さて、東京のタヌキというとマスコミあるいはネット上で「東京都23区内ではタヌキが急増している」とか「大増殖している」とか言われることがあるようです。
実際にはそれは違います。
そもそもタヌキの生息数が増加しているという証拠はありません。なぜなら、誰も調べたことがないからです。つまり、増えているとも言えませんし、減っているとも言えないのです。
私が「1000頭以上」と推測しているのは「現在の」生息数です。増減を語るには過去の生息数がわからなければなりませんが、その数字が無いために何も言えないのです。
ですから私自身は生息数の増減についてはほとんど発言していません。発言しても「わからない」としか答えていません。
「タヌキが増えている」という誤解は、たいていは又聞きからくる早とちりや思い込みだと私は思っていますが、他にもそれを増強するような要因もあります。
ひとつは、マスコミで取りあげられる機会が増えたからという理由です。これには私や佐々木洋氏やNPO都市動物研究会の活動も影響しているでしょう。このホームページの影響も少なからずあるかもないかもしれません。また、「都会にはタヌキなんかいない」という世間の思い込みがあるために、タヌキ出現はちょっとしたニュースになりやすいものです。マスコミで取り上げられるとタヌキに気をつける人も増える効果があります。そのため目撃報告が増えるのです。
困ったことに、マスコミは面白おかしく扇動的に物事を取り上げる傾向があり、東京タヌキの場合は「爆発的増加!」と書き立てることもあります。それがまた誤解を増長させているとも言えます。
もうひとつの要因は、ある日突然タヌキが現れる例が時々あるからです。今までタヌキを見たこともなかった場所に、突然タヌキ夫婦と子どもたちが合計すると多い場合では10頭近くも現れることがあるのです。これは「爆発的大増殖」に見えても仕方ありません。昨年、NHK「ダーウィンが来た!」で紹介されたタヌキ家族もそのような状況でした。ただ、私から見れば、以前からその場所あるいはその近辺にいたと推測できる事例がほとんどで、驚くほどのことではありません。子どもの数も6頭以上はさすがに多いと感じますが、ありえない数字ではないので「異常」とは言えません。
タヌキ情報を収集し、実際にタヌキを見ている私から見て、東京タヌキが増えているという感触はありません。
かつて、明治初期には東京23区全域でタヌキが生息していたのは間違いありません。当時の東京はそういう環境だったのです。それから140年、タヌキは都心部から徐々に追い出されてしまう撤退戦を続けてきた、と考えていいでしょう。途中、第2次世界大戦やバブル崩壊など人間活動が低下して撤退速度がにぶった時期もありましたが、全体では一貫して撤退の歴史だったと考えられます。この流れから推測すると、タヌキたちは今現在も減少を続けていると結論せざるを得ません。タヌキが生息を拡大する要因も見あたりません。
それでもタヌキの目撃事例が増えているように見えるのは、実は、都市開発が進んだためタヌキが隠れ暮らす場所がなくなりつつある、ということを意味しているのかもしれません。タヌキは非常に用心深い性質で、人があまり来ないような場所を好みます。しかし、開発でそのような場所が失われたため、人目につくような場所に現れざるをえなくなった、ということです。タヌキがよく現れるようになったということは、ひょっとしたら彼らの危機的な状況を反映しているのかもしれません。
東京タヌキのニュースに「タヌキがすめるほど自然が回復した」と喜ぶ人もいるかもしれませんが、私から見るとそれほど楽観的な状況とは言えません。逆に、緑地はさらに削られている傾向が今もある、と危惧しています。
「東京都23区内のタヌキの生息数」については、私が「1000頭以上」と算出し、それがマスコミやネットで普及しています。しかし実際にはタヌキを1頭1頭数えているわけではないので不確かな要素のある数字です。タヌキの生息数でさえ不正確なのですから、「増えた」とか「減った」とかは軽々しく口にはできないのです。
ただ、私は確信を持って言いますが、東京タヌキは長期的には間違いなく減少傾向です。明治以後の東京の歴史をたどっていけば、この140年間の「タヌキの撤退戦」が見えてくるはずです。私の歴史検証作業はまだ中途ですし、論理がまとまった状態でもありません。この歴史の話はいつになるかはわかりませんがいずれまとめたいと思っています。
それはさておいても、東京タヌキの現状を知るためにも、生息数をより正確に把握しなければならないのは言うまでもありません。皆様からのタヌキ目撃情報のご提供は、実際にタヌキ調査にとても役立っています。今後も皆様のご協力をよろしくお願いします。
この記事内容についてはやや修正が必要となりました。
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