東京タヌキの調査研究では地図は必須のものです。目撃情報があればその地点を地図で確認し、あるいはタヌキが生息していそうな場所を調査するためには地図を片手に現場に行かなければなりません。また、書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」をご覧になればおわかりのように、パソコン上で数値地図を駆使することで新たな発見が得られることがあります。
おかげで東京都23区の地理にはかなり詳しくなりました。今回と次回の話は、このタヌキ研究から派生した地理の話です。
※追記:タヌキ研究とは、「東京タヌキ探検隊!」のことです。こちらの方が本題だということを念のため書き添えておきます。
数値地図の便利さについては以前も書きました。自分のパソコン上でかなり自由に表示ができるため、紙の地図では見えないような微妙な地形も見えてきます。
東京都は全体に東から西へ標高が高くなる地形になっています。これは23区だけを切り取っても同じです。おおざっぱに言うと、荒川・隅田川と多摩川にはさまれた広大な地域は低くなだらかな台地になっています。この台地が「武蔵野台地」です。
実は、23区のタヌキの分布も東よりも西の方が密度が高くなっていることがわかっています。これは武蔵野台地の地形とよく一致しています。この詳細も書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」をお読みください。
そのようなこともあって、東京タヌキの研究をしながら私は「それじゃあ東京都23区で一番高い場所はどこだろうか」ということにも興味を持ったのでした。
文献をいろいろ調べてもはっきりとした答えはどこにもありませんでした。それならば、数値地図で調べればいいのです。数値地図を表示するアプリケーションでは、1m単位で標高に着色することができます。使用した数値地図は5mメッシュなので、ほぼ正確な答えがわかるはずです。
そして23区の西側境界付近を徹底して調べたところ、最高標高と思われる場所を見つけることができました。それは練馬区と西東京市と武蔵野市が接する場所です。具体的には、関町南4丁目、千川上水が流れている場所になります。標高は約57mです。
これは理屈にかなった場所です。武蔵野台地は北に荒川、南に多摩川が流れていて、これらの川は最も低い場所を流れています。ですから最高標高地点はこれらの川から最も離れた練馬区か杉並区にあると推測できます。また、上水は人工的な水路で、もともとは農業用水として利用されてきたものです。用水として効率良く利用するためには、上水はできるだけ標高の高い場所を流すようにしなければなりません。千川上水沿いが標高が高いのは当然のことだったのです。東京の上水といえば玉川上水が有名ですが、23区の境界は千川上水の方が西にくい込んでいるために、最高標高は千川上水の方になっているのです。
地図の下の矢印が最高標高地点(上の矢印については後述)。赤線は23区の境界線。東西にのびる境界線上を千川上水が流れる。西武新宿線に交差するような「谷」は石神井川。その途中にある池が武蔵関公園。
さて、その最高標高地点の現場を見に行くことにしましょう。最寄りの鉄道駅は西武新宿線の武蔵関駅です。徒歩20分ぐらいの距離になります。
地図で見てもわかるように、この一帯は平坦な地形で、どこかにピーク(山頂)があるわけではありません。どこか特定の地点を最高標高地点とするのは難しいようです。あえて場所を特定するならば、練馬区・西東京市・武蔵野市が接する地点、この場合は千川上水の北側の堤防ということにするしかないでしょう。
北側から千川上水を見る。左が練馬区、右が西東京市。奥が千川上水。
西側から見る。右の樹木が茂っている場所が千川上水で、道路に沿って奥へと続いている。道路手前に見えるT字路が練馬区と西東京市の境界。
境界付近にカラスザンショウ(手前の大きな木)があり、その根本付近がやや盛り上がっているので、そこを最高標高地点と考えてもいいでしょう。ただし、隣にシラカシとサクラがあり、その根元も盛り上がっています。厳密な特定は難しいです。
千川上水の流れ。
これで問題解決かというとそうではありません。地図をよく見ると、この場所の少し北、関町北4丁目に小さなピークがあるのがわかります(地図の上の矢印)。この地点の標高も約57mなのです。
ここにはいったい何があるのでしょうか? ここにも足を向けることにしましょう。ここも最寄りは武蔵関駅で、石神井川の北側斜面の上に位置します。現場に着いてみると、そこは「練馬区立関町風の道公園」という小さな公園でした。その公園の中央に小さな盛り上がりがあります。どうやらこれが「山頂」のようです。
中央の盛り上がり(矢印)が最高標高地点? 木が立っているように見えるのはたまたま角度が一致しただけで、「山頂」には何も目印はありません。
先ほどの地点とこの公園のどちらが本当の最高標高地点なのかはわかりません。5mメッシュの地図の精度の限界を超えているからです。最終決着は専門家による計測に任せることにして、今回の結論は「東京都23区の最高標高地点は練馬区西端のこれら2ヶ所である」ということにしておきましょう。
ちなみに、建築物も含めると23区の最高峰は東京タワーということになります。しかし、東京タワーの頂上は誰でも登れるわけではありません。一般の人が入れる場所、という条件での最高峰はどこになるのでしょうか。
また、地面からの高さではなく、海水面からの標高という条件もつけましょう。この場合、建物の地面の標高も加算しなければならないので正確な検証が必要になります。
有力候補を挙げていくと、六本木ヒルズ、東京都庁、サンシャイン60ビル、東京タワーの特別展望台があることがわかりました。以下の表に結果をまとめてみました。地上標高は私が数値地図で調べたものです。
建築物 | 展望台 | 展望台地上高 | 地上標高 | 展望台標高 |
六本木ヒルズ・森タワー | 東京スカイデッキ |
238m
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30m
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268m
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サンシャイン60 | 屋内展望台 |
226.3m
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29m
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255.3m
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東京タワー | 特別展望台 |
223m
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22m
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245m
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東京都庁 | 展望室 |
202m
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41m
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243m
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これらの数字がどれほど正確なのかについては私は自信を持てません。それぞれの建築物が公表している地上高が正確かどうかわからないからです。例えば、東京タワーの特別展望台は「250m」をうたっていますが、これは標高ではないかと思われます。地上250mだとすれば、森タワーより高いことになります。
突出した高さの場所がなく、まるで申し合わせたかのように高さがそろっているというのは不思議です。結局のところ、どこが本当に一番高いのかはわかりません。誰かが公平に測量してほしいものです。
しかし、この問題も2012年には完全に解消してしまいます。この年、新しい電波塔、「東京スカイツリー」が開業するからです。東京スカイツリーの高さは610.58m、そして展望台は350mの高さに作られます。これは疑いもなく東京都23区内で誰でも行くことができる最高標高地点です。
さて、最高標高地点問題からはさらに派生する話題があります。続きは次回!