Vol. 493(2010/8/29)

[今日の事件]逃走サルを捕まえるには

東京都心を疾走したサルは思ったよりも早く捕獲されました。テレビでは警察が網を持って走り回っている姿が放送されたりしましたが、「何で捕まえられないのか、さっさと捕まえろ!」と思った方もいることでしょう。しかし、それは不可能です。

サルは屋根や電線を普通に歩き回れます。地上で網を振り回したところでかすりもしません。サルが地上にいたとしても、サルの方が動きが素早いので捕獲はまず不可能です。そもそも網の大きさがサルを捕獲するには小さいようなので、捕まえるのはなおさら困難です。よほどの幸運が重ならない限り、あれでは捕まりません。警察も過去の例を検証するなり、専門家に聞くなりして経験値を上げればいいのですが、いつも同じことを繰り返しているように思えます。まあ、捕まえるぞ、という姿勢を示しておけば十分と考えているのかもしれませんが。

野生動物を捕獲するならば、上野動物園の飼育係ような飼育経験がある人に出動要請すべきです。彼らは動物についての性質などを知っているはずですから現場ではとても役に立つはずです。
しかし、今回のようにサルが逃げ回っている状況では彼らも出動しないでしょう。運動能力の高いサル相手ではさすがにプロでも捕獲困難です。無駄に動き回っても意味がありません。職場の仕事もたくさんあるでしょうから何日もサル捕獲に費やすわけにもいきません。

ではどうすればいいのでしょうか。「捕獲できる状況になるまで待つ」というのがおそらく最も有効な対策でしょう。
その意味では今回の事件は運が良かったと言えます。逃げ場の無い場所に閉じこめることができたのですから。こうなれば時間をかければ捕まえることができる。
1999年に麻布に出現したサルの場合も屋内に入ったところで捕まったようです。「ひたすら待つ」という方法はとにかく時間がかかってしまうものですが、順当な方法です。

「そんなのまどろっこしい!撃ち殺せ!」または「麻酔銃でしとめろ!」という意見も出てくることでしょう。
今回は捕獲の時に麻酔銃と麻酔吹き矢が使用されたとのことです。
初めから麻酔銃を使えばいいのにと思う人はいるでしょうが、住宅街では麻酔銃なんて使えません。周囲をよく確認しないと、外れた時にどこに当たってしまうかわからないからです。射線上に人や建物がある場合は発射してはいけません。となると、東京都23区内では麻酔銃を使える場所はほとんどゼロだということになります。同じ理由で、猟銃(散弾銃、ライフル銃)も住宅街では使えません。麻酔銃よりもはるかに危険ですから。
それにそもそも麻酔銃を所持している人自体が少ないはずで、いつでもどこでも出動できる状況ではありません。
吹き矢は威力の点では麻酔銃よりまだ安全です。しかし命中率が悪いので、対象に数mまで近づく必要があります。これもまたなかなか使いにくい道具なのです。
麻酔銃も吹き矢も追いつめてからの最終手段であり、最初から持ち出すものではないのです。

都市部での野生動物捕獲はこのようになかなか難しいものなのです。
しかも発生頻度が低いので人間側の経験値は上がらず、優先順位も低いので誰も真面目にシミュレーションしようとしません。近い将来、また東京都心で同じ騒ぎが繰り返されるのでしょう。
ちょうど今も静岡県三島市と裾野市で人間にかみつくサルが逃げ回っていますが、ここでも捕獲は難しいでしょうね。山林があれば簡単に逃げ込まれ、それ以上の追跡は無理ですから。
動物退治が甘いものではないことがこういう騒動で再確認されるのは悪いことではないと思います。人間の知恵の限界を思い知るいい機会です。


[いきもの通信 HOME]