Vol. 179(2003/5/22)

[今日のいきもの]世界最悪の動物

Wikipediaからこのページに来られる方が多くなっていますが、必ず最後まで文章をお読みください。そこまで読まなければ本当の趣旨はわからないようになっています。

以前、自然環境に絶対悪はいないと書いておきながら「世界最悪の動物」を取り上げるとは矛盾しているようなのですが、それでも「最悪」と呼ぶにふさわしい動物がいるのです。「世界最悪の動物」と聞いてあなたはどんな動物を想像しますか?

その動物とは「ヤギ」です。そう、あのメーメーヤギさんです。おとなしいヤギのどこが最悪なのか、と思われるかもしれませんが、日本での例を挙げてみましょう。
小笠原諸島の無人島の聟島(むこじま)、媒島(なこうどじま)、嫁島(よめじま)、西島(にしじま)では野生化したヤギ(野ヤギ)が生息しています。有人の父島などにも生息しています。これらのヤギは、文字通り根こそぎ植物を食い尽くしてしまうため、植生が破壊され、土壌が露出する事態になっています。その結果、土壌が海に流れ出し、サンゴ礁や漁場が深刻な被害を受けたり、鳥類の繁殖場所がなくなったりしています。特に小さな無人島では野ヤギ被害が深刻なものになります。
現在は東京都建設局が野ヤギの捕獲を行っており、数は減りつつありますが、完全な排除がいつになるかは見当もつきません。なお、捕獲された野ヤギは生きたまま業者に引き渡しています(愛護団体の抗議によって、殺処分はとりやめられたようです)。

日本国内では他にも八丈小島、尖閣諸島の魚釣島で同様の被害がおこっています。国外では、ガラパゴス諸島、ハワイ諸島という例があります。ガラパゴス諸島では、植物食のガラパゴスゾウガメと競合しており、影響が非常に心配されています。今はどうなっているかはわかりませんが、以前は「○○島に上陸した時には、ヤギ1頭を捕まえて食べること」という指示が出ていたそうです。

家畜種としてのヤギ(Capra hircus)は、野生種を人間が改良して作り出したものです。元になったのはパサン(Capra aegagrus、ノヤギ)などとされています。パサンは中東に分布しているので、ヤギもこの地域で生まれたのでしょう。

*まぎらわしい語だが、本記事では「野ヤギ」=「野生化したヤギ」という意味で使っており、「ノヤギ(パサン)」のことではない。

ヤギは、肉を食べるため、乳製品を利用するため、あるいは毛を利用するために飼育されています。日本でよく知られているのは乳用のザーネンという品種です。長毛で有名なカシミアもヤギの一品種です。

ヤギに近い植物食動物にはヒツジやウシなどがいます。しかし、これらの動物がヤギのような被害を起こしているという話は聞きません。ヤギのどこが問題なのかというと、植物を根こそぎ食べてしまうことにあります。普通、植物食動物が食べるのは葉の部分だけであったり、柔らかい若芽だけであったりするものです。が、ヤギはそういった部位にはこだわりなく食べ、根までも食べてしまうのです。そのため、ヤギが食べた場所では植物の再生ができなくなってしまうのです。広い場所ならば、新たに種が発芽し、成長するまでの時間の余裕があるのですが、狭い島では再び生えてきた新芽もすぐに食べられてしまうため再生が困難になってしまいます。
また、大陸から離れた島には大型の動物食動物(オオカミなど)がいないため、ヤギの数は増えるばかりになってしまうのです。

ヤギのこの性質は、つまり、自らの生存のために必要な環境(植生)を破壊してしまうということです。これは明らかに異常としか言いようがありません。自らの生存環境を無制限に破棄する動物は、他には存在しないでしょう。人間を除いては。
この最悪の動物を作り出したのは人間です。そして、小さな島々にこの動物を持ち込んだのも人間です。
ということは、本当の最悪の動物というのは、実はヤギではなく…。


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