Vol. 388(2007/12/2)

[今日の勉強]レッドリストはわかりにくい

希少な動物、絶滅の危機に瀕した動物を紹介する時に、その絶滅のおそれを示す尺度としてよく「絶滅危惧IA類」「準絶滅危惧」あるいは「CR」「EN」という言葉で表現されます。詳しくない人でもこれは何か基準があって、それに基づいたものなのだろうな、ということはわかるでしょう。

この尺度はIUCN(国際自然保護連合)によってまとめられている絶滅のおそれがある動植物をまとめた「レッドリスト」で使用されているものです。レッドリスト、そしてそれとよく似たものにワシントン条約がありますが、これらについては過去にも取り上げていますので、まずはそちらもお読みになってください。

Vol.237[今日の勉強]絶滅の危機の指標、ワシントン条約とレッドリスト/ワシントン条約について

Vol.238[今日の勉強]絶滅の危機の指標、ワシントン条約とレッドリスト/レッドリストについて

ワシントン条約は附属書1、附属書2、附属書3の3段階だけで、危急度もこの順序通りなので理解しやすいものです。しかしワシントン条約にも欠点があります。国際的商取引の対象にならないものは記載されないこと、附属書記載には国際政治上の駆け引きに左右されること、です。つまり網羅性と客観性が劣るのです。

さて、もう一方のレッドリストでのカテゴリー分けは次のようになっています。これはIUCNレッドリストの「2001 Categories & Criteria (version 3.1)」によるカテゴリーです。

EX (Extinct) 絶滅
EW (Extinct in the Wild) 野生絶滅=飼育下でのみ生存
CR (Critically Endangered) 絶滅危惧IA類(直訳すれば「かなりの絶滅危惧」)
EN (Endangered) 絶滅危惧IB類(直訳すれば「絶滅危惧」)
VU (Vulnerable) 絶滅危惧II類(直訳すれば「影響を受けやすい」)
NT (Near Threatened) 準絶滅危惧(直訳すれば「危機に非常に瀕した」)
LC (Least Concern) 軽度懸念(直訳すれば「最小の影響がある」)
DD (Data Deficient) 情報不足
NE (Not Evaluated) 未評価

これらには詳細な定義がされているのですが、ここでは省略します。

レッドリストは科学的な基準で動植物を網羅している客観的な指標ですので、非常に有用なものです。しかし欠点もあります。それは「絶滅危惧IA類」「準絶滅危惧」「CR」「EN」という用語がわかりにくいことです。階級の数が多く、どれがどのぐらいの順位なのかが判別しにくいのです。

例えば新聞記事の中で、ある動物が「EN」だ、と書かれていたとして、その絶滅の危機がどれほどのものかすぐにわかる人はいないでしょう。「え〜っと、ENは上から4番目のカテゴリーだから、うわあ、こりゃすごい希少動物だ!」なんて反応する人はまずいません。私でも順序なんて覚えてませんよ。普通の人だと「あー、よくわかんないけど、珍しいんだね」でスルーしてしまうことでしょう。

このわかりにくさはなんとかしてほしいものです。そこで提案したいのです。このカテゴリーに数字で順序付けするのはどうでしょうか。具体的には次のようにします。

EX絶滅→Rank0
EW野生絶滅→Rank1
CR絶滅危惧IA類→Rank2
EN絶滅危惧IB類→Rank3
VU絶滅危惧II類→Rank4
NT準絶滅危惧→Rank5
LC軽度懸念→Rank6

絶滅してしまったものは元に戻せないので「0」という数字を割り当てています。「生息数ゼロ」という意味も兼ねます。DDとNEは評価が未確定のものなのでランクには入れないことにします。
どうでしょう、カテゴリーの定義はまったく変更していませんが、こう表現するだけでずいぶんわかりやすくなりませんか? Rankは6段階あって(Rank0は除く)、数字が少ないほど絶滅の危機が高いことになります。
Rank1は野生個体がいないということですから、今から生息地を保全したところでもはや手遅れ、といっていい状態です。よって、実質的にはRank2、Rank3あたりが最も注意すべきランクになります。

それぞれの表記を並べてみましょう。
まず、現行の表記で書くとこうなります。


ローランドゴリラ、スマトラオランウータン、シフゾウ、ヨウスコウカワイルカはCR(絶滅危惧IA類)。
トキ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ、チンパンジー、トラ、グレビーシマウマはEN(絶滅危惧IB類)。
ライオン、アフリカゾウ、ホッキョクグマ、ガラパゴスゾウガメはVU(絶滅危惧II類)。


これをRankに置き換えるとこうなります。


ローランドゴリラ、スマトラオランウータン、シフゾウ、ヨウスコウカワイルカはRank2。
トキ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ、チンパンジー、トラ、グレビーシマウマはRank3。
ライオン、アフリカゾウ、ホッキョクグマ、ガラパゴスゾウガメはRank4。


さて、どちらの方がわかりやすいでしょう。単純に数字でランク付けした方が理解しやすいと私は思うのです。


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