EXTRA 8(2002/5/5)

「季刊Relatio」連載

「動物事件の読み解き方」補足

第8回 東京都カラス捕獲作戦始まる

※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。「Relatio」は緑書房グループのホームページから購入することができます。
(参照 EXTRA 0)


今号から表紙タイトルがカタカナで「リラティオ」になったり、誌面構成も大幅に変わった同誌ですが、とりあえず私の連載は続いてます。さて、本題。

トラップの結果

都が設置したトラップによるカラス捕獲は予定通り(有害鳥獣駆除の許可期限通り)3月末に終了しました。その結果は4月22日に発表されました(発表遅すぎ! このまま発表しないのかと思ってました)。捕獲数は4210羽。都内の生息数の1割以上の数です。NHKのニュースでは、捕獲数のトップ3は以下のようになっていました。

代々木公園(渋谷区) 約570羽
光が丘公園(練馬区) 約300羽
石神井公園(練馬区) 約250羽

カラスの寝ぐらでの捕獲数が多かったことがわかります。
都は4000〜6000羽の捕獲を予定していたらしく、一応最低限の目標は達成できたわけです。行政的には満足できる成果だったと言えるでしょう。
しかし、カラスがこれだけ捕獲されたということは、それだけ生き延びるカラスもいたということです。もしトラップ捕獲をしなくても、数千羽のカラスが自然死していたことでしょう。人為的に捕獲すれば、その代わりに食べ物にありついて生き延びたカラスもいるわけで、トラップ捕獲はその実績ほどの効果は持たないのです。実際、東京のカラスが減った、あるいはゴミ荒しが減ったという印象はまったくありません。繁殖期を過ぎれば、この程度の減少はすぐ回復できます。都はまったく意味のないことを、いかにも効果があったように宣伝しているのです。現段階では効果の有無の判定はできないはずなのです。
そもそも、カラス問題を数億円程度で解決しようという考えこそが甘いのです。もっとしっかりと金の使い方を考えてほしいものです。
行政のトップが「カラスを殺せば問題解決」と考えているようでは、カラス問題もゴミ問題も何も解決しないでしょう。こんな貧困な思考力のトップがいる東京都民は不幸としか言いようがありません。

なお、カラス対策プロジェクトチームは4月から環境局自然環境部計画課に移管しました。唐突な感もありますが、これは当初からの予定だったと思われます(3月のインタビュー時にはこの話はまったく無かった)。

トラップは4月以降は天井にふたがされています。9月から捕獲を再開する予定ですが、トラップを解体・再建設するとそれだけでコストがかかるため、そのままにしているのです。

これがカラス対策の広告

記事中で紹介した、カラス対策のポスター広告を紹介します。この写真の広告は公共広告機構のものですが、内容はまったく同一のものです。5月現在、営団地下鉄の駅ホームでよく目にします。この写真は半蔵門線・神保町駅ホームで撮影しまた。
広告の文字は以下のようなものです。

(タイトル)
住みやすい街、東京。
(カラスたちのセリフ)
生ゴミは前の晩に出してほしいよね。
石原さんもたいへんだなあ。
燃えるゴミの日、もう1日増えるといいのに。
(左側の文字)
おかげでどんどん仲間が増えてます。
(左下の小さい吹き出し)
ゴミをきちんと捨て、「人」が住みやすい街に!

これを見てカラス対策のポスターだとわかる人は少ないのではないでしょうか。私も最初見たときは変なポスターだなー、としか思いませんでした。都当局はこの程度の広告で「カラス対策をやっている」と自慢しているのですからおめでたいものです。

あてにならない政治家・マスコミ

カラストラップ問題は動物事件ウォッチャーの私から見てもかなり重大な事件です。もっと社会問題として取り上げられるべきものだと思っています。しかし、マスコミや政治家の反応は非常に低調、というよりもほとんど無視されていました。なぜでしょうか。

まず政治(都議会)では、与党は石原知事に逆らうことができません。
一方の野党にとっては、問題となる金額が小額すぎて政治争点として弱すぎます。この程度のことでがんばっても政治家のキャリアとしては大した得点にはなりません。そして何よりも、カラスは助けても投票してくれないし献金もしてくれない、という決定的な問題があるのです。
このように、トラップの撤去には政治家はまったく当てにできません。

マスコミの方はどうでしょうか。
新聞の世界の花形は、政治・外交・経済・社会といった分野でしょう。科学ものはマイナーなジャンルです。専門の記者を除いて科学ネタはきちんと理解されていないのが実情です。
テレビは見た目に面白いネタしか興味がありません。しかも不幸にも「宗男&真紀子&清美」騒動、ソルトレークシティー・冬季オリンピックの時期に重なってしまいました。
雑誌もこれらと同じで、科学ネタの理解に欠け、「宗男&真紀子&清美」騒動の方があまりにも面白すぎました。
マスコミは全般に科学もの・動物ものを理解していないと言っていいでしょう。だからこそ専門家の意見を聞いてほしいし、動物問題を読み解き解説する私のようなジャーナリストをもっと活用してほしいと思うのです。

マスコミの中にも理解ある人はいます。しかし、視聴率が優先されるような世界では動物ものの出番はあまりない、という事情があることは私も知っています。私(そして自然保護派の人たち)も自然保護の理解を広める努力は必要でしょう。

(上記のことは、私が政治家やマスコミに協力しない、ということではありません。きちんと理解してくれるのなら喜んで協力します。)

カラスが小鳥をつかまえるのは当たり前

カラス問題では、カラスは「小鳥を食べる悪いやつだ」と非難されることがあります。しかし今回の記事で書いたように、スズメやツバメが減ったのはカラスが原因ではありません。また、雑食性のカラスが小型鳥類を食べるのは当然のことで、彼らが食べるものを人為的に制限することなどできません。「かわいい動物を食べるのは悪い動物」などというのはあまりにも短絡的です。自然界の構成を考えてみれば、このような捕食関係は正常なものであることは明らかです。
「小鳥を守るため」と言うととてもすばらしいことのように思えますが、そのためにカラスを殺すのはまったく見当外れの対策、詭弁なのです。

カラス問題のポイント

最後に、カラス問題のポイントを簡単にまとめておきましょう。

カラスを殺してもカラスは減りません。
カラス問題は数億円程度で解決できるようなものではありません。
カラスを殺さなくても問題を解決する方法はあります。
それは、ゴミとカラスを物理的に遮断することです。
その方法はゴミネットなどいくつかありますが、
私はゴミ夜間回収を推薦します。


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