Vol. 35(2000/2/20)

[今日の本]ブラックバスがメダカを食う

ブラックバスがメダカを食う
[DATA]
著:秋月岩魚(あきづき・いわな)
発行:宝島社(宝島社新書)
価格:660円
初版発行日:1999年9月24日
ISBN4-7966-1580-6

[SUMMARY]ブラックバス被害の実態と対策

ブラックバス(オオクチバス、コクチバス)は釣り(ルアーフィッシング)で人気があるが、一方で在来の水棲動物を食い荒らすために各地で問題視されている。
本書では、ブラックバスの何が問題になっているかを指摘し、ブラックバスの歴史、各地での現状などを報告する。そしてブラックバスが全国にはびこったのは密放流によるものと推測し、それを放置し、ブームを作り上げたバス釣り業界を批判する。

[COMMENT]水の中で起きた大事件

本書のタイトルは「ブラックバスがメダカを食う」ですが、これはメダカの減少がブラックバスのせいである、ということではなく「日本の淡水生態系を狂わせるブラックバスと、環境の悪化で減少するばかりのメダカ」を象徴的に言い表した題名です。いかにも出版社側が付けそうなタイトルです。この点はちょっとマイナスかもしれません。

ということは別にしても、本書はブラックバス問題の現状を知るには手ごろな解説書です。ブラックバス問題についてはVol.27でもとりあげましたが、もっと詳しいことを知りたい場合は本書を一読することをすすめます。
ブラックバスは昔からしばしば問題されてきましたが、世論的に盛り上がったことはほとんどなかったように思います。最近になって新聞でもとりあげられるようになってきて、私も注目するようになったのですが、私自身が数年前に魚類関連のCD-ROM図鑑の仕事をしたときにはこの問題をまったく認識していませんでした。
本書を読んで特に深刻な問題だと思ったのが、ブラックバスは人為的に拡散したのだということです。ブラックバスは淡水魚ですから、自力で他の河川池沼に移動するには限界があります。ほんの数十年で全国に分布を広げたのは明らかに誰か(不特定多数)があちこちで不法放流を繰り返した結果なのです。その一端を示すような事例が本書ではいくつか紹介されています。

本書での著者の結論は「生物多様性」ということです。私もこの本を読みながら「生物多様性」のことを思い起こしましたし、最近の環境問題の流れからいっても妥当な結論です。「生物多様性」とは、非常に簡単に言うと多くの生物種や生態系が存在することです。自然環境は非常に複雑なシステムであるため、ある生物が絶滅したり、生態系が破壊されることによって自然環境あるいは地球全体のシステムが崩れるかもしれません(崩れないかもしれないが、その予測は不可能)。それを防ぐには、現在の自然環境を保全・維持しなければならないと考えられています。
「多様性」ならばブラックバスを根絶することも良くないのでは? と思われるかもしれませんが、ブラックバスは本来日本には存在しなかった魚ですし、ブラックバスによって多くの動物が捕食され、場所によっては絶滅する動物もいるようでは「多様性」どころか、逆に単純化してしまうのです。こう考えると、ブラックバスは実に深刻な問題なのです。

このような本が出るぐらいですから、バス釣り業界側も何か反応があるだろうと思い、本屋でバス釣りの雑誌を立ち読みしてみました。本書が出版されてからかなり時間がたっているせいもあるのでしょうが、ブラックバス問題をとりあげていたのは1誌だけでした。もちろんバス擁護論だったのですが、科学的な証拠を示すわけでもなく、自らの立場を正当化するだけの貧弱な内容でした。この程度の反応ならば、バス退治側も世論にもっと訴えれば多くの味方を得ることができるのではないでしょうか。いずれにせよ、日本人は水の中のことに対しての認識が非常に薄い(長良川といい、諌早湾といい)ので、もっともっとこの問題をアピールする必要があるでしょう。


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