Vol. 370(2007/7/22)

[今日の事件]アザラシかみつき事件

野生動物は危険なんです

北海道豊頃町の大津漁港に現れるゼニガタアザラシの「コロちゃん」が人間にかみつくという事件がありました。朝日新聞東京版(2007年7月8日)によれば、ズボンの上から太ももをかまれて軽傷とのことです。それより前の6月30日にも人間がかまれる事件が発生していますし、別の報道によれば他にも1人かまれたようです。


今回の話の中ではアシカとアザラシが登場しますが、これらの違いについては「Vol.164[今日の常識・非常識]アシカとアザラシ、どう違う?」をご覧ください。


今回の事件でまず思ったのは、野生動物をぬいぐるみか何かと勘違いしているのではないか、ということです。アザラシはおとなしそうですのでなおさらそう見えるのでしょう。しかも今回のコロちゃんはこれまでもずいぶんさわられたりしてきたのですが、特に問題は起こらず、みんな安心して油断していたようです。
しかし、アザラシは必ずしもおとなしい動物とはいえません。アザラシも、それからアシカも、私はおっかなくてとても近づけません。水族館などでショーをしているのはカリフォルニアアシカのメスです。他のアシカ類(オットセイなども含む)やアザラシ類も芸を見せることがありますが、これらの動物は芸の飲み込みの早さだけではなく、個々の性格の従順さも見極めながら訓練をしているのでああいうことが可能なのです。慎重に訓練された飼育個体に対して、野生動物はそうはいきません。野生動物もおとなしいと思い込むのはかなり危険です。
コロちゃんもたまたま性格がおとなしかったと考えるべきで、やはり我慢の限界を超えれば怒ってしまうのも無理はありません。

アシカ、アザラシは魚が主食です。海中を泳ぎながら魚を口でつかまえるわけで、アゴの力が強いものであることは容易に想像できます。ですから、アシカ・アザラシに不用意に接近するのは危険なのです。
また、アシカ・アザラシが陸上で休憩しているところへ近づいて、わいわい騒がれたりさわられたりしたら怒りもするでしょう。野良猫や野良犬でも不用意にさわろうとすると引っかかれたりかみつかれたりするのと同じことです。
また、あまり知られていないことですが、アシカ類は「走る」ことができるのでかなり注意しなければなりません。もちろん、走る速度は速いとはいえませんが、巨体(オスは体格が大きい)をゆらして吠えながら追っかけてこられるとかなりの恐怖です。
アザラシ類では後脚に注意しなければなりません。というのも、アザラシが泳ぐ時の推進力は後脚で得られるものであり、かなりの力強いものだからです。ですので、後脚の近くに接近するのは避けなければなりません。

アシカ・アザラシでなくても、野生動物というのは気楽につきあえる相手ではありません。かみつかれたり突進されたり、といった危険を伴う相手です。
最近はテレビやフィクション(つまり絵本や童話やマンガのこと)の影響が強く、「動物は友達」という感覚が広まっているように思います。テレビではタレントが珍しい動物を飼育する番組があったりして、動物に対する危険性への認識が甘くなっているように感じます。フィクションでは動物を理想化していて、同じように認識を甘くさせています。
また、生活の中で実際に野生動物と相対することが非常に少なくなったために、野生動物の危険性がわからない人が多くなっています。
ですから私ははっきりと言います。野生動物は気安く友達になれるような相手ではない、と。


さて、今回の事件に話を戻しましょう。
現場の状況がどのようなものだったのかはわかりませんが、誰でもアザラシに近づけるような状況だったとしたら、かなり問題があります。アザラシがいる場所には近づかないように「立入禁止」にするぐらいのことをした方がいいでしょう。
もし現場が立入禁止になっていたとして、観光客が勝手に入り込んだのならば、それはケガをした観光客が悪いことになります。いや、立入禁止でなくてもやはり悪いのは観光客でしょう。アザラシは誰かが管理しているわけでもないのすから、責任をとらせる相手はいません。アザラシを傷害罪で訴えることもできません(法律というのは人間だけが対象になるものなのです)。
結局のところ対策は、「野生動物が相手ならば油断してはならない」ということに尽きます。


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