Vol. 439(2008/12/28)

[今日の地図]東京都23区の最高標高地点はどこだ?!・その2

前回は東京都23区の最高標高地点を紹介しました。しかし、そこは山頂ではなく普通の平坦な場所でした。23区には山らしい山は無いのでしょうか?
さらに数値地図で調べてみました。


ありました。しかも双子のように2つの山が並んでいるのです。
そこは世田谷区の砧と桜丘のあたりです。2つの山の間を環八通りが南北に貫いています。地図を見る限りではここははっきりとした「山」になっているようです。さっそく現場に行ってみました。

まず、標高が高い方の山頂を目指します(地図の左側矢印)。最寄り駅は小田急線の祖師ケ谷大蔵駅です。駅から東へ歩いていくと、小さな川があります。これは丸子川です。この川が近辺で最も標高が低い場所になります。ここから東へと標高が高くなり、山頂があるはずです。

丸子川。川の上に並ぶ柱からは、以前はコンクリートのフタがされていたのではないかと想像される。

東へ進むと坂道がある。

その山頂にあるもの、それは給水所でした。前回の上水もそうでしたが、水を給水するならば標高が高い場所を選ぶのは当然です。山頂に給水所があるのも当然の理屈です。

給水所自体が周りより高くなっていて、数値地図ではその高さが記載されているようだ。当然これは人工的なかさ上げである。

給水所裏門。

給水所の周囲を歩いてみて、(かさ上げを除いた)最高標高地点は上の写真の給水所の裏門近くということがわかりました。
数値地図では標高約54mですが、これはかさ上げされた標高の可能性があります。その周囲は約53mの標高です。

もうひとつの山頂は、環八通りをはさんだ東側にあります(地図の右側矢印)。最寄り駅は小田急線の千歳船橋駅です。住所でいうと桜丘5-8が含まれるブロックが最高標高地点のようです。数値地図では標高約52mとなっています。

桜丘5-8の西側の道路が最高標高のようだ。ごく普通の住宅地である。

上記の地点から北へ行った場所から南を見る。登り坂になっている。右の建物は桜丘図書館。

もうちょっと「山頂」っぽい場所を想像していたのですが、実際はこのように平坦な場所で、住民の方もまったく気づいてないようです。非常になだらかな山なので、環八通りから見てもわかりませんし、そもそも住宅が建ち並んでいるために地形を見通すことができません。
地図上では興味深い地形であるにもかかわらず、現場ではそれが実感しにくいという奇妙な「山」でした。

この2つの「山頂」のどちらの方が高いのかははっきりしません。地図上では西側山頂の方が高いのですが、それはかさ上げされたためかもしれません。「誰もが行くことができる場所」という条件をつけると、どちらが高いのかは数値地図でもはっきりしません。これも誰かが正確に計測してほしいものです。


これだけではちょっと消化不良でしょうから、次はもうちょっと山らしい山を紹介しましょう。

JR山手線の内側の最高標高地点、これは非常にはっきりしています。それは新宿区の戸山公園内にある「箱根山」です(戸山2丁目)。
最寄りの駅は東京メトロ・副都心線・西早稲田駅または東京メトロ・東西線・早稲田駅です。(上の地図で、左端を南北に走るのが明治通り、北東端に見えるのが神田川。)

山らしい山とは言ったものの、樹木に覆われた公園の中にあるために山頂を遠くから確認することは難しいです。

箱根山の西側から山頂方向を見るが、どれが山頂だかわからない。

箱根山の東側の団地から山頂方向を見る。登山道がまっすぐのびているのがわかるが、山頂の確認は難しい。登山道の登りきった所が山頂である。

箱根山の南側から山頂を見上げる。この位置からなら少しは「山」らしく見える。山頂が低いように見えるが、これは標高地図を見ればわかるように箱根山の東〜南側が高台になっていて、一帯の標高が高いからである。つまり、山の中腹から山頂を見ているのだ。

では、山頂に登りましょう。

山頂からの眺め。山頂よりも周囲の樹木の方が背が高いため、見晴らしはそれほどでもない。撮影は2008年12月。冬でこの状態だから、葉のしげる夏はもっと見通しが悪くなる。

南側を見ると、木々の間から南新宿のNTTドコモ代々木ビルがかろうじて見える。

樹木がとてつもない高木のように思えるかもしれませんが、前にも書いたように中腹が高台になっており、そこから樹木が生えているので山頂を簡単に超えてしまっているのです。
なお、山頂には「44.6m」と記された石が地面に設置されています。

この箱根山は実は天然の山ではありません。戸山公園一帯は、江戸時代の元禄の頃に完成した人工庭園なのです。持ち主は尾張藩徳川家で、ここは下屋敷だったのです。そこに池や築山を造成して、完成したのが「戸山荘」、現在の戸山公園です。戸山荘には小田原宿を模した景色も作られたそうです。そして、小田原に近い山といえば難所の箱根山。戸山公園の箱根山の名前の由来はそこから来ているようですが、そう呼ばれるようになったのは明治時代に陸軍用地(陸軍戸山学校用地)になってからのことのようです。もともとは「玉園峰」(ぎょくえんほう)と呼ばれていたようです。
(この項は現地の案内板の説明を要約したものです。)


東京都23区の最高標高地点の旅はいかがでしたでしょうか。
地形の都合上、山らしい山が無いのは期待外れかもしれませんが、数値地図を駆使したからこそ発見できたことです。あまりにもなだらかな武蔵野台地の地形では、国土地理院の2万5千分の一地図で最高標高地点を探すのは非常に難しいことです。
数値地図は新しい地図の利用方法を提供する、とても面白いツールなのです。


[いきもの通信 HOME]