クジラは食べていい!
[DATA]
著者:小松正之(こまつ・まさゆき)
発行:宝島社(宝島社新書)
価格:700円
初版発行日:2000年4月24日
ISBN4-7966-1785-X[SUMMARY]捕鯨賛成派の立場から
捕鯨問題について、捕鯨賛成派の視点からの著書。
現在、商業捕鯨は一律に禁じられているが、一部のクジラは既に十分な個体数がいること、その増えたクジラのために漁獲量が減少しているらしいことなどを紹介、捕鯨再開を主張する。
また、IWC(国際捕鯨委員会)が捕鯨賛成国や反捕鯨環境保護団体のために正常な機能を失っていることも述べている。[COMMENT]非科学的クジラ論争の実態
まず最初に断っておきますが、私は捕鯨問題については現在中立の立場です——というよりも、今までこの問題は避けていたため、賛否どちらの主張もよく知らないのです。野生動物を殺すのはあまり気が進まないことですが、一部のクジラは数も十分に増えており、きちんと管理さえすれば捕鯨を行っても問題はないと思えるのです。
本書は、著者の肩書が農林水産相漁業交渉官ということからもわかるように、捕鯨賛成派であり、捕鯨問題における日本政府の代弁者といっていいでしょう。
その主張は——商業捕鯨の禁止により、近年クジラ類の数は回復しつつある。特定の種類はある程度の捕鯨をしても絶滅するようなことはない。一方でクジラの増加によってエサとなっている魚が大量に食べられているらしいことが推測され、漁業資源の減少につながっていると思われる。増えすぎたクジラを捕獲するのは、漁業資源の健全化にも必要である。——ということになります。
しかし、残念ながら本書に捕鯨問題の科学的考察を求めてはいけません。私はそれこそを期待していたのですが、科学的なお話はほんの少しだけ。もっとも、クジラに限らず海の中のことはわからないことだらけなので、これも仕方のないことかもしれません。代わりに、IWC(国際捕鯨委員会)の異常な運営方法や捕鯨反対国、反捕鯨を掲げる環境保護団体に対しての不平不満恨みつらみが半分以上を占めています。本書を読んでみれば、なるほどIWCというものが非常に政治的に運営されており、科学的な正しさが軽視されていることがわかります。捕鯨賛成派の主張がIWCでつぶされているのは、それが科学的に間違っているからではないのです。そういう状況を考えると、著者がIWCなどに対する文句を連ねたくなる気持ちもわかるのですが、そればかり、という印象になってしまったのは残念なことです。ただし、本書を読んだからといって、簡単に捕鯨賛成派になることもできそうもありません。本書の主張も一面的であるかもしれませんし、都合の悪いことには言及していないかもしれません。本書は捕鯨問題の一方の側の主張に過ぎず、もう一方の考えも聞くべきでしょう。しかし、その捕鯨反対も日本人一般に届くような宣伝活動をしているかというと、そうではないようです。正直言って、賛成派・反対派両方の主張ともあまり聞かないように思います。どうも捕鯨問題は一般人の目の届かないところで激論をしているようなのですね。次は捕鯨反対派の主張を待ちたいところです。科学的な反論を期待します。
ところで、本書を読んでいて非常に気になったのがNGOに対しての態度です。日頃、いろいろな国際会議でいじめられているのでその恨みがあるのはわかりますが、頭からNGOを信用していないような態度には疑問を持たざるを得ません。
「なぜ日本政府が外国のNGOと交渉をしなくてはいけないのだろうか」(p.216)(注:このNGOとはイギリスWWFのこと。WWFは日本にもWWFジャパンという組織があるのだが、WWFジャパンとなら交渉するのだろうか?)
「そもそも、環境団体は自分たちが何を代弁しているつもりなのだろう。私に言わせれば、彼らは何も代表していない。民衆も、科学も、正義も代表していない。」(p.216)
といった具合で、まるでNGOは口出しをするなと言わんばかりの態度です。クジラ問題に限らず、これが日本政府の基本姿勢なんだろうなと思わせます。
ちょうど4月にナイロビで開催されたワシントン条約会議でも、日本政府が日本のNGO(クジラ取引反対派)のオブザーバー参加を拒否したことが報道されています(朝日新聞(東京版)4月20日付け)。これは自分たちに都合の悪いことは口封じしようとする姿勢なのではないでしょうか。本書は宝島社新書の新刊ですが、この新書シリーズ、以前にも「ブラックバスがメダカを食う」という本を出しており、鋭く対立する動物問題をここでも取り上げています。編集者によほどの動物好きがいると私はみました。こういう時に編集者の名前がわからないのは(同業者として)とても残念です。