「東京タヌキ探検隊!」のホームページでは、東京都23区のタヌキ目撃情報を集めています。ここでは同時に「ためフン」の情報も集めています。「ためフン」とは、タヌキのフンが堆積したもののことです。タヌキは特定の場所に繰り返しフンをする性質があり、フンが堆積するのです。都会の動物でためフンをするのはタヌキだけであるので、ためフンの存在はタヌキがいる証拠になります。また、フンの内容物を分析すればタヌキが何を食べているのかがわかります。タヌキのフンの分析は、タヌキ研究の中でも特に基本的なもので、天皇陛下が共同執筆された皇居のタヌキについての論文もやはりタヌキのフンを分析した研究なのです。
しかし、東京都23区内でのためフンの情報は少ないものです。タヌキがよく目撃される場所で私自身も探したことがあるのですがなかなか見つかりません。どうやらタヌキは人間の目につかない場所でフンをしているようなのです。
それでも多くのタヌキ目撃メールの中には少しながらフン情報もあります。ただ、メールでは同時に「フンをなんとかしてくれ」と言われる場合が多いのです。そこで、今回はタヌキのためフン対策について書いてみたいと思います。
なお、今回の話は東京都23区内を対象にしたものであり、その他の地域ではそのまま当てはまらない場合もあることにご注意ください。
まず大原則について確認しなければなりません。
タヌキは野生動物です。そこにいるのが当然の存在であり、人間の都合でどうにかしていいものではありません。「フンをされた→タヌキを駆除しろ!」という論理は成り立ちません。(この場合の「駆除」とは殺処分を意味します。)
法律上では、鳥獣保護法によって野生哺乳類・野生鳥類は原則捕獲できません。同法では「有害鳥獣駆除」が認められていますが、これは人的被害・農業被害が発生した時のみ適用されるものです。タヌキのフンはそれには該当しません。行政に何かしろと訴えても何もしないはずです。
よって、「殺す」「駆除する」という選択肢はありえないことになります。これが大原則です。
では、どうすればいいのでしょうか。
ためフンはできればそのままにしてください。ためフンはタヌキ自身のために必要なものらしいのです。
タヌキのフンには、フンを食べる昆虫が集まってきます。例えばコブマルエンマコガネやハネカクシ科などです。タヌキがこのような昆虫も食べていることは、赤坂御用地でのタヌキのフンの分析で明らかになっています(「赤坂御用地に生息するタヌキのタメフン場利用と食性について」手塚、遠藤、2005年)。
タヌキのためフン場にコブマルエンマコガネやハネカクシ科が生息しているのは私自身も確認しており、また、フンの中からも出てくることからタヌキが食べているのは確実です。
つまり、タヌキはためフンをすることで食べ物を集めているのです。全食事量に占める割合は実際には低いかもしれませんが、食べ物が少なくなる冬にはためフンに集まる昆虫は相対的に重要な食糧となっていると考えられます。
もうひとつタヌキのために弁解をしますと、ためフンの場所は人間に発見されにくい場所、人間があまり来ない場所を選んでいるように見えます。つまり、人間の実生活にはあまり影響しないということです。
例えば、家の壁のそばの、窓が無い、または窓が少ない・窓が小さい場所を選んでフンをしているようです。これはタヌキが見つかりにくい場所を選んでいるためと思われます。そのため、人間がフンに気がつかないことが多いと思われ、その結果、フンの情報も少ないという結果になっているのではないかと推測しています。
タヌキが人間に気をつかっているわけではありませんが、結果的に人間に及ぼす影響は最小限になっています。影響が少ないならば、フンをそのままにしておいてほしいものです。
また、ためフンは際限なく拡大するわけではありません。私が見たためフンのほとんどは「フンが山盛り」という状況にはほど遠いもので、雨が降ると形がくずれて形がわからなくなるほどです。東京都23区内ではタヌキの生息密度が低く、ためフン場はせいぜいつがいの2頭が利用する程度です。この利用頻度では山盛りのためフンになることはあまりないようです。
そして、ためフンは永遠に続くわけではありません。せいぜい数ヶ月ほどしか存在しないことが大半です。私が回収のために出向いても、間もなくためフン場が利用されなくなるものです。研究のためには、1年以上安定してフンが得られればタヌキの食べ物の季節変化を知ることができます。しかし実際にそこまで安定的な例はほとんどありますん。
例外的に1年以上ためフンが存在した例はありますが、それは広い敷地の片隅で人間がまず来ない場所でした。そのフンも現在は消えてなくなっています。
もし、敷地内にためフンがあったならば、ぜひ私に知らせてください。フンの一部を回収し、内容物を分析するためです。都会のタヌキが何を食べているのかは重要な研究課題です。ご協力をお願いします。連絡方法については「東京タヌキ探検隊!」のホームページをご覧ください。
(なお、距離などの都合上、回収は東京都23区内に限らせてください。)
それでもフンを許容できない、という方がいることでしょう。それはそれで理解できないことではありませんので、以下ではフンを防止する方法を紹介します。
最も基本的な対策、それは「ためフンの場所に入れなくする」ということです。
ためフンの場所は狭いことが多いため、そこに続く通路をふさいでしまうのです。柵や金網を設置して通行止めにしてしまいましょう。高さは人間の胸ぐらいにしないと乗り越えてしまいます。また、柵・金網の隙間はくぐり抜けられないよう5cm以内にします。下や横にも隙間を残さないように設置してください。
ためフン場だけを囲ってしまうことができない場合は、敷地全体を囲う必要があるかもしれません。その場合も、同様の方針で壁や柵を設置してください。
この応用として、フンの場所に物を置いて使用できないようにする、ネコ対策用のトゲトゲマットを敷きつめる、といった方法もあります。とにかくフンの場所を使えないようにしてしまう作戦です。
やや手間がかかりますが効果が期待できそうなのは、イヌを庭で飼うことです。イヌは番犬としての素質がある種類が適切です。大きさはタヌキ(あるいはネコ)よりも確実に大きい中型犬・大型犬をお勧めします。小型犬でもビーグル程度ならばタヌキより大きいので役に立つでしょう。そして当然ながら、イヌは屋外で、ためフンの近く、ためフンへの通り道で飼ってください。たいていの場合、大型犬ならば室内飼いでもタヌキは近づかなくなりますが、100%確実ではありません。
これらを逆に言うと、室内飼いのチワワ(のような小型犬)ではタヌキに対してはまったく効果がないということです。
もっと簡単な方法としては、フンを埋めたり、土をかぶせたりするというやり方がありますが、それでもフンが絶えないという例が多く、効果はあまり期待できないと思われます。一時しのぎの方法として実行してください。
においや超音波などを使用する方法はまったく効果が無いと思われます。ネコに対してすら効果がはっきりしないものを使っても無駄でしょう。もちろん、ペットボトルも効果は無いでしょう。
タヌキのフンを敷地内で発見して、怒ったりおろおろしたりする方がいることでしょう。しかし、ここは冷静になって対処法を考えましょう。そしてできれば、都会でひっそりと生きているタヌキの暮らしを想像してみてください。ためフンをそのままにしておくという選択肢もぜひ検討してください。