Vol. 468(2009/10/18)

[今日の勉強]ネコは何本指?

マンガやアニメでありがちな間違いがあります。例えば動物の歯はそのひとつで、まともに歯すら描けないのか?と思ってしまう例を以前に紹介しました
この程度のことはちょっと実物を見れば、あるいは資料を探せば答は簡単に見つかるものなのですが、それをやらない人はプロでもいるのです。適当にごまかせたつもりでも、私の目はそれを逃しません。

今回もそんなありがちな間違いの話です。


まずは問題です。ネコの足跡を描いてください。
ネコなど動物の足跡はデザイン的にもよく使われます。かわいらしさを演出する小道具というわけです。
では、正解は次の3つのうちのどれでしょう?

3本指? それとも4本指、5本指でしょうか?
3本だっけ? いや確か4本…いやいや哺乳類は5本が基本じゃなかったっけ?
これはとても基本的な問題ですが、自信を持って正解を描ける人はどれだけいるのか私はちょっと心配です。

正解は「4本指」です。ネコを飼っている人なら簡単に答えられるはずですよね。
哺乳類の指は5本指が基本ですが、これは進化の過程で変化していくものです。例えばウマは指は1本だけです。唯一の指は蹄(ひづめ)であり、これは中指に相当します。他の指は消えてしまったのです。ネコは1本どこかに行ってしまったのですが、そのどこかに行った指は親指にあたります。その指がどこに行ったのかというと、前足の場合は地面に届かない位置にツメがあるはずです。これが親指なのです。ですからネコの前足は5本というのが正しいのですが、その親指は地面に触れないので足跡は4本指で正解なのです。ちなみに後ろ足の親指はあったりなかったりするそうです。
イヌの指も実はネコと同じで、足跡は4本指で、前足は5本指、後足は4本指または5本指です。
マンガやアニメ、あるいはイラスト的な表現では、なぜか3本指のネコやイヌが登場します。これは明らかに動物学的、モルフォロジー的に間違っています。なぜこのような誤りが多く流通するのかはわかりません。ひとつ考えられる理由は、「単純化」です。マンガもアニメもイラストも、対象を詳細に描くよりも単純化して描くことは珍しくはありません。というよりも、ある程度の単純化をすることで、印象もすっきりし、特徴をきわだたせることもできるという利点があります。
足跡の場合は、4本指よりも3本指の方が洗練されたイメージを与えているかもしれません。
しかし、正しくは足跡は4本指なのです!


では、次の問題です。下の足跡はどちらがネコでどちらがイヌでしょうか?

ツメの跡のある方がネコにふさわしい、と思う方は少なくないでしょう。
しかし、正解はツメのある方がイヌで、ない方がネコです。
ネコの指というとツメの印象が強いのですが、ネコは普段はツメは引っ込めています。歩く時にはツメを出したりしません。よって、足跡にはツメの跡はありません。逆にイヌの場合はツメは常に出しっぱなしで引っ込めることはできません。ですので、足跡には常にツメの跡が残るはずなのです。
ところで、上のツメのある足跡を「イヌ」と紹介しましたが、実はこれはタヌキの足跡なのです。タヌキはイヌ科の動物なので指の数が同じなのは不思議ではありません。また、形状もほぼ同じです。ただ、そのためタヌキと小型犬の足跡の場合は区別は難しいのです。東京タヌキの研究では足跡はあまり役に立ちません。大型犬なら明らかに足跡が大きいのでイヌだとはっきりわかります。


こういった知識は普通の人にとっては何の役にも立たないものですので、真剣に覚えようという気にはなれないでしょうね。
しかし、動物の謎を解く動物探偵には必須の知識です。動物探偵でなくても、ハンターや動物研究者にとっても足跡の知識は絶対必要です。足跡がクマであるかイノシシであるか、新しいものか古いものか、そういったことがわからなければ動物を追うことも、動物から身を守ることもできませんから。その意味では登山愛好者にも知っておいてほしい知識です。

それはともかく、マンガを読んでいてもアニメを見ていても、動物の足指の数とかツメの有無とかが気になってしまうのが私です。絵を描く方々はこういうことをきちんと調べてほしいものです。そうすれば私のイライラはずっと減るでしょうから。


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