Vol. 497(2010/10/10)

[東京タヌキ探検隊!]タヌキは線路をどう利用しているか

今回も前回に続き、2010年8月22日のNHK総合テレビ「ダーウィンが来た!」の問題点についてです。当該番組では東京都23区内ではタヌキが線路を利用していると述べていました。これについて正確に解説しましょう。


「タヌキは線路を移動する」というのは正しいことです。しかし、タヌキは線路だけを利用するのではありません。線路がなければ道路を歩くのは当然です。タヌキの行動範囲は半径数百m程度なので、その範囲内に線路がないタヌキの方がずっと多いのです。線路に注目するのはかまいませんが、それが唯一の移動経路のように取り上げるのは間違いです。

次に、タヌキにとっての線路の意味を考察してみましょう。
たぬきにとって、線路は道路よりもアドバンテージ(利点)があります。
まず、深夜になると電車は通らなくなります。タヌキは夜行性なのでこれは都合がいいことです。深夜以降はタヌキは安全に活動できます。終電前であっても、電車は線路の上しか走りませんから、それを理解できれば危険はありません。
線路では人間に出会う確率が非常に低いのも利点です。タヌキは安心して活動できます。

線路脇の草むらなどには昆虫がいて、タヌキの食料になります。
線路脇に側溝があれば、ねぐらにもなりますし、出産・子育てをする巣にもなります。
そして、これらの条件が長距離にわたって連続していることも利点です。
線路ではタヌキにとって良好な生息環境が保証されることになります。緑地に匹敵する環境を線路は提供しているのです。
タヌキの生息範囲内に線路がある場合は、生活場所の一部となっている可能性は高いでしょう。

安全な環境が連続している線路は、長距離の移動にも使うことができます。線路がない住宅地の場合、タヌキが長距離移動するには食べ物を探しながらあっちこっちへと歩き回らねばならず、なかなか距離を稼げないでしょう。移動速度は遅めになりがちです。これが線路だと寄り道せずに一直線に進むことも可能です。そのため移動速度も相対的に速くなります。
また、線路を使えば交通量の多い危険な道路を安全に越えることができます。東京には環七通りや山手通りなどの交通量の多い道路があちこちにありますが、これを横断するのはタヌキにはかなり危険なことです。しかし、これらの道路と線路は基本的に立体交差しています。そこを通ればタヌキは安全に横断できるのです。
東京タヌキは鉄道線路沿いに分布しているように見える地域がいくつかありますが、これは以上のような理由から説明できます。東京タヌキの分布拡大に線路が貢献したという推測もできそうです。

ただし、タヌキはどの線路でも使えるわけではありません。ちょっと考えれば誰でもわかることですが、高架や地下は使えません。出入りできる場所が無いからです。実は東京都23区内でタヌキが利用できる線路は限られています。

東急世田谷線、都営荒川線は地上のみなのでタヌキには利用しやすい線路です。電車の本数も多くなく、速度も遅いのでより安全といえます。
京王線、京王井の頭線、東武東上線、西武新宿線、西武池袋線は一部に高架や地下があるものの、大半の区間が地上なので利用しやすい線路です。
小田急線は梅ヶ丘駅以西が高架になってしまい、利用不可能になってしまいました。ただ、山手通りと交差する辺りから東へは地上を走っていますので、タヌキの利用は可能です。
東急田園都市線はほぼすべて地下(二子玉川駅付近は高架)なのでまったく利用できません。
地下鉄はタヌキはまったく使えないように見えますが、車両基地は地上にあり、そこを使用しているのではないかと思われた例があります。

これらの他にもいくつかタヌキが線路を利用している場所がありますが(推定も含む)、頻度はかなり低そうです。
以上のように、タヌキが利用している線路は全体から見るとかなり限定されていると言えます。


このように、線路といってもそれぞれ事情が違っています。本当にタヌキが利用できるかは地図を見て、現場を見て、目撃情報と照らし合わせて、細かく検討しなければならないことです。
線路をひとまとめにして「タヌキが使っている」と言い切るのはかなり乱暴なことです。
当該番組では東京都23区のタヌキ分布図に線路(地下鉄以外)を重ねた地図が示されましたが、これは以上の理由からかなり不正確です。タヌキが田園都市線を利用しているわけはありません。日暮里・舎人ライナー(全線高架)や京葉線(地下または高架)を利用しているわけはないでしょう(笑)。NHKももうちょっと頭を使ってほしいものです。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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