Vol. 446(2009/3/1)

[東京タヌキ探検隊!・OPINION]神田川タヌキ落下事件・その2

動物河川落下事件対策の提案

(前回の記事はこちら)

今回のような事故の場合、どこが作業をするのか、どう取り扱うのかで混乱することが多くあります。例えば、地元住民がどこに連絡していいか迷ってしまうのです。
まずは救出作業について、前回と内容が一部だぶりますが、整理してみたいと思います。なお、以下の内容は東京都23区だけを対象にしたものです。


●動物の担当はどこ?

まず、野生哺乳類、野生鳥類は「鳥獣保護法」という法律で管理されます。鳥獣保護法の原則は「捕獲・殺傷禁止」です。

鳥獣保護法は環境省が管轄しますが、実務は自治体で行われます。東京都の場合は東京都環境局の担当です。警察にも消防にもタヌキをどうこうする権限はまったくありません。また、区役所・市役所などにも権限はありません。

動物の捕獲・収容というと、保健所を思い浮かべる方がとても多いでしょうが、保健所も野生動物に関わりはまったくありません。そもそも、現在はイヌやネコも保健所では扱いません。
イヌやネコは飼育動物であり、「動物愛護法」の範囲内です。野生動物とはまったく扱いが異なります。イヌやネコは、東京都の場合は東京都動物愛護相談センター(東京都福祉保健局)が担当しています。

タヌキが河川に落下した場合、その担当は東京都環境局以外は考えられません。警察でも消防でも区役所でもないのです。

●捕獲作業は誰がするべきか?

担当は東京都環境局であっても、その職員自身が捕獲作業をするとは限りません。実際の捕獲作業は警察または消防または業者が行うようです。これは環境局の指示で行われている…はずです。
東京都環境局との連絡無しに警察または消防が自主的に捕獲作業を行うことがあるようですが、これは本来なら違法行為です。

河川の河床での作業は危険もあります。一般の人が作業して事故が発生してしまうのは避けるべきです。ここはやはり消防が作業をするのが最も適切ではないかと思います。ただ、これが消防のやるべき業務であるかどうかについては賛否両論あることでしょう。

そういえば、東京都には「鳥獣保護員」(非常勤職員)がいます。彼らも東京都環境局です。彼らが捕獲作業を担当するというのは無理な話でしょうか。クマやサルは無理でも、河川落下したタヌキならできそうな気がします。
あるいは消防団の出動は可能なのでしょうか。

捕獲作業を誰が行うかについては消防だけに頼らず、他の可能性も探してみるべきでしょう。

●タヌキはどこに預けるか?

野生動物が保護されると、そのまましばらく警察で飼育されることが多いようです。しかしこれは適切な処置なのでしょうか?
タヌキは逃げたペットでもなければ遺失物でもありません。警察がいつまでも手元に置いておく理由はまったくありません。また、警察は野生動物の専門家ではないのですから、飼育を任せるには不適任です。

タヌキの場合、元気ならば速やかに現場近くで放すべきです。
衰弱しているのなら、動物病院に預けるべき、つまり獣医師に依頼すべきです。あるいは哺乳類飼育の実績がある大学などに預けることも考えられます。体調が回復したならば、やはり現場近くで放すべきです。

何らかの理由で保護される野生動物はタヌキだけとは限りません。どんな動物がやって来るのかわからないわけで、そうなると警察で飼育するのはますます不安です。
東京都環境局を軸に、地元獣医師や大学などと連携をとって、預け先になる動物病院等を常に確保しておく態勢を常時構築しておく必要があるのではないでしょうか。

●タヌキの他に落ちる動物はいるか?

川に落っこちるのはタヌキだけではありません。他にもイヌやネコが落下する可能性があります(ハクビシンは自力で登れそうな気がします…)。
実際の数字はわかりませんが、飼育数・生息数から考えるとイヌやネコは、タヌキよりもずっと高い頻度で河川落下事故が起きているのではないかと思われます。特に、行動に制約が少ない野良猫での発生の可能性が高そうです。23区全体ならば、おそらく月に1回以上は発生しているのではないでしょうか。タヌキよりもこちらの方がよっぽど深刻な事態かもしれません。



提案

このような落下事件が発生するたびに地元住民と警察と消防が右往左往していては効率が悪いですし、無駄が発生して問題解決が遅れるおそれもあります。
そこで私から提案です。

提案の内容は「行政など各組織が協力して動物の河川落下事故対策マニュアルを整備してください」ということです。
主導をするのは担当部局である東京都環境局、東京都福祉保健局です。これに警視庁、東京消防庁、獣医師(大学)、区役所などが参加すべきでしょう。
対策マニュアルで決めるべきことは以下のようなことです。

・最高責任者の明確化

事故発生から収容(引き渡し・放獣)までの一連の作業の最高責任者を統一すべきです。
野生動物ならば東京都環境局、飼育動物ならば東京都福祉保健局が適任でしょう。法律の点からも妥当です。

・事故発生時の連絡伝達方法の確立

どこの窓口が連絡を受けても、必ず最高責任者へ情報が集約されるようにすべきです。そして、作業の指示も最高責任者から行われるべきです。
住民がたらい回しにされたり、あちこちに電話をかけまくったりしなければならないような事態は回避されるべきです。

・作業実行者の明確化

誰が捕獲作業を行うかも明文化すべきです。主に消防が担当するにしても、他の人たち、例えば業者などが出動することもあるでしょう。どういう場合にどこが出動するのか、そのルールを決めておくべきです。

・収容者の選定

野生動物が衰弱している場合、どこかで収容しなければならないことがあるでしょう。その収容先としては警察は明らかに不適当です。最も頼りになるのは獣医師です。
救出した後でどこで預かってもらうかを考えるようではいけません。前もって協力してくれる獣医師(あるいは適切な飼育施設)を地域ごとにリストアップしておくべきです。

対策マニュアルで以上のことを決めておけば、河川落下事故が発生してもあたふたすることはないでしょう。つまり、無駄なく、効率的に動けるわけです。結果的に警察や消防の負担を減らすことにもなるでしょう。
また、事故情報や経験を蓄積していくこともできるわけで、行き当たりばったりの対応にならずにすむことでしょう。


いかがでしょうか。
河川落下事故は一定確率で確実に発生する事故です。しかも予防は困難です。ならば、対策マニュアルを整備することによって適切に確実に対応がとれるようにすべきです。
この提案、私一人だけが主張しても実現はしません。賛同してくれる方、特にイヌ・ネコ関係団体からのご協力をお願いしたいと思います。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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