[ON THE NEWS]
2月7日朝、北海道・知床半島の相泊漁港付近でシャチのの群れが流氷にはさまれ動けなくなっているとの連絡が羅臼町役場にあった。職員が確認したところ、計12頭が流氷に閉じこめられ動けなくなっていた。オス1頭、メス6頭、子ども5頭と判断された。メスの1頭は8日に自力で脱出に成功したが、他はすべて死亡した。
死亡したもののうち、その後に陸揚げできたのは9頭。これらは解体され、臓器などが研究機関に引き渡された。
(SOURCE:朝日新聞(東京版)など)[EXPLANATION]
ちょっと古くなった事件ですが、何か書いておかなければと思い、取り上げることにしました。
シャチと氷の海とはイメージが結びつかないかもしれませんが、シャチは北極海から南極海まで、地球上のほぼ全海域に生息してる動物です。クジラ・イルカ類の中でも最も生息範囲が広いと考えられています。そういえば昔、「オルカ」という映画がありましたが、そのクライマックス・シーンは氷山の浮かぶ氷海でした。この映画は当時大人気だった「ジョーズ」の二番煎じという感じの映画でして、ストーリーもいまいちのものでした。DVDは出ていないみたいですね…。今この映画を見ることはできるんでしょうか?
シャチは英語で「killer whale」=「殺し屋クジラ」と言われており、凶暴なイメージがありますが、シャチ以外のハクジラ(歯クジラ)類も食べるのは生きた動物ですのでシャチが特別に残酷というわけではありません。まあ、シャチは自分より大きなクジラを狙うこともあり、そのことが強調されて残酷・凶暴というイメージが作られたのでしょう。
それはさておき、世界の海をまたにかけるシャチですが、彼らは世界中の海を放浪しているわけではありません。シャチの行動調査から、シャチには「レジデント(resident)」と「トランジェント(transient)」という2つのタイプの家族群があることがわかっています。「レジデント」とは「定住性」という意味で特定の海域に定住している家族群のことです。「トランジェント」とは「移動性」という意味で、広い海域を移動している家族群のことです。シャチは基本的には家族単位(同族単位)で行動をしています。
今回の事件のシャチがレジデントだったのかトランジェントだったのかははっきりしません。たまたま流氷地帯に迷い込んだトランジェントだったようにも思えますが、これは私の勝手な推論です。今回の事件は不幸な偶然にまきこまれたものですが、ニュースを聞いてクジラやイルカが海岸に座礁する事件を思い出す方がいるかもしれません(参照:Vol. 41(2000/4/16) [今日の事件]マッコウクジラ座礁事件/あのクジラを救出する方法はあったのか?、EXTRA 2(2000/10/8)「季刊Relatio」連載「動物事件の読み解き方」補足 第2回 マッコウクジラ座礁事件)。確かに今回の事件は陸地に乗り上げる「座礁」ではありませんが、広義の意味では「座礁=ストランディング」に含めてもいい事件でしょう。狭義のストランディングはイルカ・クジラが陸地にのりあげることです。広義のストランディングは海棲哺乳類の危機的状況、例えば漁網にかかったクジラ・イルカや親からはぐれた赤ちゃんのアシカ・アザラシ類、本来の生息地を遠く離れた場所に現れたアシカ・アザラシ類(タマちゃん事件)といったことまで含めていいでしょう。
ストランディングについてはタマちゃん事件の時にも詳しく書きましたが、それに対応できる組織が日本にないのは非常に残念なことです。こういう時にすばやく対応できれば救える命であったかもしれません(参照:Vol. 166(2003/3/23) [OPINION]タマちゃん騒動を繰り返さないために/ストランディングオペレーションセンター創設の提言)。
今回のシャチの死体は陸揚げされ、研究に提供されたそうで、それはそれで役に立つことにはなるのですが、陸揚げできるほどの状況ならば、閉じこめられた時にすぐに流氷を割るぐらいのことはできなかったのかという疑問もあります。私は現場の状況を知らないのでこれ以上強く言うことはできませんが、海棲哺乳類をレスキューする、ということにもっと多くの人が関心を持つようになれば、と私は思います。