Vol. 529(2011/10/9)

[今日の勉強]あれもこれも動物食

ここ何年か、「草食系」「肉食系」という言葉が流通するようになりました。「草食」も「肉食」も、もともとは動物の食性(食べるものの傾向)のことを指していた言葉です。しかし動物学の世界では近年では「植物食」「動物食」という言葉を使用するようになっています。草だけを食べているのではなく果実や花の蜜を食べる場合もあるので「植物食」、肉(一般的には陸上脊椎動物の筋肉や脂肪の意味にとられる)だけではなく内臓や昆虫なども食べる場合もあるので「動物食」、と呼ぶ方が正確だからです。

動物食と植物食についてはかなり以前にも書いていますのでお時間がある方は読んでみてください(Vol.107Vol.108Vol.109Vol.131)。

今回は変わった動物食の動物を紹介します。

アリクイというと、妙に細長い顔が特徴の動物です。オオアリクイやコアリクイは日本の動物園でも見ることができます。
アリクイはその名の通り、アリやシロアリを食べる動物です。つまり動物食なのです。肉食動物というと、ライオンやオオカミといったどう猛で機敏な動物がシマウマなどを襲って食べる姿を想像してしまいますが、こんなに平和そうな動物だって動物食なのです。もっとも、オオアリクイの大きなツメで攻撃されるとかなり危険ですが。
アリクイの舌は非常に細長く、それをアリ塚などの中に差し込んでアリをくっつけて食べてしまうのです。また歯はほとんどないため、かみ切ったり、すりつぶしたりということはできず、食べ物は丸飲みするしかありません。そのためアリやシロアリ以外を食べるのは困難です。アリクイは果実も食べるとされていますが、固形物のままでは難しいので、果実の中の汁やどろどろの部分を食べているということでしょう。
動物園ではアリクイのような偏食さんは飼育が大変です。アリやシロアリを毎日大量に調達するのは困難ですから。そこで、動物園では栄養のバランスを考えて選んだ代用品(Wikipedia「オオアリクイ」の項によると「肉、卵黄、ヨーグルト、果物、人工飼料など」)を液状にして与えているそうです。

海の哺乳類の代表といえばイルカ、クジラ(分類上は両者は同じグループの「クジラ目」に属する)ですが、これらは全員が動物食です。イルカは魚を、マッコウクジラはイカなどを、シャチが魚やイルカやオタリアなどを食べている、というのはよく知られています。ザトウクジラやシロナガスクジラはオキアミ(エビに似た甲殻類)やニシンなどの魚類を食べています。つまり食べているのはどれも動物なのです。
なぜ動物ばかりを食べているのかというと、海には動物しかいないからです。海藻や海草は沿岸部、つまり水深が浅いところ(沿岸部)にしかありません。海のど真ん中には海藻や海草はありません。海には植物プランクトンも大量に存在しますが、その多くは珪藻、藍藻、渦鞭毛藻といった微小な生物であり、海全体で見ると非常に薄く分布しています。そのためイルカやクジラが食物として利用するには効率が悪すぎるのです。
イルカもクジラも平和っぽい動物ですがしっかり動物食なのです。やはり海の哺乳類であるアシカやアザラシも同じく動物食です。
(同じ理由から大型の魚類も動物食にならざるを得ません。ペンギンも鳥類ですがやはり動物食です。)

ところが、同じ海の哺乳類でもジュゴン(「海牛目」に属し、イルカ・クジラとは別の分類)は植物食です。ジュゴンは海草(アマモなど)を食べます。海草は浅い海底にしか生えませんので、ジュゴンの生息場所も海岸付近に限られます。そのため埋立で浅海が消滅したり、陸上の開発に伴って土砂などが流出し海草が壊滅したりするとジュゴンは生息できなくなってしまいます。ジュゴンが絶滅の危機にさらされているのは、このように人間活動が直接生息環境に影響を与えるからなのです。

「肉食動物」というと凶暴な動物をイメージしがちですが、平和そうな動物だって動物食だったりするのです。むしろ植物食の動物の方がよっぽどこわいこともあります。アフリカゾウやキリンにはあのライオンでさえかないません。食性だけで動物を語ってはいけないのです。


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