬いものを「棘(棘条)」という)といった細かいことまでも記述されています。こういったモルフォロジー情報はちょっと詳しい魚類図鑑には必ず載っています。残念ながらあらゆる魚のモルフォロジー情報が整備されているわけではなく、よくわからない魚もまだまだたくさんあるのは事実ですが、他の動物に比べればずいぶん恵まれた状態です。
他の生物でも魚類並みのモルフォロジーがデータベース化されれば私としては(特にイラストレーターとしては)うれしいのですが、そこまで到達するのは難しいでしょうね。しかも私が要求するレベルは高いですからなおさら大変です。例えばタヌキのモルフォロジーを記述するならこのようなレベルのものがほしいですねえ…。
「頭胴長XXcm〜XXcm、尾長XXcm〜XXcm、肩高XXcm〜XXcm。
4脚あり、4脚で歩行する。脚指は5本。それぞれに爪がつく。第1指は地面に届かない位置にあるため、足跡は指4本だけとなる。歩行時、停止時ともかかとは地面につかない。
他のイヌ科動物と比べると短足胴長である。顔はイヌ科らしく鼻面が長い。
成獣は体毛が長い。頬の毛は側方に伸びるため顔を大きく見せている。体全体もむくむくした感じになる。尾もふさふさとしている。
幼獣は体毛が短いため、イヌのように見える。
眼の周囲は黒い(この左右の黒い部分はつながらない)。耳の後ろは黒い。4脚はすべて黒く、前脚は肩まで黒い。肩の黒い部分の前後には色の薄い部分があるため、黒がよく目立つ。体色には個体差が大きい。」
これでもまだ不十分なのですが、絵を描くにはこれぐらいのモルフォロジー情報がほしいものです。


「モルフォロジー」というと難しい学問のようですが、つまりは対象をよく観察し、特徴をとらえるという基本的なことです。それが生物の勉強にも、絵の勉強にもなるのです。モルフォロジーに注目すれば、もっといろいろなものが見えてくるようになるはずです。


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