Vol. 210(2004/2/15)

[OPINION]牛丼は惜しまれるほど優れた食べ物か?

米国のBSE発生の余波で、外食チェーン店の牛丼が打ち切りになった、というニュースが今週は目立ちました。新聞では牛丼店の様子を書いた記事が何回か載りました。テレビのニュースでも「牛丼販売中止の瞬間」の映像が流れてました。
牛丼店には「最後の記念に」とお客が増えたようです。新聞記事によると、「牛丼は国民食」「牛丼は日本の食文化」「牛丼はデフレ時代の食べ物」といった言葉が並んでいて、牛丼を誉めたたえています。ついには、牛丼休止に逆ギレして暴れて逮捕された人も現れる始末です。
何だか突然に牛丼が賛美され始めたみたいです。が、だからこそよく考えてほしいのです。牛丼はそんなに優れた食べ物だったでしょうか?

牛丼の材料を見てみましょう。米に牛肉にタマネギ。これだけ。栄養の観点から見ると明らかに不十分です。スープに何か秘密があるかもしれませんが、分量も少なし、特に宣伝する様子もないところを見ると、特別な何かがあるとは思えません。牛丼にタマゴと生野菜を付けて、ようやく栄養的なバランスがとれそう、という感じです。
牛丼はそんなに誉めたたえるほどの食べ物ではありません。新聞記事によると「3食牛丼食べてました〜」なんて言ってる人もいたようですが、かなり不健康な感じですね。「国民食」とか「食文化」などという表現は、今の日本の食文化の貧しさを象徴しているのではないでしょうか。

さて、この「いきもの通信」は動物・生物の話題をいつも取り上げています。今回、牛丼を取り上げているのは、「牛丼」→「牛肉」→「ウシ」という理由ではありません。「動物は何を食べているのか」という観点から牛丼を見てみたいのです。
ヒトをひとつの動物として見た場合、その生態から考えて、特定の食物に依存すること、特に肉にこだわることはおかしなことです。ヒトは雑食を選んだ動物です。詳しくは「Vol. 107 [今日の勉強]動物食と植物食 その1/肉ばかり食べるライオン、草ばかり食べるウシが偏食にならない理由」「Vol. 108 [今日の勉強]動物食と植物食 その2/第3の道、「雑食」」に書いてありますのでそちらをご覧ください。
雑食であるということ、それはいろいろなものを食べてさまざまな栄養を摂取するという生態なのです。牛丼という、栄養に問題がある食品ばかりを食べたところで何の自慢にもならないのです。まして、これを「国民食」などと表現するなんて、動物学的に相当ずれているとしか言いようがありません。
某牛丼チェーン店は、牛丼を中断した今でも牛丼単品を販売する「単品経営」を自慢し、あきらめていないようですが、これもよく考えるとおそろしいことです。日本全国(さらには世界中?)の人々に牛丼だけを食べさせようというのですか? これではもう「食生活の破壊者」です。
(ラーメンの場合は多種多様なバリエーションが共存しているため、まだ健全だと言える。)

牛丼も(その他ファストフードも)たまに食べるのはかまいません。でも、毎日食べるものでもありません。
もっといろんなものを食べようよ。それがヒトという動物としてのあり方なのです。

さて、牛丼を断念せざるをえなかった外食店では代替の新メニューも、豚丼とか焼き鳥丼とかいろいろ登場しています。ところが、鳥肉は鳥インフルエンザでまた使えなくなるかもしれない、豚も鳥インフルエンザに感染する可能性があるのでこれまた安泰ではない。結局、同じようなことが繰り返されそうな気がします。それでまた外食産業は悩むわけです。でもですね、皆さん、肉にこだわり過ぎなのではないですか?
そこで、私が提案する新メニューは

「生野菜丼」「野菜炒め丼」

です。いや、冗談ではなく、本当にどこかがやってくれないかなと思っています。
他にはですねえ、「キノコ丼」とか「チーズ丼」とか「ヨーグル丼」はどうだ! ただキノコだけ、チーズだけ乗せても栄養的にも味的にも不合格ですから、他にもいっしょにいろいろな具を乗せてくださいね。
「そんなの食えるか!」という人はきっと多いでしょう。そんなのわかってます。ただ具を乗せるだけでは何のひねりもありませんし、味も大したことはないでしょう。しかし、それを上手においしく栄養的な食べ物として提供するのが外食産業の役目なのではないでしょうか。牛丼単品メニューを自慢するのが外食産業の使命ではないはずです。
もっといろいろな「食」を提供してください。私はそれを期待しています。


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